16話「ついにその時」
アドラストがレイビアに想いを伝えたちょうどその頃、ガットソーは城内の乱れへの不満による怒りを抑えきれなくなっていた。
「もう我慢ならない! こうなったら俺があいつを取り戻す! 自力で連れて帰って来る!」
彼はレイビアを人として欲しているわけではない。
しかし状況を落ち着かせるためにはレイビアが必要であると考えているのだ。
つまりレイビアを利用しようとしているだけ。
「大人しく引き渡せばいいものを……魔物たちも馬鹿だな、あんなくだらない女を護ろうとするなど!」
ついにガットソーが動く。
◆
「お前が魔王だな」
「その通りだ」
将来について考えようとしていたそんな時だ、ガットソーが現れた。
彼はレイビアを取り戻すべくアドラストに直談判する――けれどもレイビアはもちろん誰もが気づいていた、彼女を個人として愛し取り戻そうとしているわけではないということに。
「レイビアを返せ」
「できん」
アドラストとガットソーが対面する、それはレイビアにとっては恐ろしいことだった。
もしガットソーがとんでもないことをやらかしたら。
もしアドラストが傷つくようなことになったら。
考えれば考えるほどに胸の内のもやもやは膨らんでゆく。
「なぜだ。ああそうか、人質プレイでも楽しんでいるんだな? やはり魔王とやらは悪質だな」
にやりと黒い笑みを浮かべてふざけたことを言うガットソーの姿を目にしたアドラストは、レイビアが彼を嫌っている理由を何となく察した気がした。
「――なぜ、か」
敢えてもったいぶってから。
「は?」
「簡単なこと、その程度のことすら分からんとは」
「何なんだよ! はっきり言えよ!」
「なら言おう。レイビア殿はここにいることを望んでいるのだ。お主らのところへ戻りたいとは言っていない」
アドラストはレイビア返還拒否の理由を述べた。
一番大事なのは本人の意思。
そう考えているアドラストの頭にはレイビアをガットソーへ返すという選択肢はない。
「ふざけるな! 悪魔め! やはり魔王は悪魔だな、汚らわしい!」
「何とでも言うがいい」
たびたび感情的になるガットソーと常に淡々としているアドラスト、二人の振る舞いは対照的だ。
「さっさと返せよ! ああそうだ、いいことを思いついた。まだ返さないというのなら『魔王が女性を捕らえて解放しない』と皆に言ってやる! そうすればお前は悪役となる、皆に憎まれるだろうな」
「呆れた。何を今さら。魔王は既に嫌われておるわ」