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元悪役令嬢、悪女皇后を経て良妻賢母を目指す 〜二度目の人生、息子に殺させない〜  作者: 白猫


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27/40

27, 一度目とは違うアンナ

——『アンナ……』


心のなかに、自分の声が響くのを聞いた。


「……っア……あの、お子さんと広場でぶつかってしまって。新しいジュースを買ってあげたのだけれど、まだ動揺しているようだったから……。念のため送り届けさせてもらったわ」


「それは、申し訳ございません。お召し物もこんなに汚してしまって……。このとおり私は仕立て屋ですから、ぜひ新しいドレスを作らせていただけませんか? お詫びとお礼の気持ちを込めて」


 そう言うとアンナは胸に手を当てて、頭を垂れた。

 彼女が指し示した看板には、シンプルに『仕立て屋』と書かれている。


 それにしても、なぜ——彼女はここで仕立て屋をしているのだろう。

 そしてこの子——いったい誰の子?


「どうぞお入りください」

「では、お邪魔しますわね。私の息子と連れもよろしいかしら?」

「もちろんですわ」


 マリシスと私、オウルード婦人が中に入って。

 護衛騎士たちは家を囲み、ぐるりと等間隔に並んで守っている。


「ところで、貴女と息子さんのお名前は?」

「私はアンナ、息子はアンドレですわ」

「ではマリシス、アンドレとお話ししていてちょうだい」


 ——やっぱり、一度目で女官を務めてくれたアンナだった。


 そうして着ていたドレスを脱いで、サイズを測ってもらう。

 生地の色を決めようとした時、私はふと考えた。


 似合う色で作ってもらいたいし、彼女はアンナで間違いなかった、それなら私の正体を隠さなくても良いのではないか。


 「夫人……?」オウルード夫人に魔道具を外すそぶりを見せてみる。


もちろんギョッとした様子を見せはしたけれど、実のところ彼女はアンナのことを知っていて。私たちに害をなす人間ではないと分かっているのだ。


 夫人は少し頷くようにして「お気に召すまま……」と呟いた。


 城を出る前から身につけていた魔道具をはずすと、みるみる間に私の容姿は巷の有名人『皇太子妃クリスティナ』に戻った。銀色の髪とエメラルドグリーンの瞳をもつ私に——。


 瞳の色を変えるペンダントの石は琥珀、装着すれば瞳の色を琥珀色に変えてくれる。本当にこれは便利で、髪色も自動的に変えてくれる設計だ。

 もちろん石に合う髪色に変わるから、今回の私は金髪——。


「アンナさん、少し驚くかもしれないけれど」

「まぁ……妃殿下!」


 そう言うとアンナは地面にひれ伏そうとした。

 これには私も慌ててしまって。


「ちょっ……ちょっと、ダメよ。そんな必要ないわ」

「この度は息子が申し訳ございません、どうかお許しください」


 どんなに優しい言葉をかけても彼女は怯える——。

 そう知った私は、これまで彼女がどうやって生きたのか、本人の口から聞いてみたいと思った。


「アンナさんは、ずっとここで仕立て屋をしているの?」

「……いえ、まだ一年ほどでしょうか」

「それまでは、どちらに?」

「首都にはおりましたが、実家に住んでおりまして」

「……そう」


 サイズを測って、鏡越しに目が合うと互いに微笑んで。

 二度目の今、今日が初対面なわけだけれど——。

 贖罪の気持ちは既に、この胸にある。


「仕立ての勉強も首都で?」

「ええ、5年ほど前に師匠と出会って……今はもう彼女は亡くなったんですけれど。……残されたこの家を受け継いで改装したんです。それで息子を連れて移り住みました」

「……アンドレは、あなたにそっくりね。髪の色も瞳の色も」

「ええ、そうなんです。夫の色はいっさい受け継ぎませんでしたわ」


 そう言うと、アンナは苦しそうに笑った。

 彼女は元来、真面目な気質だ。

 おかしなことがあったなら、それは『夫』と呼ばれる人間の方だろう。


「ご主人もこちらに?」

「……いえ、恥ずかしながら離縁いたしまして……私が家を出ました」

「まぁ……それは大変ね。これまでもアンドレと二人で大変だったでしょう?」

「そんなことありませんわ。私はアンドレを健康に産むことができただけで、全てが報われた気持ちなんですもの」


 最後の言葉を聞いて、私は胸を撫で下ろした。

 それでもまだ、これからのことを諦める気はない。


 ドレスが仕上がるのを待って、それから事を進めるんだから——。

 それまでに、私も準備をしないと。

 

「妃殿下は、ずいぶんと美しいお姿で。惚れ惚れいたしますわ」

「あら、そんなこと言ってくださるの貴女だけよ」

「このようにお胸が豊かでありながら、腰がほっそりとされていて……仕立て屋冥利に尽きるというものです」


 ——こうしてサイズを測り終えたのだけれど、そこで私はまた驚かされた。

 デザインまでアンナがすると言うのだ。


 ここルヴェルディ帝国では、ほとんどの場合、デザインと仕立ては別の人間が行う。今でこそ学び舎を共にしているが、もともとそれぞれに職人がいて。いわゆる完全分業だったはずなのだが。


「デザインまでできるなんて、本当に意外だわ」

「ふふふ、そうなんですよ。実は師匠の息子さんが服飾学校にいらして、こっそりと教えていただいたんです」


 私は『なるほど』と言いながらも、このやる気に満ちた女性の意外性に触れ、ますます惚れてしまいそうになった。


 デザイン画は数日後に、城に届けてくれると言う。

 まずはそれを楽しみに待つとしよう——。

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