第二十四話 『重なる想い』
「ストライカー! この方角でいいのかっ!」
「解答:そのまま直進。あと二十メートル弱」
「分かった!」
オレはストライカーの指示を信じ、そのまま直進する。
すると、視界の先――巨大な生き物のような影が、何かを見下ろしていた。
「あれは……あの杖はっ!?」
視線を凝らす。
――間違いない、兄さんだ。
「まずいっ!」
「チスタ! もう少ししたら降ろすぞ!」
ヘルメットの拡大機能で光景を確認しながら、そう告げる。
「アルトメイア様を見つけたのですかっ!?」
「見つけた……そう、見つけたんだが……状況が最悪だ!」
オレの意図を察したのか、チスタはすぐに指示に従う。
「ここで降ろす! 兄がすぐ近くにいる! チスタ、兄を頼む! オレはアイツをぶっ飛ばしてくる!」
――コクッ。
「分かりました! 任せてくださいっ! フィル様はアルトメイア様をお助けください!」
「分かってる!」
叫ぶと同時に、オレは巨体へと跳躍。
「A・M」の全開のキックを叩き込む!
「スラッシュ! キィィィックゥゥッ!!」
――ズガガガァァァン!!
――スタッ!
「ふぅぅぅ……」
派手にぶちのめした巨体を見やり、兄の無事を確認する。チスタも回復を行っているはずだ――オレは安堵の息を吐いた。
「ひとまずは安心か……」
「いいえ。生命体はまだ生きています……驚異的な生命力ですね」
ストライカーの冷静な声に、オレは思わず眉をひそめる。
「そのアーマーの全力の一撃を受けてもなお動けるとは……驚きです」
その言葉を聞いたオレは巨体に向かって、剣を抜き構えを取った。
「フィル……なのか?」
構えを取るオレに兄は話しかけてくる。
「なんで……来た? ……僕はおまえに酷いことをしてきたというのに……」
フィルは歯を食いしばり、怒りと涙を滲ませた。声を荒げて言い放つ。
「……バカですか、兄さん……そんなの……兄さんがバカだからに決まってるじゃないですかっ!」
「なにぃ! フィル、おまえっ……!」
フィルの言葉に、兄は思わず目を見開いたが、それでも続ける。
「そうやって、一人で暴走して死にかけてるバカを見て、バカと言って何が悪いんですかっ!」
「フィル様っ! そんな言い方っ!」
「うるさいっ! こうでも言わないと分からないんだよっ! バカ兄貴はっ!!」
「ゴァァァァ!!」
いつの間にか立ち上がり、怒りの咆哮を上げながら「コロッサス・オグマ」がフィルに迫る!
だが――
「う・る・さ・い・っっっ!!!」
――ゴガァァァン!!
大きく拳を振りかぶりながら襲ってきたコロッサス・オグマを反射的に、全力で殴り放つ!
その拳は見事に顔面を捉え、二回転ほど宙を舞いながら後ろに吹き飛んだ!
「もっとわたしを……皆を頼れって言っているんですよっ! オレはっ!」
その言葉に、兄は一瞬驚き、フィルを見つめる。フィルは決して目をそらさず、言葉を続けた。
「そうやって、一人で悩んで、一人で苦しんで、挙句に一人で暴走して、みんなを振り回して! いい加減にしてくださいよ! そんなに周りの人が頼りなかったですかっ!? そんなに皆を信用できなかったんですか……バカじゃないですかっ!? あの時、約束したじゃないですか! 守るって!」
その言葉に、アルトメイアは悔しそうに拳を握った。
胸が痛むが、それでも兄は続ける。
「……そんなこと言っても、オレに何ができた!? 何もできなかった! あの家にいる限り、誰に悩みを相談できたっ! 誰が力を貸してくれるっ! オレは、ただ、フィルに少しでも家にいてほしくて、守りたくて……誰にもバレないようにしていたのにっ! その苦労が、お前に分かるかっ!? それを……なんで、見るたびにお前が強くなっているんだっ! 僕がどれだけ努力しないといけなかった……わかってるのかっ!? !」
言葉が震える。兄は自分の無力さを痛感している。
フィルはその言葉を受けて、驚きとともに返す。
「兄さん……それがわたしのせいだと思っていますか? 違う。わたしは、ずっと兄さんを信じていたんですよ……きっと、兄さんならなんとかしてくれる。今だけ、今だけ我慢すればいい……そう思っていたんです……ずっと、前のように仲良くなりたかった……優しい兄さんに戻って欲しかった……なのにっ! あんなことされたら、分からないじゃないですか! わたしもバカなんですよっ! 言ってくれないと何もわからないじゃないですかっ! でも……兄さんがそれを遠慮して、無理して一人で頑張っているなんてチスタに言われるまで分からなかった……それを聞いて、わたしもどうすればいいのかわからなくなってた。そして無茶をして、今ここにいることを聞いて、いてもたってもいれなくなって! どれだけ、わたしが苦労したか分かっているんですかっ! どれだけ心配したかを分かっているんですか……兄さん……」
その言葉が、兄の心に深く突き刺さる。
兄はその言葉に耐えきれず、顔を両手で覆いながら、静かに呟く。
「……フィル……僕は……ただ、おまえを守りたかっただけ……なんだ……」
「それは、わたしもですよ……兄さん……」
そして、兄は膝をつき、地面に頭を垂れる。
胸が痛む……
結局、兄さんはあの頃のままだった……
少しのすれ違いで、こんな事になるまで分かり合えなくて……
もっと、話してくれてれば、もっと兄さんを深く知っていれば、もっと兄さんを信じていれば……
そう思わずにはいられなかった……
それは、兄さんも同じかもしれない……
オレたちに足りなかったのは、お互いの対話だけだったのかもしれないと、この時思ってしまった。
頭を垂れて、力なく膝をついている兄にオレは言葉を吐いた。
「わたしたちは……お互いバカでしたね……兄さんは、あの頃からちっとも変わっていなかったんだ……それが、わたしには嬉しくもあり、気恥ずかしいですよ。はは」
――グルルルッ!
未だ、コロッサス・オグマを倒せてはいない。
フィルに吹き飛ばされ少し意識を飛ばしていただけだった。
そして、まるでフィルたちの言い合いを待ってくれたかのように、終わった瞬間に立ち上がってくる。
そして――
「ゴアアアアアッッツツッ!!」
今までとは比較にもならない、まるで地鳴りがするくらいの咆哮を上げ、憤怒の表情でフィルたちを鋭く睨みつけたのだった。




