Don't 来い
大学時代、アンガーマネジメントなるものの講習を受けたことがある。これが大変酔狂なもので、人間を構成する四感情のうち「怒り」をコントロールするものらしい。レジュメを一読し、ちゃんちゃらおかしいと嘲笑した私であったが、オチはすぐそこにあった。講師の第一声。
「アンガーマネジメントと出会って、人生が変わりました。」
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私が学生時代を過ごした大阪なる土地は、日本国とは一線を画しており、まさに異文化であった。木よりも人が多く、空よりも地下が広い。そのようであるから、当然扱う言葉も異なるわけで、頭を悩ませることも多々あった。
「ですから、こちらのお支払いにカードは使えません。現金のみでの……」
「ア? ダカラ、カードシカ、持ッテナイネンテ。」
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かつての職場に、留学生の新人が入ってきたことがある。名は忘れてしまったが、英語圏の人間で合ったことは覚えている。
日本文化を学びに来ているらしく、雑多な欧米人に比べて、日本語を駆使しようとする姿勢があった。我々スタッフはその姿勢に胸打たれ、先輩風を吹かせていた。
「なにか困ったことがあれば、何でも聞いていいからな。」
「ホントーデスカ?」
「ああ、どんと来い!」
以来、彼を見た者はいない。
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「第三言語には英語を取ろうと思う。」
「阿呆か、貴様は。英語は第二言語だろう。」
「第二言語は日本語だ。」
「なに、貴様。外国にルーツのある人間だったのか。そのようには見えぬが。」
「否、私は純日本人だ。父方は米を作り、母方は城下で商売をしていた。」
「では第二言語とはどういうことか、貴様の第一言語はなんだ。」
「皆の知っている、万国共通語ではあるのだが……」
「何を莫迦なことを。貴様の中ではバベルも浮かばれているのだろうな。」
「あうあうあー。」
「……ふむ。」
「だうあー、きゃっきゃっ!」
「喃語か。」
「はい。」
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この頃の世界は飢饉だとか、災害だとかが往々にして起こり、すっかり衰微してしまっていた。日の出づる国、日本国も例に漏れず、荒廃の一途を辿っていた次第である。国会議事堂には狐狸が住み、富士の山は二つに裂けた。そのような頃であるから……
「なんだ、その世も末なプロローグは。」
「お前が始めたのだろう?」
「俺は『もし俺が総理大臣になったら』という話をしようとしていたのだが。」
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消灯の時間はとっくに過ぎていたが、育ち盛りの男どもが一堂に会しているのだから、レム睡眠だろうが、ノンレム睡眠だろうが、惰眠と言う他ない。
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「ちょっと、怖い話はしないっていったじゃない!」
「どこが怖い話よ。恋バナよ、恋バナ。」
「だって今……」
「なによ、彼氏ができたって話をしただけじゃない。」
「きゃーっ!!!」
「……。」
「きゃーっ!!!」
「実はサンタさんって実在するの。」
「きゃーっ!!!」
「校長先生ってカツラらしいわよ。」
「……。」
「彼氏ができたの。」
「きゃーっ!!!」
「法螺ー話とでも言いたいのかしら。」