第六十七話 『未知なる構造』
ヒュリエがこの屋敷に来てから五日後――
今度はアマーリエ様がやってきた。
「今日からブッシュボーン家でお世話になります、アマーリエ・ラ・ブラックバードでございます。至らぬ点もあるかと存じますが、どうぞ末永いお付き合いをお願いいたします」
そう、丁寧に挨拶をされた。
ヒュリエとは違い、彼女は唐突に到着したわけではない。
事前に書状で滞在の知らせが届いていた。
婚約者として、花嫁修業の一環でこちらに逗留することになった。
その際に、ヒュリエにも「これは、いい機会だ」と。
そんな理由で他家での暮らしを体験させることになったとのこと。
……いい迷惑である。
これは、あれか?
当家では問題児扱いされて、こっちに押し付けられたんじゃないか?
オレはそんな気がしてならなかった。
そんなヒュリエは嬉しすぎて我慢が出来なかったらしい。
そこで、数人のお供を連れて勝手にやってきた。
使用人が止めるのも聞かずに……
それが、突然の訪問だったって話だ……
……いい迷惑である……はぁ……
ヒュリエは元々、元気がよく人当たりもいい。
素直で陽気、好奇心も旺盛だ。
そんなところが受けがよく、使用人たちからとすぐに打ち解けていた。
たまに、それが行き過ぎてうんざりする人もいるようだ。
だが、概ね好評で仲は良くなっていた。
アマーリエ様からは勝手にこちらに来たことを咎められたらしい。
そして、毎日、オレはヒュリエの稽古に付き合わされていた……
しかし……毎日よく飽きもせず出来るものだと関心する。
そこは、少し見習うところかも知れない。
そして、今はひと段落していつも通りにストライカーの元に来ていた。
「問:今日は、鍛錬はしないのですね」
「……ああ、今まで十分やったからな……」
「なるほど、あの子ですか。よかったじゃないですか。想い人と出会えて」
「なぁ、それは嫌味なのか?」
「否:前に気になる娘がいるといってたじゃないですか? 違うのですか?」
「……違わない……が、少し思ってたのとは違っていたよ。はぁ」
「そうですか。何にしても、繁殖の相手に出会えて……」
「おおおぃ! なんで、いきなりそうなるのかなっ!」
「問:違うのですか?」
「えっ……あ……いや……」
オレは肯定も否定も出来ないまま、言い淀んでしまった。
「ああっ! この話題はヤメヤメ! それよりっ! 前に調査したグリムヘッドはどうだったんだよっ!?」
「突然ですね? 話を逸らしたいのですか?」
「それは、もういいからっ! どうだったんだよっ!」
「そうですね。結論から言えば、分からない……いえ、正しくは理解しがたいと言えばいいのでしょうか?」
「どういうことだ?」
「それは――」
ストライカーが言うには、まずあの内部構成で二足歩行が可能な理由が分からないそうだ。
なんでも、ミューオンという粒子を使って内部を観察を行ったらしい。
いわば、レントゲンやMRIのようなものだが、少し違うらしい。
なんでも、ミューオンは宇宙線の影響で常に地球上に降り注いでいる素粒子の一種だ。
X線と違い、原子核に直接干渉するわけではない。
電子を取り巻く空間をすり抜ける。
そのため、鉄や岩のような高密度の物質も透過できる。
それに、ミューオンは電子の約200倍の質量を持つ。
そのため、透過性が極めて高い。
だが、その代わり非常に短時間で崩壊してしまう。
通常は地表に到達する前に消えてしまう。
しかし、高エネルギーのものは地下深くまで届く。
この性質を利用すれば、X線やMRIでは見えない厚い装甲の内部構造を調べることができる。たとえば、ピラミッド内部の未知の空間の発見や、原子炉の損傷状況の解析にも使われた技術だ。
それを応用してグリムヘッドの内部を探ったのだが……
「――生物の人口筋肉のようなもの、頭にある水晶らしきもの、関節部分に円盤型の何かがあること、バックアップに何かしらの機構があることなど、わたしには理解不能なものが盛りだくさんでしたね」
ストライカーは少し興奮気味な気がしたのは気のせいだろうか?
「それだけに興味深いですね。もっと調べたいのですが……チラッチラッ」
「ダメだ……気づかれるリスクが大きすぎる。それに、今はヒュリエもいる……それだけでも、リスクなのに……はぁぁぁ」
「……了。今は我慢しましょう。これ以上はフィルの負担が大きすぎるようです」
「理解してくれて、助かるよ。ストライカー」
「どういたしまして……それと、ちょうどミューオンの話が出たことですし、以前話したエネルギー変換に関わる特殊な量子についてもお話しましょう。知ってもらっている方が良さそうです。ただ、少し専門的になりますが、よろしいでしょうか?」
ストライカーは少し硬い声でオレに言葉を告げた。




