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第六十四話 『英雄祭の幕引き』

 悪態をつきながら、キャメルン男爵は退室した。


 残された者たちは、グランバドルの提案にどよめいていた。


「これは、面白くなってきた」


「これほどの催し物を用意するとなれば、大変な騒ぎになることでしょう」


「グリムヘッド同士の模擬戦など、聞いたことがない」


「わたくし、楽しみですわ。招待状をぜひお送りしてほしいものです」


 など、全員がその提案に興味津々だった。


 グランバドルもその様子に満足していた。


 そして――


「アルトメイア」


 静かに、それでいて威厳に満ちた声に兄は恐縮する。


「お前は、まだまだであるな。あのような小物に翻弄されるとは……」


「……はっ……申し訳ございません、父上……わたくしの失態に、父上のお手を煩わせてしまいました……」


 兄は深々と父に頭を下げる。

 そして、頭を上げた後もアルトメイアは項垂れていた。


 その様子をグランバドルが静かに眺めていた。

 自分の決断の無さと意思の弱さに打ちのめされたようだった。


「もっと、経験を積め。今回のことはいい体験になったな。わたしは模擬戦の日程の予定についての調整を行うため、自室に戻る。あとは任せた。しっかりな」


「はいっ! 父上!」


 そう言うと、グランバドルは模擬戦について貴族たちに囲まれる。


「まだ、実施するかどうかも分からぬことですので、何も言えませんよ」

 

 と言いながらも、ニヤリと笑いながら、


「ですが……もし、実施されれば壮大な催し物になるでしょう」


 そう言うと、


「「「おおおっ、是非とも実現して欲しいものです」」」


 と、口々に声を発するのだった。


 こうして喧騒の余韻を残しつつ、夜は静かに幕を下ろした――


 後で、聞いた話だが、翌日、兄は部屋でふさぎ込んでいたらしい。

 だが、アマーリエさんが励ましてくれたと聞いた。


「わたしもアルトメイア様もこれからではございませんか? ですので、お互い足りない部分を補い、失くしていきませんか?」


 と、手を取ったそうだ。

 ……十二歳とは思えない振る舞いだな。


 そして、ヒュリエもお小言をもらったらしい。


 そらそうだよな。

 いくらなんでも、やりすぎだ。


 そう思わなくはない。

 だが、あの男爵とのやり取りは胸のすく思いになったのは確かだ。


 やりすぎるところはあるが、ああいうところは好ましいと思える。

 ……なぜだろうか?

 たぶん、オレには絶対に出来ないことを平然と行えれる事が羨ましいのかもしれないな。


 それよりも父だ……


 ――オレでは状況を収めるどころか、兄を助けることすら出来なかった……


 その思いが胸に広がり、悔しさが込み上げてくる。

 自分の無力さが痛いほどに感じられた。


 だが、それと同時に、父の振る舞いが頭をよぎる。

 あの冷徹で、理路整然とした態度。

 悔しいが、あのような振る舞いが出来る父を認めざるを得なかった。

 それが、自分にとってもっとも悔しかった。


 そして、認めたくはないが、同時に尊敬の念も抱いていた。

 それがまた、どうしようもなく悔しかった。


「どうしてオレにはできないんだ?」


 心の中で問いかけても、答えはなかった……


 ――そう、考えながら満天の星空の元、庭を散策していた。


 そして、ふと庭と屋敷に繋がる階段に座り込んでいる人影を見つけた。


 あれは……あの、服装……ヒュリエか?


 なんだか、オレが知っているヒュリエと違和感がある。

 この違和感はなんだろうか?


 夜闇の中、赤と白のドレスは月光を受け、淡く揺らめいていた。

 その衣装に包まれた少女は膝を抱え蹲っている。


 そうか!


 オレが出会った、あの陽気で無邪気なヒュリエ。

 だからこそ、今の彼女の沈んだ姿が、ひどく異質に感じられたからか。


 しかし……


 何があった?

 何か、落ち込んでいるように見えるのだが?


 う~ん……

 声を掛けるべきなのか?


「………む~……」


 オレはしばらく、どうするべきか悩んでいた。

 そんな時に、ヒュリエが顔を上げてこちらを見る。


「……っ!」


 オレは息を飲んだ。


 なぜなら……


 いつもの楽しそうなヒュリエではなかった。

 何かに落ち込み、泣いていたのだろうか?

 彼女の目元には、消えぬ涙の痕が残っていたのだから――


 その儚げな表情に、言葉を失った……


 フィルに気づいたヒュリエは、少し驚いたように目を見開いた。

 だがすぐに顔を逸らし、裾で涙を拭う。


「……み、みた?」


 その声は、気まずさと誤魔化しが混じったようなものだった。


「え……あ、うん……ごめん」


 あれ?

 なんで、オレは謝っているんだ?


 ……ああ、見ちゃいけない気がしたからか?


「……な、なんでフィルが謝るのよ」


 ヒュリエは気恥ずかしそうに話す。

 まるで、誤魔化すように少し明るいトーンで。


「え? ……なんでだろ? 謝るのがいいかなと思ったから?」


 オレも、気を利かせて明るく返した。


「な、なによそれっ! なんで疑問形なのよ。あはは」


 ヒュリエは出会った時と同じように笑う。


 うん、やっぱり、笑っている方がいいな。

 ……でも、さっきの儚げな感じも……艶っぽくて……


 って! 何言ってるんだっ!? オレはっ!


 相手はまだ十才くらいだぞっ!

 あれ……? オレってもしかして……いやいや!

 ない、ないはず! ないよね……?


「はは……なんか恥ずかしいところみられちゃったな……」


「恥ずかしかったのか?」


「そら、そうよ……落ち込ん……な、なんでもないっ! あ! わたし、そろそろ行くねっ! じゃ、じゃあ、これからもよろしくねっ!」


 そう言うと、ヒュリエはパタパタと小走りで屋敷の中へと戻っていった。


 それにしても、彼女の目元に残る涙の痕が気になる……何かあったのだろうか?


 って、それより、「これからも?」って何のことだ?

 そういえば、名前を言った時もそんなこと言っていた気がするな……


「………」


 まぁ、いいか。


 だが、そのことの意味を知るのにさして時間は掛からなかった。

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