2話「むにゅむにゅとの出会い」
長い銀髪は真っ直ぐに伸び、肌はごみ一つない砂丘のように滑らか。紅の瞳を彩る長い睫毛は花のように目もとを彩り、つんと立った薄く控えめな唇は慎ましくも落ち着いた女性の魅力を放っている。
そんなレイビアだが、王子の周囲の者たちの策略によって、強制的に西の塔地域に贈られてしまう。
だが、岩場と草原が合わさったような場所に放置されていたレイビアは、運よく一体の魔物に見つけてもらうことができて。
「キミ、こんなところで何してるの? 大丈夫?」
「貴方は……私を食べてしまおうと考えているのですか?」
「ええっ、違うよ! あ、でもこのスライムスタイルじゃそう思われても仕方ないか……。ボクはスレオ! こんな怪しい見た目だけど、人に危害を加えることはないよ!」
緑色のむにゅむにゅしたショートヘアを持つスライム男子スレオは純粋にぽつんと佇むレイビアのことを心配していた。
「魔王様のところへ行かない? 保護してもらえると思うよ!」
「嫌です」
明るく提案するも即座に断られたスレオはきょとんとした顔になる。
「ええっ! どうして!」
「……殺されるなどお断りです」
「そんなぁ、酷いよ。魔王様はそんな悪魔みたいな人じゃないのに。確かに純粋な人間ではないけど、それだけで、とっても優しい人なのに」
不満げに頬を膨らませるスレオだが。
「信じられません、もう誰も」
その言葉を聞いて。
「……何かあったの?」
レイビアの心を少しだけだが察したようだった。
とはいえすぐに引き下がるスレオではない――なんせここは危険な場所なのだ、人間の女性が一人でいた日には一晩で何者かに食べられてしまってもおかしくはない。
「今は誰も信じられませんし信じたくない気持ちです」
「そっかぁ……でもここにいたら夜とか危ないよ? 一旦安全なところへ移動した方がいいんじゃない?」
スレオはあっちへ行ったりこっちへ行ったりしてレイビアの顔を交互に左右から覗き込む。しかしレイビアの閉ざされた心をこじ開けるには至らない。レイビアは座ったままじっとしていた。言葉こそ返すものの、スレオに対して親しげな空気を醸し出すことは一切しない。
「もういいんです、ここで死にますから」
「駄目だよ! そんなの!」
「何なら、貴方がここで私を殺しても構いませんよ」
「絶対やだよぉ」
「……では放っておいてください」
「できないよ! うう……も、もう! この際無理矢理連れていくよ!」
生産性のないやり取りにさすがに疲れてきたスレオは、やけくそになり、ついに座ったままのレイビアを抱え上げた。
ドレスの裾が大きく揺れ動く。
「こうなったらもう無理矢理! 行くよ!」
「や、やめてください……!」
「だってキミ、ちっとも動かないんだもん!」
「下ろして!」
「だーめーだーよー。悪いようにはしないって、じっとしてて」