第六十八話 『ストライカーの解析結果』①
「では、初めにフィルは二重スリット実験を知っていますか?」
そうストライカーは言う。
なんか、何かで聞いたことがある気がするが、よくは知らない……
「どこかで聞き覚えはあるのだが、良くは分からないかな……」
「……了。では、そこから説明を始めましょう。まず二重スリット実験とは、トーマス・ヤングが1801年に行った実験から始まります。彼は、光が粒子ではなく波のように振る舞うことを示すために、この実験を行いました――」
そこから少し長い説明が始まった……
「では、まず二重スリット実験を少し例えてみましょう。スリット、つまり切れ目をつけた壁があるとします。そのスリットの間に何かを通すように……たとえばボールを投げたとしましょう」
「え、ああ……」
「この場合、ボールはスリットを通過して、後ろにある壁のどこかに当たるかわかりますか?」
「そりゃ、もちろん、その切れ目の延長線上じゃないか?」
「そうです。もちろん、その当たる場所はボールの軌道によって決まるので、壁にはボールが当たるべき位置がはっきりと決まります。これが、物理的な物体の場合の直感的な予測です。わかりますか?」
「まぁ、わかるかな」
「了。しかし、実際にヤングが行った実験では、光や粒子を使った場合、直感的な場所とは異なる場所に現れたのです」
「どういうことだ?」
「例えば、右端に現れたかと思うと、今度はその右端の少しずれた左側、そうかと思えが左端に現れたりとか、まるでどこに現れるか検討がつかないのです。どれも、通ったスリットは同じ場所なのですがね」
「意味が分からないのだが……」
「そうです。ワケがわからない現象が量子の世界では日常なのです。そして、科学者は考えました。「これは、どういうことなのか?」と。そこで、まずは光の特性に注目しました」
「光は波の特性を持つと知っていますよね?」
「え……そこまでは詳しくはないが、そんな感じだったかも」
「まぁ、その認識で大丈夫です。波同士がぶつかると、強くなったり、弱くなったりしますよね? それを『干渉』と言います。では、光の粒子(光子)をスリットに通すと、光が波のように振る舞います。光子がスリットを通ると、まるで波のように広がっていき、その広がった波が別のスリットにも影響を与えます。スリットを通った光は波のように広がり、互いに干渉し合いながら壁へと到達します」
「そして、その波のどこかに粒子としての光子が存在し、波が壁に当たった瞬間──つまり、観測された瞬間に限って、粒子の形を取るのです」
「いや、意味がわからないのだが……」
「そういうものだと思ってください。このあたりは明確に説明出来る人なんていないのですから」
「ちょっと、理解が追いつかないな……」
「そうですね。これを瞬時に理解しろと言うのは中々にできませんよ。根本的に何もかもが違いすぎていますから。ですが、光子や粒子はそういうものだと認識だけしておいてください」
「わかった……」
「ちなみに、Aという場所に何%、Bに何%、Cに何%……と、いうふうに確率でその場所に現れることから、確率波とも呼ばれます。そして、その波のどこかに粒子としての存在があるところから「その波のどこにでもあり、どこにもない」という性質から「重ね合わせ」と呼ばれているのです」
「……頭がいたい……ほんとに意味が分からない」
「まぁ、そういうものだと思ってくれているだけでいいですよ。本質はここからです。その説明を踏まえた上でなければ、変な量子がどんなものかはさらに分からないのですから」
「わかった……」
「まず、クァンタムコンバーターで異常をきたすと言うことは、謎の量子と判断しました。そこで、二重スリット実験と同じ原理なのですが、センサーの選定、キャリブレーション、量子系の……詳細な測定手順は省きますが、結論だけ言います」
「うん、そうして……」
「まず、この量子は単一ではなく、複数あったことです。少なくとも三種類。まず一つ目は既存の量子と同じ振る舞いをする量子です。これの説明はまぁ、省きましょう。次に波の状態ではあるが粒子の存在がない量子。これは、さらに不思議です。どのように存在しているのかが気になります。そして最後に、これは極めて危険で、人が触れていいものではないと感じました」
――ゴクリッ
オレはストライカーの言葉に固唾を呑む。
ストライカーの説明に、背筋が凍るような感覚を覚えた。




