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第六十一話 『罠』

 ――グリムヘッド同士の模擬戦はどうでしょうか?


 そう、キャメルンは言った。


「どうでしょうか? この提案は?」


 キャメルンはうすら笑いを浮かべる。

 この提案に引き込みたいのだろう。

 だが、断るなら断っても構わない。

 それはそれで、アルトメイアの臆病さを喧伝できる。

 そういう意図が見え隠れするようだった。


「どう……と、言われても、わたしはグリムヘッドなどに乗ったこともない。これから、やっと訓練を始めるところです。それで、模擬戦などできようはずがございません」


「たしかに、わたくしも今年に入り、やっと訓練を始めたばかりです」


「ならっ……何故、そのような提案を?」


「そう、そこです。ならば、お互い、慣れたあたりで模擬戦などいかかでしょうか? むしろ、実践の場があることで訓練の成果が明確になりましょう。しかも実戦形式により、具体的に足りない部分も見えるでしょう? それは、これからの進歩に役立つはずです。そうは思われませんか?」


 ――数時間前、貴族控え室の一部屋で。


「ブッシュボーン家の無能貴族がっ! 小倅がすこし功績を立てたからと言って図に乗りよってぇぇ!! 何が伯爵家だっ! 虫唾が走るわっ!」


 ハースリア家現当主『バルバス・ハースリア』は、激高した。


 ハースリア家は昔から、ブッシュボーン家に不満を抱いていた。

 どちらも子爵家であり、常に一・二を争う立場にあった。


 しかし、貴族社会のしがらみの中、表向きは友好的な関係を装っていた。

 だが、裏ではハースリア家こそが 「反ブッシュボーン派の中心的存在」 だった。


 そんな中での、ノービスとマジェスティの格差。

 両家は同じ子爵で同格。

 だが、ブッシュボーン家にはグレードの高いマジェスティが下賜された。


 例え、ブッシュボーン家では大型魔獣の被害出ている。

 だからと言って、この待遇差にバルバスは承服しかねていた。

 それに加えて今回の「伯爵」への陞爵(陞爵)

 納得など出来るはずがなかった。


 だが、陛下の命令とあれば、表向きには従うしかない。

 仕方なく納得したふりをしてきた。

 だが、心の内では嫉妬が激しく渦巻いていた。


 普通なら、不満は陛下に向くものだ。

 しかし、バルバスは陛下に忠誠を誓っている。

 故に、その矛先はブッシュボーン家へと向かうのも当然だった。


 それ以外にも、不満はあった。

 グランバドルの不遜で傲慢な態度。

 それが、さらにバルバスの苛立ちを募らせていた。


「なにが、この度の功績だっ! 我々も、それくらいの功績は立てておるわっ! それを十歳の子供が成し遂げたと、鼻にかけおってっ!」


 部屋の主導権を握るバルバスが、激昂する。


「まったくですな。そもそも、あの功績とやらも本当に奴の力によるものなのか、疑わしいものです」


 そう言ったのは、シュトラール男爵家の当主、エーリッヒだ。


「欺瞞の報告など語りおってからにっ! たかだが、十歳の子供にできるわけがなかろうがっ!」


 ――ダンッ!


 バルバスは拳を振り上げ、机に叩きつけた。

 怒りに震えながら悪態を吐く。


「ええ、まったく。どうせ裏で誰かが手を貸したに決まっております。ブッシュボーン家の猿芝居に過ぎませんな」


 ワルデック家のロルフが鼻で笑う。


「しかも伯爵家とは――このままでは我々の立場が危ういではないか」


 カルステン子爵が静かに言ったが、その声には苛立ちがにじんでいた。


「陛下が決めたこととはいえ、やりすぎです。子爵家から伯爵家へ、たった一代で昇格など、前例が少なすぎる」


 ヘルマン子爵家のラウレンツが呟く。


「これは看過できませんな」


 最後に低い声で言ったのは、モルツェ子爵家のクルトだった。


「当然だ! 認められるわけがない! くそっ……どうにかして、あの傲慢なグランバドルを引きずり下ろさねば……気がすまぬっ!」


 バルバスは怒りに肩を震わせ、拳を硬く握り締める。


「しかし……どのようにすれば……」


 バルバスは考え込む。


 その時、今年十五才になった息子であるキャメルン男爵が口を開いた。


「……父上、この場に口を挟む無礼をお許しいただけますでしょうか?」


「なんだっ! つまらぬことなら許さんぞっ!」


「ご安心を。わたくしに良い案があります」


 ――十分後。


「……そのようなこと、陛下がお認めなされるだろうか?」


「ははは……ご安心を。その時は、別の策を講じますよ、父上」


「しかし……仮にお認めなさったはいいが、ほんとにおまえは勝てるのか?」


「あははは、ご心配召されるな父上。表向きはわたくしも訓練に入る時期ですが。お忘れではございませんか? わたくしは人知れず、四年も前からバウンサーを駆り、父上に変わり魔獣を討伐してきたではございませんか」


「おおっ! そうであったな。それだけの優位性があるのだ、例え、相手の機体が格上とはいえ、初心者に負けるはずはないだろう」


「そうでございますよ、父上。あの生意気なグランバドルの小倅を叩き潰して、我がハースリア家の名を世に知らしめるのですよ」


「わかったっ! 全てはお前の采配に任せるっ! こ憎たらしいブッシュボーン家に目にものを見せよっ!」


「御意。父上のお心のままに――」


 キャメルンはそう嘯き、優雅に笑った。


「素晴らしい、さすがバルバス殿の御子息様。お若いのにご立派でございます」


「さすがですな。用意周到、そして果断なお考え。これほどの手腕をお持ちとは、まことに頼もしい」


「まったく、将来が楽しみな御方ですな。バルバス殿が誇りに思われるのも無理はありません」


 周りの貴族たちも、キャメルンの策謀に関心するのだった。


 (策は整った。あとは、相手を舞台に引きずり出すだけだ)


 ――現在のダンス会場へ。


「この提案、お互いに利益があると思いませんか? もしお受けいただけるのであれば、わたくしの方から皇帝陛下に上奏いたします」


 キャメルンはゆっくりと間を置く。

 そして、相手の反応を待つように微笑んだ。


「もし、そこで承認されなければ、それまでの話です。ですが、その際は別の方法もございます――こちらが用意した魔物との対戦などはいかがでしょうか? それを討ち果たすことで、アルトメイア様の実力が本物であると、皆に示すことができるでしょう」


 アルトメイアの反応を楽しむかのように、キャメルンはニヤリとほくそ笑んだ。

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