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第五十三話 『英雄祭の始まり』

 ――祭り二日前。屋敷は慌ただしさを増していた。


 英雄祭の知らせを受け、懇意にしている遠方の貴族たちが屋敷に泊まりに来ていたのだ。


 各家の貴族が集まり、賑やかに声を交わす。

 宴会の準備や舞踏会の打ち合わせが進み、屋敷は一気に活気づいた。

 使用人たちも忙しなく動き回り、いつになく緊張した表情を見せている。


 静かに過ごそうとするが、どうにも落ち着かない。

 

 特に兄さんは、毎夜のように貴族たちの相手をしていた。

 どれだけ笑顔を作っていても、ふとした瞬間に疲れが滲む。


 ――正直、気の毒だった。


「またかよ、こんな祝宴……」


 兄さんが苦笑いしながらこぼす。

 その気持ちは、オレも少しだけ共感できる。


 屋敷の外でも、貴族たちが泊まる宿屋は賑やかだった。

 中でも、ブラックバード辺境伯爵家の存在は群を抜いていた。

 それほどの地位を持ちながら、彼らは屋敷ではなく宿屋に宿泊していた。


「何故、ブラックバード家は……?」


 オレの疑問に、これだけの貴族を集められたことに気を良くした父が、上機嫌で答えてくれた。

 貴族たちの賛同を得られた満足感が表情にも滲んでいる。


「彼らの影響力が大きすぎて、ここに泊まると他の貴族たちが萎縮してしまうからな」


 ブラックバード家は、屋敷がある地域の西に広がる峡谷地帯――エスヴァール国との境界を守る要だった。

 

 その地方は、一万メートル級の山脈に囲まれている。

 魔獣や魔物が多く出没する危険地帯だ。

 だからこそ、厳しい管理が必要だった。

 彼らには、広い裁量が許されている。

 その役目の重さは、他の貴族とは比べものにならない。


「ブラックバード家の辺境伯には、国から『ロータスヘッド』が下賜されている」


 それは、国家の中でも特別な貴族にのみ許された、強力な機体だった。


 ロータスヘッドは極秘の機体だ。

 その搭乗者も「ロータスメイデン」も、公にはされていない。


 拠点には特殊な兵器が配備されている。

 だが、守りの要はやはり彼らだ。

 ロータスヘッドとロータスメイデン――

 彼らの存在こそ、この地の安全を支える柱だった。


「ロータスヘッドかぁ……」


 オレがふと呟いた。


「まぁ、オレには関係がないな」

 

 それどころでもないしな……


 慌ただしい中で、祭りの日が刻一刻と近づくのだった。



 そして、祭り当日――


 英雄祭の開幕を告げる鐘が、高らかに街中へ響き渡った。


 街の中央広場には、高さ七メートルものグリムヘッドがそびえ立つ。

 広場を埋め尽くす民衆が歓声を上げる。

 その足元では、貴族たちが優雅に談笑していた。

 辺境の領主たちがそれぞれの面子を保ちながらも祭りの空気を楽しんでいる。

 楽隊が華やかな旋律を奏で、踊り子たちが軽やかに舞う。

 市場には色とりどりの屋台が並ぶ。

 焼き菓子や肉の串焼き、香辛料の効いたスープの香りが漂い、人々の活気をさらに煽っていた。


「始まったな、フィル」


 アルトメイアが前方の席で呟く。


 彼の視線の先では、武術演武の場が設けらる。

 次々と剣士たちが技を披露していた。

 若き騎士たちが剣を交え、華麗な技を競っている。


 その姿に、観衆からどよめきと歓声が上がった。

 優れた者には貴族からの注目が集まり、次代の戦士としての名誉を得る場でもあった。


 オレと姉さんは兄さんが乗るオープンタイプの馬車に一緒に乗っている。


 前の席で兄さんが民衆に手を振って答えている。

 

 オレは「こんな見世物パンダはいやだな」と、兄さんに同情を禁じ得なかった。

 そんな様子に、素直に「立派だよ、兄さん」と思う気持ちもあった。


 チスタは立場上、裏でのお手伝いに駆り出されている。

 兄はそれでも、傍に置きたかったのだろう。

 だが、父が立場上、それを許さなかった。


 チスタも一緒にいたかっただろうが、彼女は自分の立場をよく理解していた。

 だから、少し寂しげに笑いながら、それを受け入れていた。

 兄さんの名誉に響かないよう、節度を持って応じたのだろうと思う。



 相変わらず、貴族というのは……

 そう考えられずには、いられなかった。

 だが、それが貴族社会……

 それが嫌ならば、上に立ち、その風潮を変えるしかないのだろう……

 それが、どれだけ大変で厳しいことかを踏まえながら……


 それを思うと、兄はこれから、どれがけ大変な目に遭うのかが目に浮かびそうで、なんとも言えない気持ちが湧いてきた。


 そんなことを思いつつも、今はそれ以上に気にしないといけない直近の問題があった。


 それは、オレと姉さんも兄さんの後ろで視線を受けていることだ……

 姉さんはここまで盛大だとは想像していなかったのだろう。

 祭りの喧騒に圧倒されているようだった。

 普段の彼女ならもっと平然としているはず……

 なのに、今はその顔に緊張が色濃く浮かんでいる。


 だが……それはオレも同じだった……


「ね、ねぇ、フィル……」


「な、なにかな? 姉さん?」


「ボ、ボク……お部屋に引きこもりたひ……」


 姉さんは真っ赤な顔を伏せながら、そう言ってきた。

 それは、すごく理解できることだった。


 オレだって、出来るならストライカーの元にいきたひ……


 そう思わずにはいられなかった……


 その後、グリムヘッド『ブロッサム 1/12(ワン・トゥエルブ)』が屹立する街の大広間の壇上までやってきた。


 そして、貴族としての礼を尽くしながら、壇上に兄が立つ。


 そして、その隣に父「グランバドル・ブッシュボーン」が並びたち、演説が始まった。

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