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第9話勇者の買い物

 日課をこなし終えたアリアが家の中に戻ってくるのに合わせて、俺は話しかける。


「今日は出かけるぞ。着いてこい」


 俺は鉄剣を一振り腰に佩き、外套に身を包む。


「え、でも。私は装備が……」


「この村の店で調達する」


 いくら魔王が討伐され、魔物の質も量も下がったとはいえ、まだいるにはいる。それに、残念なことに盗賊などの犯罪者も人間の中にはいる。


 この世界、武器を持たずに遠出することは自殺行為に近い。


 アリアは家に来た時には、ボロ布一枚の姿だったし、それからは家の敷地から出てなかったから、アリアの分の剣と外套はまだ買ってなかったんだよな。服も俺のを着せてたし。


 家から歩くことしばらく、この村で一つしかない武器屋に着いた。


 この村はそこまで広い村ではないが、近所の家でも少し歩くくらいには家と家との距離が開いている。


「ちわ~。邪魔するぜ」


「おお、ユウ。久しぶりじゃねえか」


 俺が挨拶すると、武器屋の親父さんも気さくに迎えてくれる。


「どうした? 剣が悪くなっちまったか?」


「いや、俺のは良いんだけどよ……」


 俺はポンポンと腰の獲物の柄に手をやりつつ、後ろで控えていたアリアを指さす。


「なんだユウ。嫁さんがいたのか!」


「なっ⁉」


 アリアが何か言いたそうにしていたが、構わず会話を続ける。


「ちげえよ。弟子だ。こいつの剣と外套が欲しくてな」


「弟子ぃ? お前、そんな腕前だったか?」


 親父は疑いながらアリアを頭からつま先まで凝視する。


「ちょっと……‼」


「アリア、動くな」


 顔を赤らめ、恥ずかしがるアリアを、俺はなだめる。親父も別に不躾にジロジロと見ているわけではない。


 アリアの体格や身体の癖から、アリアにあった一振りを見繕ってくれているのだ。


 やがて、満足したのか、棚に飾ってある剣を一振り持ってきた。


「これなんかどうだ? どうせユウの稼ぎじゃ安物しか買えないだろうが、こいつは安物の中じゃ中々いい品だぜ?」


「一言余計だ」


 俺のツッコミをよそに、アリアは剣を握ったり、軽く素振りしたりして剣の感触を確かめてみる。


「どうだ?」


「どうと言われても。私に剣の良し悪しは……」


「難しく考えなくていい。しっくりくるか?」


「はい。今まで一度も握ったことがないはずなのに、手に馴染みます」


「そうか。ま、親父のおすすめだ。間違いはないだろう。これをもらう。いくらだ」


「金貨一枚だ」


 剣というのはピンキリだが、数打ちの安物でもそれなりの金額がする。


 サマー王国では、価値の高い順に金貨、銀貨、銅貨が流通している。それぞれ一〇〇枚で一つ上の貨幣と同じ価値になる。


 金貨一枚あればとりあえず宿を借りれるだろうし、うまい飯だって食えるだろう。


 冒険者というのは危険な仕事を請け負う分、実入りもいいが、出費も激しいのだ。


「あ、あと外套も一着頼む」


「うちは武器屋で、便利屋じゃないんだがな」


「剣と一緒に買うからサービスしてくれよ」


「ったく」


 アリアに剣を佩かせ、外套を羽織らせて店を出る。


「あ、あの。鎧とかは……」


「あ~。勇者時代は見栄えがいいからって理由で成金みたいなフルプレートメイルを着てたが、ありゃあ重いだけだ。避けた方が効率がいい」


「あとユウというのは」


「俺の偽名、ハヤト・メロウスって名前は有名になりすぎちまったからな。ここじゃBランク冒険者のユウで通ってる」


「Bランク⁉」


 冒険者にはランクがある。これは、実力のない者が難しい依頼を受注して、犠牲になるのを防ぐためだ。


 上からS、A、B、C、D、Eとある。Bランクは中堅ってところだな。俺なら聖剣なしでもSランクになれるだろうが、もう命の危険を味わうのはこりごりだ。それに、わざわざ正体を隠してるのに、目立つのも嫌だ。


 そんなことを説明しながら、俺たちは村を出た。

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