三十二話 『ひきこもりの聖域? 楽園?』
――「原因は分かっていますので、この未知の量子さえ解析できれば対処可能……ですが、何かしらのフィルターや除去装置が必要となる場合、対応が困難です。しかし、通常運転には問題はありません」
そうストライカーは語った。
なんとかしてやりたいところだが、オレにできることはないだろう……
少し歯がゆいが、こればかりはどうにもならない。
しかし……『Perdurabo~Magus Rift:The Awakening~』。
――むっずいなっ! これ!
魔術を避けながら接近する、という流れの繰り返しだが……前よりもコンビネーションが格段に上手くなっていないか?
例えば、軽い土魔術で何かを発動させたあと、それを囮に別の魔術を仕掛け、そこに誘導。そして気づいた時には落とし穴にハマっている……とか。
あるいは、フェイントの攻撃をしたかと思えば、本命かと思わせる別の攻撃が飛んでくる。
さらには、わざと自分の位置に誘い込み、そこに風魔術を仕掛けて待ち構える……など、もうね。
「なぁ……ストライカー……これ、何かいじった?」
「解答:さぁ、なんのことでしょう。ふふ~ん」
「………」
イラつくなっ! こいつっ!
「よう、フィル。来たぞ」
「今日もお願いします、フィル様」
オレのイラついていた気持ちは、兄とチスタの登場でどこかへ消えた。
「やぁ、兄さんにチスタ。今日も来たんだ?」
いつもどおり挨拶を交わす。
「そりゃ、こんな面白い……じゃない、こんな優秀な稽古道具、他にはないからな」
……他にあったらびっくりするわ。
「でしょうね。でも、この『Perdurabo~Magus Rift:The Awakening~』っての、めちゃくちゃ難しいですよっ!」
「そうか? それは楽しみだな。後で僕にもやらせてくれ」
楽しみ? どういうことだ?
「いいですよ、兄さん」
「わ、わたしもお願いします! 今日こそはCをクリアしたいですからねっ!」
「はいはい、分かってるよ」
「でも……これ勝手に調整されてるみたいで、魔術戦がむちゃくちゃ難しくなってるんですよっ!」
「お、もう改良したのか。ほんとすごいな」
……なるほど、難しくなった理由は兄さんのせいだったか……
「いつの間に……?」
「うん、一度やってみたんだけど、なんか動きが単調だなって思って、ストライカーに伝えたんだ。そしたら『了解』とか言って、すぐに直してたよ」
「あ、そうですか……おそろしく反応が良かったり、連携が良くなってるのはそのせいなのね……」
「ほんと、優秀だね、ストライカーって」
「恐縮ですぅ」
……反応がいちいち……こいつは……はは、まぁいいさ。
難しいのは、望むところだっ!
オレがそう思っている時、チスタが静かに闘志を燃やしていた。
「……きょ、きょうこそはっ! 絶対にクリアするんだからっ!」
「はは、肩の力を抜けって。そんなにガチガチだと、大事なところで失敗するぞ。はは」
最近はこんな感じで、ストライカーのシミュレーターが大人気だ。
たしかにゲームみたいで面白い。だが、ゲームとは違い、派手なエフェクトや演出がないぶん地味ではある。しかし、リアルな分、あとで分析すると、自分の得手不得手が赤裸々に浮かび上がる。
あとは、それに従って、このシミュレーターで結果を確認し、鍛え直すだけ。
その繰り返し。
だが、繰り返していくうちに足りない部分を補い、得意な部分をさらに磨ける。その感覚がたまらない。
強くなったと実感できる瞬間が、たまらない。
兄さんやチスタも、なんとなくだが、それを理解しているのか、ほんとによく来て試している。
三年前には考えもしなかった状況が、今ここにある。
それが、何よりオレには嬉しかった。
「ああっ! また負けた……ううぅ! 次こそはっ!」
「え……今度は僕の番じゃ……」
「アルトメイア様は、もう少し後でっ! わたしが勝つまで待っててくださいっ!」
「………」
一番ハマってるのはチスタじゃないだろうか?
そう思わずにはいられなかった……
「ああ! またっ! こんどこそっ!」
「………」
――屋敷二階のどこかの部屋で。
ブッシュポーン家の屋敷の二階にあるその部屋には、大きな窓から柔らかな陽光が差し込み、木製の机や本棚が温かみのある雰囲気を醸し出している。
しかし、部屋のあちこちではカーテンが締め切られ、薄暗い印象を与えていた。
さらに、使用人が片付けている様子もなく、床や机の上には無造作にガラクタが転がっている。
だが、それらは一見するとただのガラクタに見えるが、魔道具に精通している者ならすぐに価値のある代物だと分かるものだった。
中には、何に使うのか分からないが、魔力を通すと何らかの反応を示すものもある。
あちらこちらに散乱しているように見えるが、部屋の主に言わせれば「あれは、分かりやすいように置いてあるだけよ」というのだろう。
その証拠に、無造作に転がっている場所とは対照的に、別の机の上には図面や筆記用具が丁寧に整頓され、使われていないスペースにはしっかりと掃除が行き届いていた。
そう――魔道具をこよなく愛するブッシュポーン家の次女、ケーニッヒ・ブッシュボーンに言わせれば、これは「整理整頓された状態」なのだった。




