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2人で話をしましょう

 私の突然の宣言により、少しばかりざわついた夕食。色々と突っ込まれたことはあったが、それ以降は特に普段と変わらぬ時間を過ごした。まあ黒馬様たちにとっては、そんなに町の人たちに依頼をされたり、何かを手伝うということは無い為、あまり関係のない話だ。恐らく3人は、私が主に誰に対して言っているのか分かっている筈だ。


(青兎様、ずっと黙り込んだままだったな………)


 夕飯を終えて、これから風呂に入ろうかという時にふと思い出す、あの時の青兎様の様子。私が宣言した後は誰とも一言も会話を交わすことなく、ただ黙々と食事を口に運び、1番に居間から出て行ってしまった。きっと青兎様本人も気付いている筈。今朝から続いての、私のあの発言だ。誰だって自分のことだと気付くだろう。だからこそ、青兎様は逃げるようにあそこから立ち去ったのだ。私に何か反論も肯定もすることなく。しかし、後悔はしていない。今後は、青兎様たちに何か用がある場合、必ず私が先に対応して、私に話を通してからにしてもらおう。自分で断れないのなら、まずは誰かがそれを手伝って、徐々に自分でも断れるようにしていけばいいのではないか、という私の作戦だ。


(とりあえず後が詰まっちゃうし、早くお風呂に入ってこよう………)


 基本的にお風呂は私が1番最初に入るという気遣いを受けている為、後に控えている4人が遅くならない為にも、一旦考えるのは中断してお風呂を済ませてこよう。そう考えて、私は着替えを手に廊下に出る。夕飯を終えた後は基本的に自由な時間の為、みんなそれぞれ好きな場所で思い思いの時間を過ごしている。シンと落ち着く静けさの中、慣れた廊下を歩いていく。すると、お風呂に続くその道の先に、1つの影が立ち塞がった。


「青兎様………」

「………菖蒲様。少しいいですか」


 青兎様とはもう1度ちゃんと2人で話したいと思っていたが、朝から妙に避けられている感じがしたし、夕飯の時はそそくさと自室へ籠ってしまったので、その機会を掴めずにいた。だからこの邂逅は、私にとっても丁度良かった。お風呂は少し後回しになってしまうが、それより今は気がかりな青兎様の問題だ。私は2つ返事で青兎様の誘いを了承する。例え青兎様にどんなに冷たくされようとも、突き放されようとも、私はちゃんと彼を守りたいと思っていることを伝えるんだ。と、決意を新たにした瞬間。


「だから、さっきのは冗談だって言ってるだろ」

「冗談だっていう証拠を見せろ。お前なら本当にやりかねねえからな。その、菖蒲と………そういう………」

「ふーん。俺って信用ないんだ。悲しいなあ」

「だから!お前のそういう所が余計信用ねえんだよ!」


 丁度都合悪く、廊下の向こうから別の会話が聞こえてきた。声の主は恐らく、黒馬様と紫狐様だろう。内容は至って大したものではなく、ただの世間話のようだ。しかし問題なのは、その声がこちらに向かって歩いてきているということだった。折角青兎様と2人で話ができるかと思ったのだが、これではまた機会を失ってしまう………と、焦っていた折。


 急に青兎様に口を手で塞がれ、そのまま傍にあった風呂の脱衣所へと引きずり込まれた。一瞬にしてその場は無人になり、あたかも最初からそこには人がいなかったかのような静けさに包まれた。


「ん………?今誰かいなかったか?」

「さあ………」


 その後すぐに姿を現した黒馬様と紫狐様は、少しだけ違和感を感じながらも、それ以上は特に疑うことなくその場を通り過ぎて行った。どうやらやり過ごせたみたいだ。まあ、ちゃんと「青兎様と2人で話したいことがあるんです」と伝えれば、こんな風に隠れる必要はなかったかもしれないが。とにかく、青兎様にとっても、他の誰かにこの話し合いを聞かれたり、横槍を入れられたりすることは望んでいないようだ。


