黒い死神
死神の少女は自分のココロを守るために鎌を振る。
黒く美しい髪が乱れても、白く細い腕が痙攣しても、好きな時間はそのままであってほしいから。
「必死になるから消さなきゃいけないんだよ。」
1人な少年が言った。
「…」
もう一度少女は、大きく、力強く振った。
少年たちは避けなかった。
避けずに、腕一本で重い鎌を止めた。
そして、少女の腕を掴んだ。
折れそうに細い身体。
雪のように白い肌。
宙に舞う、長く美しい艶やかな黒髪。
死神の、左右異なる紅蒼目。
儚い少女。
輝く感情をもつ死神。
罪深き冥土の神。
どれも彼女なのに、どれも矛盾する。
生きている人間のよう。
「あなたたちは、誰…!??」
ピキッ…
少女の鎌にひびが入り、裂け目からどんどん砕かれていく。
彼岸花のように虚しく、気高く、美しく。
「ー…俺達は“神様”の息子だよ。」
最後の破片が散った。
「…神様には、分からないのね…死神が魂を運ぶ時の気持ちも、」
少女は泣いた。
死の神達の為に。
人間だった自分の、最後の記憶の中にある曇った感情が、彼女達を苦しめる。
痛い。悲しい。嫌だ。
助けて助けてタスケテ…
哀しみはわからない。
恐怖はわかる。
罪悪感は知らない。
苦しさは知っている。
やっと見つけたココロの欠片なのに。
なぜ奪おうとするの?
少女の涙は空に消えた。
「…神はなんでも見てる。」
「そして冷酷非道だ。」
少年は、少女の腕から手を離した。
「お父様、息子だって容赦ないぜ?」
「まぁ、暇潰しに。」
神様の息子と名乗る少年達は、頬を上げた。
「お前はこれから“小夜”だ。宜しくな。」
「…は?」
死神と神の子たちは、空から消えた。