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18. 私の魔力の正体

 私の皇子妃教育は、そのまま皇太子妃教育に移行したが——もとより勉強嫌いな私にとっては、何が始まっても同じ感触だ。


 何を学んでも苦難!!その一言に尽きる。


 一度目の人生では——どのように乗り越えたのか?

 それは、恥ずかしくて小声でしか言えないような方法によるものだった。


 一度目の教育担当もオウルード夫人だったのだが——

 その彼女を半ば脅し、終了に問題なし!の合格点をつけさせたのよね。


 そうよ、よく覚えているわ——。

 公爵令嬢であり皇太子妃候補でもある立場を利用し、彼女の男性遍歴を言いふらすって脅したのよ。

 子供のくせにね——。


 二度目の今、生まれ変わった今、私は清く正しく美しい皇太子妃を目指す。そして、何としても慈愛に満ちた国母になるのよ!


 だから——こんな簡単な勉強に躓くわけにはいかない——。

 泣きそうだけど、夜中まで勉強してでも、正しい評価で合格点をもらうしかないのっ!!


「あぁ、神様……、どうか助けて下さい」


 無意識に小さな声で呟いてしまったようだ。

 オウルード夫人が心配そうに駆け寄ってくる。


「クリスティナ様、大丈夫ですか?少し休憩しましょう。ここのところ本当に真面目に取り組まれて、嬉しい限りではございますが……どう考えても無理をなさっておられます……」


「……夫人、私は何としても国民の皆様に愛してもらえる皇太子妃になりたいのです。頭が悪くて、学園での成績も最下位でした…。お聞きになっておられるのでしょう?……なぜなんでしょう?……勉強しても勉強しても全く賢くならない……本当に不安なのです」


 そう話しながら、私は不覚にも声を上げて泣いてしまったのだ。

 いわゆる子供泣きで——。

「うわぁーん、うわぁーん」と夫人の胸に抱き締められながら、しばし泣きじゃくった。


 その後、オウルード夫人は指導方法を大きく見直した。

 私のために——。

 

 歴史を学ぶには——城の内外から関係者や後日談に詳しいものを呼び寄せ講義形式にし、財務を学ぶには——畑作業で収穫したものを売買するなど身近な例を取り上げ、人事を学ぶには——使用人たちを使い実技形式にし、外交やその他についても全て、様々工夫を凝らした指導に改めたのだ。


 これは、ここ——ルヴェルディ帝国においては初の試みで、今後の妃教育における充実度を大いに飛躍させる試みであると、皇室が直々に評価するに至ったのだ。


 そして、後日談だが——「これも、クリスティナ様の教育係を仰せつかったからこその褒美にございます。心より感謝申し上げます」などと、オウルード夫人から謝意を述べられる機会まで訪れたのである。


 この時の私は、一度目の仕打ちに対する償いができた安堵感と同時に、謝意を述べられる気まずさを真っ先に感じてしまったのだけれど、夫人の笑顔を見た瞬間、誰かを笑顔にする喜びもまた教えてもらったのよね。


 夫人は間違いなく、私——皇太子妃にとってベストな先生であったのだ。



 ◇◇◇


 オウルード夫人のお陰様をもって、私の妃教育は順調に進んだ。


 その様子は、皇帝・皇后両陛下のお耳にも入り、もちろん——クレメント公爵家にも報告されるに至ったのである。


 そこでお父様——アーノルド・クレメント公爵は、娘である私の魔力鑑定を申し出た。幼い頃に主治医から『魔力中毒症』と診断され、神殿での鑑定をすすめられて以降——馬車の事故やら妃教育やらで見送られていた、あの鑑定である。


 この帝国では、魔女の存在は何百年も前に失われており、皇族に多く伝えられてきた『魔力』についてもまた、ここ何世代もの間、発現していない。


 そこにきて、突然の出来事だった。

 制御できないほどの魔力、暴走するほどの魔力、そんなものを——まさか自分の娘の中に見ることになろうとは。それこそ、公爵にとっては晴天(せいてん)霹靂(へきれき)だったに違いない。



 ◇ ◇ ◇


 神殿は皇城の敷地内にある。

 庭園の美しい芝生、整えられた木々を横目に歩いていくと辿り着く、最奥の区域。

 そこには喧騒も届かず、風の音すら響かないのではないか——という静けさが漂っている。


 私はお父様とお兄様、そして両陛下とアルフォンス殿下に付き添われ、鑑定結果を待っているところだ。ドキドキしてはいるけれど、それ以上に——現状を知ることに対する期待感の方が大きいわね。


「結果を申し上げます」


 厳かな面持ちで現れたのは、神殿の最高位に君臨する教皇様だ。

 初めてお会いするわ。

 挨拶はどうしたらいいのかしら?


 私の様子を察してか、教皇様自ら話しかけてくださった。


「クリスティナ様、初めてお会いしますね」

「こちらこそ、初めてご挨拶申し上げます」


「……本日はありがとうございます。娘の状態はいかがでしょう?」


 お父様が不安そうに確認する(さま)は、何だか可愛らしいわね。

 私の生死にかかわると思っていてもおかしくない表情だわ。


「結果から申し上げますと……クリスティナ様には何があっても、この帝国の皇后になっていただかなければなりません」


 両陛下は笑顔で静かに見守っておられる。

 これはどのようなことを意味するのだろうか?

 教皇様は両陛下の方へ会釈をすると、その先を続けた。


「公爵閣下、おめでとうございます。クリスティナ様は、数百年にも渡り我々が待ち望んだ……『大聖女様』と言っても過言ではないほどの魔力をお持ちです。恐らくは、今は亡きクレメント公爵夫人の血筋から与えられた力でございましょう。他国から本国へ、こんなにも貴重な力が分け与えられていようとは……何とも言葉になりません」


 これには全員が驚き、その後の質問に窮するという事態に陥った。  


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