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第十二話 『砕かれた……ひび割れた絆』

 ストライカーからスーツとナイフを渡されてから2ヶ月――


 オレはシミュレーターでストライカーの操作や体術の稽古に励んでいた。


 そのかいもあり、操作はやっとBまできた。


 だが、体術はAでの特訓だ……


 あれは、高い壁だ……いや、まるで城だ……オレの手には余るほどに強い……


 まったく勝てるイメージが沸かない。



 そして、兄との稽古は……


 ヤヴァイ……本気を出すと全てを躱せる。


 けど……それをやると、まずい……


 だから、わざとギリギリ躱せないように動くオレがいる。


 そして、スーツのお陰で当たっても全く痛くない……


 これも、またまずい……


 なんとか演技しているのだが……どこか嘘くさい。


 それを感じ取っているのか、兄の機嫌がすこぶる悪くなっている……


 そらね、もう少し威力抑えてくれればスーツなしでやるんだよ……


 それなら、本気で痛がれるし……


 けど……スーツ無しじゃ、ちょっと洒落にならない。


 その辺を分かって貰えればいんだけどな……


「くそっ!!」


 ――ガンッ!


 何が気に入らないのか、兄は怒りに任せてワンドを地面に叩きつけた。


「アルトメイア様っ!」


 チスタは急いで地面に転がったワンドを拾い上げ、兄に渡そうとする。


 だが――


 ――ガッ!


 それを、兄は力の限り手で払い除けた。


「キャッ……」


 その勢いが強すぎて、チスタもワンドと共に地面に尻餅をついた。


「ふぅ……ふぅ……フィル! おまえ何をしているっ!」


「え……?」


 ワケが分からなかった。


 兄はなんの事を言っているんだ?


 そんな何を言っているのか分からないオレにずかずかと近づいて襟首を掴んできた。


「シラを切るのも違いにしろよ……僕が何も知らないとでも思っているのかっ!?」


 ――ゴクッ。


 兄の鬼の形相にオレはたじろいでしまう……


 まさか……ストライカーのことがバレたのか……?


「この期に及んで、だんまりかよっ! フィル! おまえがいつも手を抜いてることを知らないとでも思っているのかっ! どれだけ、僕を馬鹿にすれば気が済むんだっ!」


「………」


 違った……


 それは良かったのだが……兄の言い分は、ただの逆ギレじゃないか……


「おまえは僕の下じゃないとダメなんだっ! おまえはただ、黙って本気を出して僕にやられていればいいんだっ!」


「………」


 ほんとに意味が分からない……


 何を言っているんだ兄は?


 今の状態で本気なんて出したら兄は……


 確かに、前々から兄との差はわずかにオレの方が上だった。


 だが、それはほんのわずか――兄が本気を出せば、簡単にひっくり返る程度の差だったはずだ。


 それが今ではどうだろう。


 ストライカーのシミュレーターのおかげで、オレは体の動かし方を根本から見直し、戦いのセンスを磨き続けた。おかげで兄の攻撃の隙や癖が、手に取るようにわかる。


 以前なら気づかなかった間合いのズレ、詰めの甘さ、攻撃の流れ――すべてが見える。


 ……そして、決定的なことに気づいた。


 もう、兄には負けない。


 兄は気づいていないつもりかもしれない。

 でも、体は正直だ。


 攻撃が無意識に慎重になっている。

 焦りが動きに表れている――まるで、もう勝てないと悟ったかのように。


 この現実を兄がどこまで自覚しているのかは分からない。


 だが、無意識のうちに感じ取っているからこそ、こんなにも苛立っているのかもしれない。


「そんなに、僕を見下して楽しいのかっ! ええっ!」


「そ、そんなことは……」


「いつもそうだったっ! いつもいつもいつも……僕がどれだけ努力しても、おまえはっ……!」


 そう言うと兄は拳を震わせ、何かを言いたいのを必死に堪えるように睨みつけた後、乱暴に拳を握りしめたまま顔を逸らす。


(オレの……いや、わたしの何が気に入らないんだ……)


(何に怒っているんだ?)


(頭の悪いわたしには分からない……)


(だから……だから……教えてよ……)


 ――兄さん――


「兄様……わたしの何が気に入らないんですか? わたしには分かりません……どうか教えてください」


「それは……」


 兄はわたしの寂しそうな表情を見た瞬間、言葉を詰まらせた。そして、視線を逸らしながら、ぎゅっと拳を握る。


「わたしは兄様の弟として、身の程を弁えてきたつもりです……ですが……」


(もういい……)


(もう嫌われてもいい……)


(思ってることを全部吐き出そう……)


(それで、わたしがここに居られなくなったとしても……)


「正直に言います。兄様の攻撃は全て見切っています。兄様の攻撃はわたしには当たりません。ですが……わたしはわざと当たりにいっていました」


 その言葉に、兄は驚愕の表情を浮かべる。怒りが込み上げるのを必死に抑えているのが分かった。


「ぐっ! フィルッ! おまえっ……!!」


「ですがっ!! 兄様も確実に強くなっていますっ!」


「……!」


「兄様は気づいていますか? わたしがどれだけの怪我を負うようになったか……初めは、攻撃が当たる直前に体を引いたり、角度を変えたりしてダメージを抑えていました……」


「……」


「ですが……半年くらい前から、それも通用しなくなってきたんです……それは、兄様の威力が上がったからです……喜んでください、兄様。今ならわたしを殺せるほどになっていますよ……うぅ……」


 わたしは、ずっと我慢していた悲しみに耐えられず、とうとう泣き出してしまった。


「だから、わたしは死なないために、防具をつけて防御力を上げています……兄様は、それも許せないのですね……わたしに死んでほしいからなんですねっ! ううっ……」


「フィル……違う……!」


 兄は何かを言おうとした。だが、もう構わない……


「さぁ、兄様、打ってください。体には防具をつけていますから、防具のないところでお願いします……そうですね……顔なら確実に殺せますので、おすすめですよ――兄様――」


 わたしは精一杯の笑顔を作ってみせた。悲しみで歪んではいたが……


「っ!!?」


 おわった……


 これで何もかもおわった……


 きっと、もう修復など出来ない……


 オレが全てを壊してやった……はは……ははは。


「……打たないのですか? 今なら……」


 ――ドサッ。


「アルトメイア様っ!」


 その場に崩れ落ちた兄にチスタが寄り添うように駆け寄った。


「……打たないのなら、失礼します……今まで、ありがとうございました――兄さん――」


「っ! ま……まて……」


 後ろで何か言っているが、もういい。


 中庭を出るまでは静かに歩きながら、出てからは足早にオレはストライカーのいる場所へと走り去ったのだった……

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