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第十三話 『やり直したい』

 おわった……


 もう、完全におわった……


 でも、なんだろうか?


 オレの心は晴れている。


 言いたいことを言ったからなのだろうか?


 兄さんのあの悲しげでくやしそうな表情を見られたからなのだろうか?


 兄の顔が思い浮かぶ。


 あの目、あの苦しみの中にあった後悔の色。

 

 フィルは胸の中でその表情を噛み締めながら、何かがスッと消えていくような気がした。


「………」


 なんでもいい……


 オレは、今とても晴れ晴れとしている。


 なのに……


 どうして、こんなに悲しいんだ……


 どうして、こんなに苦しいんだ……


 どうして……オレは泣いている……だ……


「兄さん……」


 無意識にそう呟くと、もう歯止めは効かなくなった……


「兄さん……兄さん……あぁ……あぁぁ……うわぁぁぁ!」


 オレは泣いた……


 声を上げて、誰かに届くように……兄さんに……届くように……



 ―――しばらくして。


「ずっ……何も言わないんだな……」


「意味不明:助言を求めたのか?」


「……いや……いい」


 こいつは、相変わらずだ。


 感情があるように見えたり、まったくないように見えたり。


 ほんと変わった機械だ。


 それでも、一人で閉じこもっているよりも全然ましだ。


 こうやって、ただ聞いてくれる誰かがいるだけで、ほんと救われる。


「………」


 だけど、こいつともいつかは別れる日が来るのだろうか?


 兄さんみたいに……


「なぁ……おまえはどこにもいかないよな?」


「解答:帰投方法無。よって、パイロットであるフィルに従います」


「はは……おまえらしいよ。オレもおまえみたいに感情があったりなかったりしたら楽になれるのかな?」


「解答:人が人たらしめているのは感情の賜物。よって、人は苦しむのが宿命(さだめ)


 ストライカーのその言葉を聞いてオレは驚きを隠せなかった。


「……たまに、おまえ凄いことを言うな」


「恐縮です。ですが、人は苦しみを知った後にこそ、その人の本質が見えるともいいます。もし、フィルが苦しんでいるのであれば、それを知った後に何をするかではないでしょうか?」


「っ! ほんっとにおまえ凄いことを言うなっ! なんかムカつくっ!」


「恐縮です」


「なんだそれっ! あはは」


 そうだな。


 コイツの言うとおりかも知れない。


 オレは今までも、その後、何もしてこなかった。


 ただ、流されるままで終わらせた。


 たしかに、その後のことを考えないとダメだな。


 オレはどうしたい?


 もうこのままいっそ家を出て、こいつと一緒に世界を見て回るか?


 ……それもいいかもな。


 きっと、それは楽しい。


 きっと、辛いことも悲しいことも、その旅の中で起こるだろう。


 けど、きっと、こいつとなら、オレはやっていける。


 そう自信をもって、はっきりと言える。


 だけど……


 ほんとにしたいのは……兄さんとの和解なんだ。


 昔の兄さんを知っているからこそ、兄さんが何に悩んで、何に苦しんでいたのかを知りたいっ!


 それが出来ないうちは、何も始まらないと思う。


 だから、今度兄さんに会ったら、尋ねてみるのがいいのかもな。


 それで、オレを蔑んでくれても構わない。


 いくら、侮辱の言葉を並べられても構わない。


 とにかく、オレは真実を知りたい。


 今はそれだけだっ!


「………」


 ダメかも知れないけど………行ってみるか……




「……オレはちょっと行ってくるよ」


「了――ご健闘を。システム待機状態に移行」


「まったく……こいつは……ふふ」


 そう言いながら、オレは兄の下に向かい始めたのだった。


 ――屋敷に戻る途中で。


 屋敷の方が騒がしい。


 何かあったのだろうか?


 足音が急ぎ足で歩き回り、声がぶつかり合う音が耳に届く。

 

 フィルは一瞬、その動揺した空気を感じ取った。


 ――ただならぬ気配。


 何かが起きている。


 次の瞬間、屋敷の玄関から小さな影が飛び出してきた。


 チスタだ。


 だが、いつもの落ち着いた様子はどこにもない。


 キョロキョロと辺りを見回す。


 まるで迷子の子どものように、行ったり来たりを繰り返す。


 小さな手が、ぎゅっと握られ、開かれる。


 何かを――いや、「誰か」を探している。


 そして――フィルの姿を見つけた瞬間、彼女の動きがピタリと止まった。


 まるで、一筋の光を見つけたかのように。


 しかし、すぐには駆け寄らない。


 フィルをじっと見つめ、口を開こうとして――迷う。


 手が震え、声にならない言葉が喉の奥でつっかえる。


 それでも、口元を「きゅっ!」と引き締め、意を決した眼を浮かべると――


 次の瞬間には駆け出していた。


「たっ……助け……てくだ……さい……っ!」


 その声は、今にも消えそうなくらい震えていた。


 そして、近くまで来た時には――もう涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「フィルさま……っ!」


 息を詰まらせ、喉がひくひくと震えている。


 言葉にならない何かを訴えるように、小さな手がフィルの袖をぎゅっと掴んだ。

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