第二十九話 『チスタの変化』
――一週間の独房刑。
それがオレに下された裁可だった。
だが、事実は少し違う。
本来であれば、今回の件は領地全体を危険に晒した可能性が高いとして、放逐も検討されていたらしい。
けれど、兄さんが真っ先に異を唱えた。
「たしかに、フィルは軽率な行動をしたかもしれません。ですが、それを止められなかった僕にも責任があります! もしフィルだけが厳しい処罰を受けるなら、それは公平とは言えません! そもそも、罰というのは『誰かひとりだけ』に与えられるものではないはずです。このままでは、間違いを正す機会さえ奪われてしまうじゃないですか! だから、もしフィルを廃嫡すると決めるなら、僕も同じ処罰を受けるべきです! それが本当に『正しい』ことじゃないでしょうか!」
兄さんはバカだな。
オレのことなんか放って置いて、流れに任せればいいのに。
オレがそう兄さんに言うと、
「オレは、もう二度と……大切なものを失いたくないんだ」
と言ってくれた。
その言葉にオレは、どことなく気恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
そして、兄のその言葉により、処分は独房刑にとどまった。
オレは……ただ、静かに受け入れた。
それでも、今回は以前の独居房とは違うことがあった。
毎日、チスタが食事を運んできたのだ。
彼女は以前、オレが受けた独居房の酷さを知っている。
だからこそ、わざと衛兵の前で聞こえるように――
「この独居房に捕らわれている囚人の扱いの酷さに近々監査が入る予定があると聞き及んでいます」
と、衛兵に釘を刺したのだった。
「ほんとか? チスタ?」
「さぁ、どうでしょう……ですが、こうでも言えば多少は扱いがマシになるでしょう。ふふ」
とチスタは悪戯ぽく笑った。
「ははは、まったくだ。助かるよ、チスタ」
「い、いえ……わたしも助けられたのですから、お互い様です」
「はは、そんなの気にしなくていいのに義理堅いな、チスタは」
「そ、そんなのじゃないですよ……」
「そんなチスタだから兄に気に入られたんだな」
「っ……!?」
「ん? どうかしたのか?」
「……な、なんでもありません。もういきますねっ!」
そう言うと、少しぎこちないチスタは去っていくのだった。
なんだったんだ?
……考えても分からない。
「………」
……ま、いっか。
それより、なんだろう。
前と違って余裕がある。
それに、気持ちも全然辛いとも思わない。
「………」
……オレ、変われたのかな?
そうだと……いいな。
その次の日もまた次の日も、毎日チスタは訪れてくれた。
それだけで、オレは心強くなり、辛いと思っていた刑罰が、思ったほど苦しくなかった。
――独居房が終わり。ストライカーの元で。
「はぁぁぁ! たぁぁ! やぁ!」
チスタは果敢に挑んでいたが――
「あっ、ちょ、ダメ、ダメダメ! きゃあああ!」
バシィッ! 最後の一撃を食らい、彼女は無残にも床に倒れ込んだ。
どうやら、負けたようだ。
「これ……強すぎませんか……アルトメイア様もフィル様も、よく勝てましたね……」
チスタは、難易度Cに挑戦していた。
「そら、稽古してるからな」
――少し前。
「わたしも、ただ守られるだけじゃ、悔しいです……! ですのでフィル様、わたしにも試させてもらえませんか?」
そして――
「……えっ……ちょ……ちょっと……無理無理無理ぃぃ!!?」
その光景を、オレも兄さんも遠巻きで見ながら、
「まぁ、はじめはそんなもんだよな」
と、苦笑いしながら同意した。
「ううぅ……悔しい……次こそは……!」
そう言って、前向きに唇を噛むチスタ。
――現在。
その様子を、オレと兄さんは楽しげに眺めていた。
最近は、兄さんもチスタも、よくストライカーの元に訪れるようになっていた。
とはいえ、誰かに見られる可能性もあるので心配だったが、ストライカーの探索能力で、他に誰かが近づけば、すぐさま光学迷彩で隠蔽できるため問題はないらしい。
そのうえ、「オレの鍛錬に付き合っている」という建前にもできるので都合がいい。
「なぁ、この……なんていったっけ? シミ……シュミ……シミュ、なんとか?」
「シミュレーターですか?」
「それそれ! そのシミュレーターで、魔術の攻撃とかあればいいのにな」
「解答:解析できる魔術があれば、組み込むことは可能」
「おお……マジか」
「な、なら、僕が見本を見せればその「なんとか」で練習出来るようになるのかっ!?」
「了――」
「な、なら、早速、見せるよっ!」
「解答:少々お待ちを……解析には基準が必要。目標物を設置し、魔術の影響を測定することで精度向上」
「目標物……? じゃあ、そこにある岩に撃てばいいか?」
「了――目標を固定。衝撃、空気の流れ、熱変化を感知し、解析を実行」
「いくぞっ! 『――その威厳、ここに示せ! 『炎の槍!』」
(ズドォォン!)
「解析開始……」
「ア、アルトメイア様……!?」
チスタは高揚した様子の兄に驚いていた。
オレにとっては昔の兄の姿だが、チスタが来てからは見せたことのない姿に驚いたのかもな。
兄はノリノリのまま次々と魔術を繰り出し、そのたびにストライカーが解析を進めていった。
「………」
なんか……オレと模擬戦していた時よりも、精度も威力も数段上がっているんじゃないか?
そう、思わずにはいられなかった……
「――その高貴なる輝き、ここに示せ! 『氷刃乱舞!』」




