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第十五話 『語られた真相』②

 ――あなたはあまりにも強くなりすぎてしまったんです。


 憔悴したチスタはそう語った。


 オレは何を言われているのかが、分からなかった……


 そんなオレに息を一息吐いて、落ち着いてチスタは語りだす。


「……初めての模擬戦の前もそうですが、アルトメイア様はあなたの実力を薄々感じていらっしゃいました……『勝てないかもしれない』……と。そして、模擬戦が始まり、あなたの実力を知ってしまった……」


 チスタは寂しげな表情を浮かべ、さらに言葉を続ける。


「ええ。アルトメイア様はどれほど必死で努力しても……あなたはその予想を上回ってしまったんです。それが、アルトメイア様を焦らせた原因なんです」


 フィルはその言葉に胸が痛くなった。


 オレは家を出てもやっていけるように強くなろうとした。


 それが、結果として兄を追い詰めてしまっていたのか。


 兄さんも、オレをよく見ていた。


 だから、オレの実力も分かってしまうんだ。


 はじめの模擬戦もオレに負けてオレが居なくなるのが怖かったのかも知れない。


 それは、オレの実力を知っていたからなんだ……


 だから、あんなに怒っていたのか。


 オレが手を抜いて負けようとしていることが他にバレるのが怖くて……


 兄にとって理想だったのは、オレが全力で挑んでも僅差で兄が勝つ試合。

 

 そうすれば、父を納得させることもできるし、オレを家に留めておくこともできた。


 でも――オレは、それを知らずに全力を出した。


 結果、あんな形になったのか……


「だから、アルトメイア様も……必死にあなたに追いつこうと努力していたんですよ。だけど、それが裏目に出てしまったんです」


「裏目に……?」


 フィルは唇を噛みしめ、言葉がうまく出てこなかった。


 チスタは言葉を続けたが、その声には涙をこらえたような響きがあった。


「アルトメイア様は、決してあなたを蔑んだり、傷つけたりしたかったわけではありません。ただ、あなたが想像以上に強くなって……怖くなってしまったんです。それでも、あなたを守りたかった。あなたに、この家にいてほしかったんです」


 その言葉が、フィルの胸に深く響いた。


「だから、お願いです。アルトメイア様を理解してあげてください。彼もまた、あなたを守りたかっただけなんです」


 そして、チスタは最後に模擬戦の真実を語った。


「あの模擬戦のあと……アルトメイア様は、ご当主様に報告させるために使用人たちに手を回しました。そして、わたしには……フィル様を『卑怯者』と罵るよう命じられました。わたしだって……そんなことしたくなかった……だけど……アルトメイア様のすがる目を見てしまうとどうにもならず、いつの間にか叫んでいました……」


 チスタは顔を俯け肩を震わせ、胸をつまらせ、何かに耐える様に言葉を綴った。


 フィルはそんなチスタを見つめるしかできなかった。


 そんなチスタはそのまま、静からに、さらに続ける。


「申し訳ありませんでした……でも、それもすべて、アルトメイア様があなたを家に繋ぎ止めるためだったんです。ご自分の実力が追いつくまでの時間を稼ぐため、フィル様につけられた傷さえ利用して……その間、わたしにも冷たく接するよう命じられました……」


 チスタの声は震え、ついに涙がこぼれた。


「今までの無礼をお許しください……! ですが、それでもアルトメイア様は、フィル様を守ろうとしていたんです。どうか……どうか、アルトメイア様を助けてください……!」


 フィルは言葉を失った。


 胸が締めつけられるような感覚。


 確かに、兄は自分に厳しかった。


 けれど、その裏にこんな想いがあったとは……


 そんなことも知らずにオレは……


 今なら分かる。


 だけど……なんで言ってくれなかったんだ……


 言ってくれれば、オレにだって……


 いや……言えなかったんだ。


 きっと、言ってしまえば、オレは間違いなく兄さんに甘えてしまう。


 何をやっても周りに全てが嘘っぽく見える。


 それに、絶対に兄さんと本気で相手なんて出来なくなる……


 それを知っているからこそ、言えなかったのだろう……


「………」


 バカだな……兄さんも……


 オレなんて放って置けば良かったのに……


 ――ほんと、バカだ……はは。


 フィルはゆっくりと息をつき、ようやく口を開いた。



「それで、助けてくれと言われても、何があったんだ?」


「アルトメイア様は、あの後、フィル様と別れて随分と落ち込んでおられました……そして、何かを決意して立ち上がると――」


 ――


「なにがいけなかった……何をしたらよかったんだ……」


 そう言って、しばらく何かを考え込んでいたかと思うと……


 いきなり笑い出して……


「ははは……そうだ! はは……あはは。力だ……オレには力が足りない……なら……証明しなければ……」


 ――と「そう仰られて、その埋め合わせをしてくると言われまして……」


「それで……?」


 嫌な予感が胸を締めつける……


「現在、立ち入りが禁止されている魔物が巣食うといわれている……『ジャヴォーダンの森』へと止めるのも聞かずにっ! それでも止めようとしたわたしを突き飛ばして入ってしまわれたのです……ですので! どうかっ! どうか……お助けくださいませんか……フィル様……うぅ……」


 ――ダッ!


 その言葉を聞いた瞬間、フィルは思考するよりも早くストライカーのもとへ駆け出していた。気づけば、風を切る音が耳元で鳴り響いていた。


「チスタッ! ついてこいっ! 場所を案内しろっ!」 


「はいっ!!」

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