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第十八話 『森の驚異』

 ルイン・ジャッカル(破滅のジャッカル)を倒した後も、兄を見つけられず、オレとチスタの焦りは募るばかりだった。


「……あれから、デスプライト・ボア(死を照らす猪)モータル・リザード(死をもたらすトカゲ)……他にも倒しましたが、アルトメイア様が見つからないのはどういうことなのでしょうか!?」


 ストライカーの指示のもと、脅威となる魔物を片付けてきた。安全を確保しながらの捜索は順調なはずだ。なのに――兄の姿は見当たらない。


 チスタの言葉に、オレは情けなくなり、つい謝ってしまう。


「……すまない」


「あ……すいません。助けていただいているのに……フィル様がいなければ、わたしなんて、あの魔物たちの一匹にも相手にならず、倒されていたというのに……申し訳ありません……ですがっ!」


「分かってる。オレも焦っているんだ……だから、言わなくてもいい」


「……フィル様……」


 どれくらい彷徨っているだろうか。暗い森の中では時間の感覚すら曖昧になる。それでも、ストライカーに情報を送り続け、マーカーをつけながら無駄なく捜索してきた。だが、それでも兄は見つからない。


「……こういう時こそ、冷静さが必要なのにな……」


 その時、微かな声が耳に届いた。


「何か、聞こえなかったか?」


「え……わたしには、何も……」


「しっ!」


「気をつけてください。その近くに生命体の反応が三つあります」


 ストライカーの指示を受け、オレは集音センサーに耳を傾ける。音の方向を探りながら、慎重に進むと――目の前に、小さな人影が見えた。


 それは、蜘蛛の糸のようなものに絡め取られている。さらにその近くで、ふわふわと光る小さな存在が宙を舞っていた。


「なんだ……あれ?」


「……スプリガン?」


「スプリガン?  なんだ、それは?」


「妖精です。こんな場所に、しかも二体も……」


 チスタが息を呑む。オレは目を凝らし、状況を確認した。


 巨大な蜘蛛のような黒い影が、絡め取られたスプリガンにじわじわと迫っている。その牙が獲物を前に、まるで歓喜するように開かれた。


「エリスっ!」


 もう一体のスプリガンが、捕まった仲間の名を叫んだ。その声には、焦りと恐怖が滲んでいた――



「うおっ! 喋った! スプリガンって、話せるのか?」


「ええ、知能がありますからね」


「どうする?」


 いや……さすがに助けないと後味が悪い……


「ちょっと、行ってくる。チスタは待っててくれ」


「え……あ、はい」


 チスタもどうするかを悩んでいたらしく、オレの行動に何も言わなかった。むしろ肯定したようだった。


「ですが、気をつけてください。あれはデスウィーバー(死を絡め取)アラクニス(る蜘蛛)」です。十分注意してください」


 ……この森、物騒な名前の魔物が多いなっ!


 そう思いながら、オレは慎重に近づく。目の前のクモが、わずかに後ずさりし、体勢を整える。その姿は、まるで猛獣のようだった。人の半分ほどもあるその体から、牙を大きく広げて威嚇してくる。


 オレは臆せず間合いを詰め、一気に剣を振り下ろす!


 ――ヒュン!


 だが、クモは素早く後方に跳び、剣は空を切る。反応の速さに驚きつつも、オレはすぐに構え直した。


 クモは再び牙をむき出しにして威嚇してくる。ただの魔物ではない。だが、オレも冷静に剣を振るう!


 ――ヒュン!


 再び空を切る。その瞬間、クモが糸を吐き出してきた!


 鋭い音と共に、オレの足元に絡みつく。


「くっ……!」


 足が重くなり、動きが鈍る。クモはすかさず距離を詰め、牙を突き立てようとする。


 だが、オレは必死に踏ん張り、渾身の力で蜘蛛の胴体をなぎ払った!


 ――ガキィン!


 鈍い音と共に、クモは吹き飛ばされる。しかし、オレの心は冷えた。


「……傷一つ、ついていない!?」


 それどころか、剣が弾かれた感触が強烈に残っている。


 クモはすぐさま再度攻撃を仕掛けてくる。オレは咄嗟に横に剣を振る!


 ――ガキィン!


 だが、またしても弾かれる!


「くっ……切れない!」


 焦りが募る中、クモは再び糸を吐き出してくる。


 その時、ストライカーの冷静な声が耳に響いた。


「ナイフの使用を推奨します」


「……っ!?」


 すぐにオレは剣を放り、腰に差していたストライカー製の『超高周波ナイフ』を抜き取る。黒い刃が光を反射し、手にした瞬間、異様な鋭さが伝わってきた。


「これなら……!」


 オレは柄尻のボタンを押す。


 ――キィィィィィン!!


 甲高い音が響き渡る。


 だが、それも束の間。


 周波数が高すぎて、音はすぐに消え去る。だが、耳鳴りのような圧迫感が空間を満たし、肌を刺すような不快感が残る。


 チスタもエリュシアも、眉をひそめた。特に妖精であるエリュシアは、苦しそうに耳を押さえる。


 そして、それはクモも同じだった。


 動きが鈍る。ナイフを構え、オレは素早く糸を切り裂いた!


 ――シュッ!


 切れた糸が舞い散る。その隙を逃さず、オレは渾身の一撃を放つ!


 ――ザシュ!


 細い刃がクモの硬い外殻を貫き、黒い体が力なく地面に崩れ落ちる。


 オレは息を整え、ナイフを握りしめた。


「……終わった。」


 手にしたナイフの切れ味に、改めて感心する。ストライカーが渡したこの刃は、まさに戦場で信頼できる武器だ。


 しかし、まだ油断はできない。


 オレは周囲を警戒しながら、倒れたクモとエリス――スプリガンに目を向けた。


「フィル様!」


 っと、いかん。こんなところで立ち止まっている場合じゃない。


 オレはすぐにスプリガンが囚われている蜘蛛の巣をナイフで切り裂く。


 やがて、エリスを地面に寝かせる。呼吸はあるが、意識はない。


 オレは超高周波ナイフのスイッチを切り、周囲を警戒しつつ、兄の行方を気にした。


 ……だが、今は妖精たちを放っておくわけにはいかない。

 

 オレは心の中で焦りを感じつつも、冷静さを欠かさないように努めた。

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