第五十話 『無邪気な少女』③
三人に取り囲まれた少女は、強がってはいるものの、じわじわと追い詰められていた。
正面の男が剣を振り下ろす!
少女はギリギリで受け流す!
すかさず、背後から斜めに振るわれた刃を叩き落とす!
だが――
逆側から放たれた剣が、少女の腕を裂いた。
「くっ……! こんな、ぬるい攻撃……!」
少女が気丈に言い返した、そのとき――
「おねえちゃん……!」
震えるような怯えた声が響いた。
縄で縛られたままの子供たちが、必死に少女の方を見つめている。
痛みに顔を歪めながらも、少女は気丈に笑ってみせた。
「大丈夫だよっ!」
心配させないように、無理にでも笑顔を作る。
だが、その余裕はすでになくなりつつあった。
さらに男たちが襲いかかる。
少女は防ぎ、避け、しのぐ――
だが、攻撃の合間に少しずつ傷を負い、確実に追い詰められていく。
そして――
「――しまっ……!」
少女の目に、背後から振りかぶられた剣が映る。
死角だった。
回避は間に合わない。
――ガキンッ!!
鋭い刃が、フィルの背中に叩きつけられる――が、その攻撃は弾かれた。
インナースーツが硬化し、凶刃を防いだのだ。
「えっ、い、今の……?」
子供のひとりが目を丸くする。
予想外の展開に、縛られたまま息を呑んでいた。
「あなた……大丈夫なのっ!?」
少女が青ざめた顔で叫ぶ。
「……大丈夫だ。間に合った」
けれど――このままではダメだ。
この子は強い。
だけど、押されている。
今は運良く助けられたが、次はどうなるかわからない。
なら――
オレが決めるっ!!
オレはアーマーの能力を開放した。
そして、そのまま一番近くの男に疾風の如く迫る!
男は驚き、何もできないまま――
オレは、剣ではなく鞘で上段から叩き込んだ!
――ドゴォッ!!
激しい衝撃音とともに、男は悶絶し、そのまま気絶した。
全力を出せば、間違いなく殺してしまう。
だから、力を加減している。
……だが、もし殺してしまったら?
――構わない。
オレは、この子を守ると決めたんだ。
けれど、拾える命なら、無闇に奪おうとは思わない――
「すごい……!」
少女は驚嘆の声を漏らす。
まさか、剣を捨てるなんて。「何を考えているの!?」と、思ったはずだ。
だが、オレは迷わない。
次の男に怒涛の如く迫る!
男はその圧に気圧され、動けない。
「ぐっ……!?」
そのまま、胴に鞘を突き刺した!
――バキィッ!!
壁に吹っ飛ばされ、男は泡を吹いて倒れ込む。
……もう、起き上がれないだろう。
残るはあと一人。
オレは最後の男にも突っ込んだ!
――ガツンッ!!
鞘を叩き下ろす!
男は地面に叩きつけられ、そのまま沈黙した。
三人が、一瞬で無力化される。
カマ男の顔色が変わった。
オレはそのままカマ男の前へと歩き出す。
すると、カマ男はへたり込み、命乞いをしてきた。
「ちょ、ちょっと待ってぇ……悪かった。わ、わたしが悪ぅございましたぁ……だから、命だけは勘弁してぇ~~」
「……なら、子供たちを解放しろ……」
「わ、わかったわよ……ほら……」
怯えていた子供たちは、目の前の光景が信じられないといった表情を浮かべ、泣き出した。
「ほんとに……助かったの……?」
不安げな声が震える。
その問いに応えるように、少女がそっと抱きしめた。
「ほら、泣かないっ! キミたちは助かったんだからっ!」
その様子を見て、オレは安堵し、再びカマ男に向き直る。
「他に仲間はいないのか?」
「い、いないわよっ……これで全部よ……」
「そうか……」
「こんなヤツらに関わってられないわ……」
カマ男が観念したように怯えた声で呟いた。
「終わったのか……?」
その瞬間、倒れていた男のひとりが、剣を握りしめて立ち上がった!
「く、くそがぁぁぁ!!」
「こ、こわい……助けて……!」
解放されたばかりの子供たちが、足をすくませる。
せっかく助かったのに――再び絶望に落ちるかのように。
「……あぶないっ!」
「えっ……!」
少女が振り向き、もうダメだと思った、その瞬間――
「少々、お戯れが過ぎましたね。お嬢様」
――ザシュッ!
乾いた音とともに、湾曲した刀――カシナートが閃く。
次の瞬間、少女を襲おうとしていた男は切り裂かれた。
男は血を噴き出し、痙攣しながらその場で絶命した。
血だまりが広がり、赤黒い液体が足元を濡らしていく。
状況が理解できず、オレは呆然と立ち尽くしていた。
「ラサラッ!」
少女はそう叫んだ。その「ラサラ」と呼ばれた剣士は、獣人だった。
褐色の肌に、猫の耳と尻尾を持ち、毛並みはほんのりと黄色味がかっている。
均整の取れた筋肉質な身体が、美しい女性剣士を形作っていた。
「あ~あ、見つかっちゃった」
「おいたが過ぎます、お嬢様。どれだけ皆を……」
「言われなくても、わかってるわよっ!」
「いえ、何度言ってもお嬢様は……」
「あーあー、聞こえな~い」
「……まったく。それで、これはどういう状況なのですか? それに、お嬢様に手をあげたこの男は、切ってもよろしかったのですよね?」
「問題ないわっ! 悪党なんだから、倒されても文句は言えないでしょっ!」
……そんな簡単に割り切れるものか?
オレには、そんな風に割り切れない。
オレが間違っているのか?
「………」
わからない……
「さて、それで、このおぼっちゃんもお嬢様の敵なのでしょうか? 敵ならば……」
――ギロッ!
そう言って、カシナートでこちらを差し睨まれる。
オレは、たじろぎ、動けなくなった。
それほどに、この剣士の威圧が凄まじい。
そして、そのままオレに向かってきたっ!
やられるっ!
そう思った瞬間、「ダメッ!!!」と少女の声が響く。
その瞬間、獣人の剣士の剣が止まった。




