5話「与えられた部屋で」
「ここだよ! ここに住んでね!」
一枚の扉の前に到着するとスレオは敢えて高く明るめの声でそう告げた。
「はい。……ありがとうございます」
彼がその木製の扉を開けて中を見せると、レイビアは控えめな調子で静かに礼を述べる。
ただ、その表情は、まだほぐれきってはいなかった――まるで彼女の心を映し出す鏡であるかのようだ。
「必要なものがあったら何でも言ってね!」
「迷惑では」
「まさか! 迷惑じゃないよ、だいじょーぶ! じゃ、ボクはここで!」
「さようなら」
「うん! また後で」
スレオが去ると、レイビアは一人静かに部屋の中へと入っていく。
狭い通路がありその左右にはクローゼットと扉。扉を開ければ手洗い場やシャワー室があった。簡素なものではあるが最低限生活するために必要なものは揃っている。また、見た感じ手入れが行き届いており、衛生的にもある程度問題なく使用できそうな設備。一方反対側にあるクローゼットはというと、横に開くような扉をがらりと開けば内部はそこそこ広く、数着であればすんなり収まりそうな容量はあった。
通路を奥へ進めばある程度広さのある部屋に出る。
そこが主な客室。
高貴さを感じさせるデザインのダブルベッド、木製のテーブルとイス――そしてテーブルの真横には地球儀のような謎の置物があった。
「何これ……」
置物に関してはレイビアの頭では何に使うものか察せなかった。
後で誰かに聞いてみよう、そう思うレイビアであった。
――それから少しして。
「失礼いたします」
一人の女性が部屋を訪ねてきた。
メイドのような服をまとった三十代くらいに見える女性だ。
その手にはお盆、そしてその上には何やら書かれている紙と共にフルーツが乗っている。
「はい、何でしょうか」
「こちらアドラスト様より贈り物です」
「え……?」
「ああ失礼しました、アドラスト様と申しますのは陛下です」
「あ、魔王の方ですね」
「そうです」
お盆ごと贈り物をずいと差し出され、圧に戸惑うレイビア。
「結構です、そのようなものは……」
「拒否権はありません」
「ええっ」
「お受け取りください」
「……は、はい、分かりました」
一瞬は受け取らないでおこうと思ったレイビアだったが、女性の圧に負け、仕方なく受け取ることにした――いや、そうするしかなかったのだ。
「ではこれにて。失礼いたします」
女性が去っていく、その背に。
「あ、あの!」
レイビアは声をかける。
淡々とした雰囲気をまとった女性を引き留めるのにはかなりの勇気が必要だった。が、それでもレイビアは声をかけた。なぜなら聞いておきたいことがあったからだ。
「何でしょうか」
女性は振り返り口を小さく動かす。
「室内にある置物のことなのですが」
「置物? ああ、はい、地球儀に似たあれのことですね」
「はい……!」
「それについて何か?」
「あれは一体何なのでしょうか? ……その、使い方が分からないのです。よければ教えていただけませんか」
レイビアが頼めば、女性は頷いた。
「承知しました、説明します」




