13話「恩返しの第一歩」
悪質な人間たちから自分の身を守ってくれたアドラストをはじめとする魔物たちに何か少しでも恩返しをしたい。そう考えたレイビアは、小さなことから始めようと考えて、まずは掃除から始めることにした。とはいえ掃除係の経験などないレイビアだから、いきなり自力でやろうとしてもまともにはできるはずもなく。そこで彼女はアムネリアに習いつつやっていくという道を選択した。
「そうです、その手を右に傾けつつ拭けば――」
「こうですか?」
アムネリアはレイビアからの依頼を快諾、そうして今は指導にあたっている。
「その通りです。そのまま左右に揺らすように拭いてみてください」
「はい、えっと……あれ? こんな感じ?」
「そうです」
「えっと、こっちの手は……」
「そこに添えて。離すと落ちかねませんよ」
「あ、それは危ないですね」
「はい集中して。何よりも、作業に一番意識を向けておくことが大事です」
「気をつけます……!」
レイビアはあまり器用な方ではない。それゆえ完璧からは程遠い。が、それでもアムネリアの指導のもと経験を積み、徐々にではあるが掃除をこなせるようになってきている。
「ふう! 終わりました!」
レイビアは努力の人だった。
ある意味親の血を濃く受け継いでいるとも言えるだろう。
「この辺りで一旦休憩しましょうか」
「はい」
身体を動かし終えた後のレイビアの表情はすっきりしたものだ。
「さくらんぼティーありますよ、飲みます?」
心地よい疲れに浸っているレイビアにアムネリアはそんな提案をする。
「えっ、いいんですか!?」
レイビアは食いついた。
その表情はまるで幼き少女のよう、無垢な色がそこには濃く滲んでいる。
ここへ来た頃の暗く冷たげなレイビアではない――彼女は時の経過と共に純真さと可愛らしさを取り戻しつつあった。
「ふふ。お可愛らしい」
思わず頬を緩めてしまうアムネリア。
「あ……ごめんなさい……子どもみたいなことを言って、すみません……」
「いえいえ。では持ってきますね」
「今から淹れるのですか? だったらそちらも指導してほし――」
「残念ですが、もう既に完成しているのです」
「あ、そうなのですね」
「アイスティーですので。今朝淹れて冷やしているのですよ」
「今朝!? 準備が凄い……!」
レイビアは口をぽかんと空けていた。
そしてその後、アムネリアが持ってきてくれたよく冷えているさくらんぼアイスティーを飲む。
「とても美味しいです……!」
「良かった」
「私、こういうのも、練習してみたいです」
「お茶淹れを?」
「はい。上手く淹れられるようになったら、アムネリアさんやアドラスト様に出して楽しんでいただきたいなって……そんなことを思ったりして……変ですよねちょっと……でもいつかはそんな風にして過ごしてみたいなと思いまして」
夢を語るレイビアはどこか恥ずかしそうだった。