第四十四話 『祭りの前』
「くぅぅ……はぁはぁ……やぁっ! とぉぉぉぉ! あっ! や、やったぁぁぁ!!」
チスタの歓声が響き渡る。
息を切らしながらも、ついにレベルCを突破したことを喜んでいる。
その嬉しさからか、チスタの顔には満面の笑みが広がっていた。
「「おめでと。チスタ」」
オレと兄さんは素直にチスタの成長を称えた。
「はぁはぁ……ありがとうございます。アルトメイア様、フィル様。やりましたよっ! わたしっ!」
息を切らしながらもクリアできたことを喜び、賛辞にも答えた。
「……で、ここはこうなるんだけど……それでね」
姉さんがストライカーと談義している。
どうやら、ストライカーは魔道具に、姉さんはストライカーの技術に興味津々らしい。
(……なんか、混沌としてきたな、この場所が……)
最初はオレも兄さんもチスタもぎこちなかったが、一週間もすれば、自然と打ち解けていた。
それが、ただただ嬉しかった。
今まで何の接点もなかったオレたち兄弟が、ストライカーという絆で結ばれている。
こんな日が来るなんて、あの頃には想像もしなかった。
オレはこの時間が本当に愛おしく思えた。
ストライカーに、心から「ありがとう」と伝えたくなった。
けど、調子に乗りそうだからオレからは絶対に言わないでおこう。
そんな折、アルト兄さんが何かに悩んでいる様子だった。
まぁ……英雄祭のことだろうな……やっぱり……
けど……一応聞いてみるか。
「兄さん、浮かない顔だけど、英雄祭のこと?」
「ん? ……ああ、なんで、こうまで大仰にするかな……お陰でこっちは憂鬱だよ……はぁ……」
「そ、それは、兄さんはこのブッシュボーン家を背負って立つんだから仕方ないよ。これから、もっと増えると思うしさ」
「……フィル、お前は気楽でいいよな? はぁ……」
「……今はですけどね、前は……」
と、言いかけて、意図していないが兄を攻めるようになりそうで言うのをやめた。
「……そうだったな。あの時は済まなかった……お前のためと言いながら、結局は自分のためだったんじゃないか? と考えてしまうよ……」
「兄さん……よしましょう、おわったことは」
「……そうだな。でも、この考えはお前の提案……」
「よしましょうっ! おわったことはっ!」
オレは慌てて否定した。
「でも、結局はお前の言った通りにして正解だったとは思っている。今のこの感じはすごくいい。まさか、妹のケーニッヒまで、やってくるとは思ってなかったがな。はは」
「そうですね。ストライカーを見られたのが一番の敗因でしたよ……ったく……」
「はは、でも、いいじゃないか、僕は兄弟でこんな楽しく過ごせる日が来るなんて思ってもみなかった。しかもケーニッヒがあんなに魔道具好きだったとはな。驚きだよ。部屋に閉じこもってばかりの変な妹としか思ってなかったしなぁ」
「それは、わたしもですよ。あはは」
「おまえもか、はは」
「「……あははは」」
しばらく、二人して顔を見回すと、いつの間にか一緒に笑っていた。
「はは……仕方ないな、長男として、今この時間のためにも立派に英雄祭をこなすしかないなっ!」
「兄さん……」
「その通りですっ! アルトメイア様っ! 微力ながらわたしもお手伝いさせて頂きますっ!」
「はは、頼もしいな。よろしく頼むよ。チスタ」
「はいっ!」
「では、行くぞっ! 明日のためになっ!」
「はいっ! アルトメイア様っ!」
「じゃあな、フィル」
「はい、頑張ってください」
そう言うと、兄さんは足早に屋敷へと戻っていくのだった。
「……魔道具と魔術というものが分析されていないので不明なのですが、この世界でも物理法則に変化はないように思えます……」
「へぇ……! それで、それで!? もっと詳しく!」
そんなオレたちに関係なくケーニッヒ姉さんはストライカーの話にお熱だった……
「それならば、まずは古典物理のニュートンの第三法則から、そして、力のモーメント力にエネルギー保存の法則などの基本は大事です。例えばわたしの推進機構もこの法則に……」
「推進機構?」
「解答:推進機構とは……」
これは、ちょっと終わりそうにないな……
ほんと姉さんは熱心だな。
そんなに好奇心が旺盛だったとはな。
まあ、もう少ししたらオレたちも兄さんの英雄祭での役割や衣装合わせや、礼儀や予行演習やらで忙しくなるから、今はこの時間を大事にしたらいいと思う。
「オレも、すこし体を動かすかな」
おれは、その横で軽く自分のトレーニングをして、さらに調整が加えられた『Perdurabo~Magus Rift:The Awakening~』を試すのだった。
「ではまずは……」




