第七十三話 『特訓と疑念』
「みんなに見られながらの訓練は、ちょっと恥ずかしいな」
兄は、グリムヘッドの操縦席に乗り込む前に、そう呟いた。
見学しているのは、オレ、姉さん、チスタ、アマーリエ様、そしてヒュリエ。
ここは格納庫の隣にある訓練場。
広大な敷地で行われる動作訓練の最中だった。
今から兄は、格納庫から訓練場へと機体を移動させようとしている。
この一週間は、腕の動作確認。
その場での足踏み。
などなど、初期動作の訓練を繰り返していた。
その様子を見た整備士や試験操縦者が父に報告。
そして、外での訓練許可が下りた。
訓練の第一段階は、軽く外周を何周かすること。
次に、等間隔に立てられた丸太の間をジグザグに移動。
それに慣れれば、次は走行訓練。
素早くステップを踏みながら移動するなど、様々な動作を繰り返しながら、機体の動きに慣れていく。
見た目は重量感のある機体だ。
そのため、動きももっさりしていると思っていた。
だが、実際の動きは見た目ほど重さを感じさせない。
ストライカーも以前、グリムヘッドの重量を推測していた。
「七メートル級なら、軽くても十五トン。重ければ三十トン以上と推測します」
しかし、実際の動きからは、それほどの重量は感じられない。
それは、ストライカー自身も不思議に思っていた。
前にミューオンを使って内部を調べた時、意外にも『内部の密度が希薄だった』と語っていた。
「あのような内部構造で、なぜ動けるのでしょうか?」
ストライカーはそう疑問を抱いていた。
そして、本来機密であるはずの『グリムヘッド』の訓練に、オレたちが立ち会っている理由がある。
それは、兄を補佐するようオレが父に頼まれたからだ。
ブラックバード家の二人はすでに家の『グリムヘッド』についても知っているため、公開しても問題ないと父が判断した。
では、なぜ父は兄の補佐役としてオレを選んだのか?
それは、兄がオレに、父からの課題について尋ねたときの話に遡る。
あのとき、オレは兄にこう言った。
「道を整備するなら、まずは硬く安定している場所は後回しで、道の悪いところから始めて、人が多いなら、屋敷からと目的地から、それぞれ別々に整備を進めるべきだと思う。その前に、まず道の状態を調べて、悪路の部分から改善していくのがいいんじゃないかな? ついでに、水はけのことも考えながら進めるべきじゃないかな?」
オレの意見に、ストライカーも同意した。
「そうですね。フィルの言うとおり、まずは道の状態を調べ、悪路から整備するべきですね」
兄はそれに同意し、そのまま父に伝えた。
報告を聞いた父は、満足げにこう言った。
「おまえを当主にしたのは間違いじゃなかったな」
だが、兄の心中は複雑だった。
自分で考えたわけではなく、フィルやストライカーの意見をそのまま伝えただけなのに、それを自分の功績にするのは耐えられない。
そう思った兄は、その全てを父に話した。
――馬鹿な兄さんだ。
別に、誰が考えても問題ないのに。
なんなら、家臣の誰かに尋ねても同じことを言う人間など、いくらでもいるはずだ。
それを自分の手柄じゃないと思うのは違う。
誰かの意見を聞き、それが一番有益かどうかを判断するのが兄さんの役目だ。
それでいいのにな……ほんとに。
そして兄は、そのまま魔物討伐のことも全て父に話した。
それによって、胸に支えていたものがなくなった気がしたらしい。
――ほんとに……馬鹿だな……でも……兄さんらしい。
それを聞いた父は「そうか……」とだけ言い、
「……もう魔物討伐の功績は、おまえのものになっている。今さら訂正しても、誰も納得はしない。ならば、今回の模擬戦で勝ち、それを証明することだ――いや、しなければならんっ。そうすれば、誰も疑わん」
そう静かに告げた。
兄は気持ちがすっきりしたのか、「はいっ!」と力強く答えた。
そして、次にオレが父に呼ばれたのだった……
――いい迷惑である。
今さらになって、オレに何の用がある?
これまで、オレには何の期待もしてこなかったくせに……
いや、むしろ北方に兵士として送り出し、切り捨てようとしたくせに……
だが……断ることもできない。
オレは父の執務室へ向かった。
扉の前でノックし、「失礼します」と一言告げる。
「入れ」との声が返ると、一応の礼を取って部屋の中に入る。
父は執務机の書類に目を通していた。
だが、すぐに手を止め、静かにオレに目を向けた。
そして、兄からの報告の真偽を確かめるように口を開く。
「アルトメイアから、おまえが魔物を討伐したと聞いた。本当に、おまえが一人で倒したのか?」
兄は、自分が無茶をして森に入り、グルーム・ストーカーはなんとか倒したものの、他の魔物はオレが倒して助けられたことをすべて話していた。
だからこそ、父は疑問を抱いてる。
本当に、フィルにそんなことができるのか――と。
まあ、当然だろう。
魔法も使えない。
剣が多少使えるだけで、強大な魔物を倒せるなど、普通は思えない。
オレが他人の話として聞いても、到底信じられないだろう。
けど、本当のことを話すわけにはいかない。
ストライカーの存在も、話さなければならなくなるからだ。
そんなオレに、父はさらに踏み込んできた。
「……ワシは、おまえがそんな力を持っているとは思えん。だが、もし本当にできたのなら、その力はどこで手に入れた?」
父は鋭い視線を向け、オレを探るように値踏みしてきた。
だが、そんなことは話せない。
話したくもない。
ストライカーのことを知られるわけにはいかないからだ……
だから、オレは口をつぐんだ。




