第二十二話 『過ぎ去りし思ひで』
――アルトメイア八才、フィル六才の頃。
「あはは……!」
「待ってよ、兄さん……!」
オレたちは、使用人のマリエルにイタズラを仕掛け、その怒声を背に受けながら必死に走っていた。
しばらくして、マリエルが追ってこないのを確認すると、庭の隅に腰を下ろす。
「あはは、なぁフィル。やっぱり定番の白だよな、ははは!」
「……そう? 黒もいいと思うけど……」
「はは、それも趣深くていいな。フィルも分かってきたじゃないか」
「……兄さん、それはちょっと変態っぽいよ……」
そう言いつつも、兄さんとこうやって悪戯するのが楽しかった。
息を整えていると、ふと兄の首元で揺れる三日月型のシルバーペンダントに目が止まる。
それに気づいた兄が、オレの視線を追いながら尋ねた。
「ん? どうした、フィル? これが欲しいのか?」
「べ、べつに……ただ、きれいだなぁ……って」
「ふーん……」
兄はしばらくペンダントを眺めていたが、突然、ためらうことなく外してオレに差し出した。
「やるよ」
「い、いいよっ! べ、べつに……」
意地を張ったが、ほんとは「やる」と言われて嬉しくて仕方なかった。
けど……なんだかせがんで無理に貰う感じがして、素直に受け取れなかった。
「いいからっ! フィルが気に入ったんなら、それがお前のものになる運命だったんだよ。オレにとっては何でもないしな。ははは」
その後兄は「んっ!」と言いながら、手に持ったペンダントをオレに差し出してきた。
ここまでされると、オレは断れなくなり素直にペンダントを受け取った。
「……ありがとうございます。兄さん……」
兄から渡されたペンダントを受け取り、オレの顔は嬉しさに笑みを零していた。
「はは、フィルのその顔を見れただけでも、それを渡したかいがあったよ。あははは」
と、兄は誇らしげにそして優しく笑っていた。
けど……オレは嬉しい気持ちもあるのだが、少し悪気もあり、ポケットをまさぐってみた。
せめて、何か返すものがないかと無意識にしていたようだ。
そして――
ポケットをまさぐると、少し硬い何かに指が当たる。
それは、何日か前に河原で遊んでいた時にみつけた、七色の横嶋が入った石だった。
自然に研磨され、少しキラキラしていて綺麗だったからポケットに入れてそのままだったのを思い出した。
……こんなのしかないけど、兄さんは喜んでくれるだろうか?
そう思いながらでも、オレはそれを兄さんに見せた。
「に、兄さん、その……代わりにこれを……」
と、手に取った石を兄さんに手渡した。
「なんだこれ……」
手に取った兄さんは日の光に照らす。
そして、七色の縞模様に日があたりキラキラと光っているのを見て、兄が言う。
「これ、いいな。綺麗だ。オレにくれるのか?」
「うん、ペンダントのお返しに……その、こんなのしかなくてごめん……」
「何言ってるんだ。これ、すごく綺麗だ。ありがとな、フィル。へへ」
そう嬉しそうに喜ぶ兄さんを見て、オレはどことなく嬉しくなった。
「フィルはいいヤツだな」
「兄さんこそ……」
「そうだ、オレは「グリムヘッド」を継いだら、オレがフィルを守るよっ! これは絶対だ」
「……兄さん……な、なら、オレは兄さんを守るっ!」
「そうか。なら、僕は安心だな。約束だぞ、フィル」
「うん、絶対に守るっ!」
お互い、譲り合ったものを見せながら、オレたちは約束したのだった。
――焼けた森の中で。
そんなペンダントをオレは兄さんに拒絶された時に捨てようとしてたのに……
ずっと持っててくれてたんだ……こんな、なんでもないものを……
――ギュッ。
オレは石を握り締めて、ストライカーに叫ぶっ!
「はやく……はやくっ! 兄さんを見つけてくれっ! ストライカーっ!」
「了――既に光学センサーおよび音響センサーにより、北東に生命反応が見受けられます。ですが、これは……他にも、なにか巨大な生命反応があります」
「……っ!」
ストライカーの冷静な声に、オレの心臓が一瞬止まったように感じた。兄を見つけた――その喜びも束の間、何か大きな存在が近づいているという恐怖が、胸を締め付ける。
「フィル様、どうなさいました?」
「兄を見つけた……らしい。けど……なにか、巨大な生命反応もあると言っている」
「……っ!」
それを聞くと、チスタはその方角に向かい走り出していた。オレは無意識に、チスタを追い、また姫様抱っこをして先を急ぐことにした。




