表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/199

第六十話 『思惑』

 ――「うわぁぁぁああぁん……ぐずっ……わたしは……わたしは……なんで、奴隷だったんですか……なんで……ダメなのですか……なんで……傍に使えることすら、許されないのですか……うう……ぐすっ……うっ」


 泣きじゃくるチスタにかける言葉は見つからない。

 出来ることと言えば、ただ優しく頭をなで、ただ聞いてやることだけだ……


 ホントにオレは……

 なにか、言ってやれよ。

 それだけでも、救われるかも知れないんだからさっ!


 けど……適当に見繕った言葉で慰めてなんになるっ!

 そんな無責任なことをオレは出来ない。

 それは、オレが一番されたくないからだ……


 オレの勝手な解釈だけど、チスタも同じなんじゃないだろうか?


 きっと、オレが何かを言ったとしても、それはただの同情にしかならない。

 顔には出さないが、きっとそう思うに違いない。

 同情されていると感じ、哀れみをかけられたと感じるかも知れない。


 その証拠にチスタは何も言わない。

 けれど、微かに伏せられた瞳が、それを理解しているようだった。


 それは、至って普通なことだ。

 だが、その普通がオレに取っては嫌なんだと、オレ自身が分かっているんだ。

 前の世界で、幾度となく思わされてきたから……

 

 だから、オレは言いたくはない。

 外を綺麗に整えても、ほんとの救いになんてならないのだから……


「……ごめん、チスタ。オレには何も言えない。何を言っても嘘くさくなりそうだ……」


 喉の奥が引きつる。自分の無力さに、苛立ちすら覚える。


「だから、言いたいことを言ってくれ。オレが全部聞いててやる。それしか、オレにはできない……」


 チスタの肩が小さく震えた。


「フィルさま……ありがとうございます……では、もう少し……もう少し、このままで……」


「ああ、気が済むまでいいぞ……」


「……やさしいですね、フィル様は……」


「……別にやさしくなんてないさ……ただ、見過ごせないだけだ……」


「ふふ……それを、やさしいって言うんですよ。フィル様……」


「そ、そうか?」


 涙に潤んだチスタの瞳。

 それが、エルフの血を引くことを感じさせるほどに美しかった。

 けれど、幼さも残るその表情には言葉にしがたい。

 その雰囲気に、オレは思わず見とれてしまう。

 ……と、ハッとしてそっぽを向いた。


 そして、ゆっくりと口を開いた。


「そ、それに、きっと兄さんだって同じようにするよ、チスタ。辛いのは今だけだ。これが終われば、きっと、今までどおりになるよ」


「そう……ですね。そうだといいな……」


「大丈夫、きっと今までどおりさ。はは」


 オレは、安心させるために少し笑ってみた。


「ふふ。やっぱり、フィル様はやさしいですよ……」


「「………」」


 二人共、少し微笑むと言葉が途切れた。

 そして、そのまま見つめ合ってしまう……


 ……えっと、この状況、オレのアルゴリズムにはないんだが……どうすればいいのだろうか?

 

 と、とりあえず、離れるか?


 いや、でも……無理やり、離れるとなんか突き放したように思われるし……


 ああ……どどどうしたらいいんだ? ほんとにっ!


 そんな事を考えていると、会場から騒がしいざわめきが上がっていた。


「な、なんか、会場が騒がしいな。ちょぅと、見てくるよ」


「……はい。ありがとうございます……少しだけ、楽になれました……フィル様、お気をつけて」


 そして、オレはチスタと別れ会場へと戻ってみた。


 ――会場、アルトメイア付近で。


「……これはこれは、今をときめくアルトメイアさま。あなた様のお噂はこちらでも轟いておられますよ。さすが、ブッシュボーン家の御子息様だと誰もが賛辞を口にしております……ですが……こんな、噂もあるのをご承知でありましょうか?」


 あからさまに、いやらしい顔を浮かべ、その貴族は話し出す。


「口に載せるのも憚れるのですが……」


 その表情に兄も不安そうな顔を浮かべていた。


「何をでしょうか? キャメルン卿……」


 キャメルン・ハースリアは兄のその顔を見る。

 そして、ニタニタと嫌らしい表情を浮かべ、小声で話す。


「いえ、さすがに十才の子が、『あのような功績を挙げたなど、到底信じられない。まさか、捏造したのではないだろうか?』 と、噂が飛び交っているのですよ」


「………っ」


「いえ、当然、わたしどもは、そんな根も葉もない噂など信じるわけはないですよ。所詮は噂でがございますよ、噂……ふふふ……ですが」


「……なんでしょうか?」


「もしもですよ……その噂が事実であれば、それはすなわち皇帝陛下への背信に等しい。どのような刑罰が下るやも知れませぬ……最悪、お取り潰しも免れますまい。何せ、陛下を謀るなどという大罪なのですから、当然のことでございます、ふふふ……」


「……くっ」


「おお、怖い。そのようなお顔はおやめくださいませ。わたくしは、ただ、そのようなこともあり得ると申しただけ。別にそうなるとは言っておりませぬ。それとも、まさか、ほんとに捏造なのでしょうか?」


「そ、そんなことがあるはずがないっ! わたしは、決して――!」


「お、落ち着いてくださいませ。アルトメイア様。そこで、わたくしにはその噂を払拭するいい案があるのですよ。どうですか? お聞きになられますか?」


「……是非、ご教授願いたい。キャメルン卿。まさか、魔物を倒すのを拝見したいとか言うのではないでしょうね? それとも、わたしとどなたかと模擬戦をと、お考えか?」


「いえいえ。そのようなありきたりな物など誰も求めませんよ。誰もが驚くような、画期的で壮大な案があります」


「……聞かせてもらおう」


「我がハースリア家のグリムヘッド『バウンサー・Red Page(レッド・ページ)』とブッシュボーン家のグリムヘッド『ブロッサム 1/12(ワン・トゥエルブ)』で対戦をするのですよ。ふふ」


 キャメルン・ハースリアはニヤリと笑いながら、そう言い放ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