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9話「晴れの日と一番好きな花」

 その日は晴れだった。


 空は青一色。

 雲一つない。


「レイビアさん! 最近魔王様とちょっといい感じみたいだね!」

「スレオ……貴方はまたすぐそんなことを言って、やめてください」

「ごめん、でも、悪気なんてなくて」

「だとしても何でも言っていいわけじゃないのですよ」

「うん……気をつけるよ……」


 その日は無邪気なスレオがレイビアの部屋にやって来ていた。


「あ、これ! 花! あげるよ」


 喋りが一旦停止したタイミングで、スレオは一輪の花を取り出す。


 それは赤い薔薇であった。


「綺麗……!」


 思わず心の声をこぼすレイビア。


 レイビアは昔から赤い薔薇が好きだった。この世の高貴を掻き集めたような、それでいてどこか残酷な、世界の礎となった者たちの血を見せているかのような魅惑的な姿を愛していた。それゆえ幼い頃はよく家族で薔薇園へ行っていた。


「魔王様からだよ」

「え」

「嘘じゃないよ本当だよ!」

「ええ、信じています、嘘だなんて思っていません。……けど、どうしてこれを」


 どうして、好きな花を選べたの?


 ――それがレイビアの脳内にある疑問符だった。


 偶然、きっとそうだろう。そう思いながらも。だとしても奇跡みたい、そんな風に思って。この花を贈ってもらったことを運命的だと感じる。ロマンチックな乙女みたいで馬鹿げている、なんて自分を嘲り、しかしそれでもなお奇跡に想いを馳せずにはいられない。


「綺麗な花だったからって言っていたよ。確か。見せたくて、って」


 スレオは軽やかに笑みを浮かべながら何げなくそんなことを言った。


「……私、一番好きなんです、これが」


 それとは対照的に、レイビアの瞳は震えている。


「え、そうなの?」

「赤い薔薇」

「うわぁ、それは偶然! だけど、そういうことなら良かったね!」

「はい……これは、とても嬉しいです」


 アドラストからの贈り物は時にとんちんかんなものも交ざっている。

 しかしこれに関しては大当たり。

 そっと咲く赤は、たった一輪なのにレイビアという人間の心を大きく揺さぶる力を持っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  青空に赤い薔薇。とても映えますね。  薔薇の描写が、ただきれいなだけではなく。真紅の大輪のイメージが浮かびました。  偶然。でもそれを嬉しいと感じる気持ちがあるのなら。  解けつつある…
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