「………行ったみたいです、黒馬様たち」

「…………」


 扉の向こうから聞き耳を立てて、2人の足音を確認するが、どうやらその足音はちゃんと遠くへ行ったみたいだ。やがて聞こえなくなって、改めてこの場には私と青兎様の2人しかいないことを確認する。それを青兎様に伝えると、返事はないままに彼は険しい顔で私を見下ろした。


「どういうつもり?」

「え?」

「夕食の時の、あの発言」


 やはりそのことか、と内心は予想していた。あの時の青兎様の表情からしても、きっと納得いってないんだろうな、というのは分かっていた。あれだけ朝「余計なことを言うな」と釘を刺されていたのに、私のあの勝手な決定は、青兎様からしたら素直に分かりましたと言う方が難しいだろう。しかし、私も私で譲れない。青兎様が私に似ているからこそ、私は彼の気持ちや悲鳴が痛い程分かるのだ。


「私は本気です。皆様に用がある時は、まずは私を通してもらうことにします」

「どうして?」

「………優しすぎるからです、青兎様が」


 ………今の青兎様が怖くない、と言えば嘘になる。本当は今も心臓がバクバクと高鳴って、緊張で手にはジンワリと汗が浮かんでいる。だって、あの優しい青兎様に初めてあんなに冷たい目を向けられた。まるで敵を見るような目で、私を拒んだ。大切な人に拒絶されて傷付かない人なんていない。だから、こうして私の考えや青兎様への想いを伝えても、また拒絶されるのではないか、『他人』と言われてしまうのではないかと、びくびくしている。でも、それに怯えて何も言えないままでいたら、苦しいのは青兎様だ。周りが変えてあげなきゃ。彼を救ってあげなきゃ。


「優しい?………俺が?」

「はい。青兎様は、優しすぎるんです。いつも自分を犠牲にして、誰かを助けてる。どんなに自分が苦しくても、それを隠して………」

「…………」

「私には、青兎様の気持ちが分かります。だって、私も同じだったから。自分が我慢すればいいって、ずっとそう思いながら過ごしていました。貴方たちに出会うまでは」


 嫌なことも我慢して受け入れ、傷付き、もがき苦しんでいた私を救い、変えてくれたのは他の誰でもない、青兎様たちだ。もっと自分の気持ちに耳を傾けて、それを口に出しなさい、と勇気を与えてくれたのも、皆さんだ。なのに、青兎様本人は未だ変われずにいる。だったら、今度は私がそのお手伝いをしたい。大事な、仲間だから。


「どんなに嫌でも、苦しくても、やりたくなくても、全部受け入れてきました。そうすることで、周囲の環境は上手く回っていたし、そうしなきゃ私には居場所が無かった。でも、それは違うと教えてくれたのは、青兎様たちです」

「……………居場所………」

「青兎様が私を救ってくれたように、私も貴方の力になりたい。だって青兎様、本当はすごく苦しそう………。1つ1つは小さな傷でも、それが溜まっていけばいつか壊れてしまいます」


 だから、町の人たちからの依頼も、まずは私を通して、私が青兎様の代わりに断ります。私が、青兎様を守ります。………そう、一方的に捲し立てるように告げた。あまり反応を示さない青兎様に詰め寄るように、私は思いのままを口にする。しかし私が言葉を発せば発する程、何故か青兎様の表情はどんどん無表情に、まるで氷のように冷たくなっていった。今朝の、台所で見たあの時の表情だ。彼はまた、自分以外の人を突き放すような、そんな目をしている。


「菖蒲様。1つ誤解していますよ」

「え………?」

「俺は、優しくなんかない」


 そして次の瞬間には、視界がぐらりと傾いて、気付いた時には冷たい床に背中を打ち付けていた。何が起こっているのか分からないまま、私の上には青兎様が覆いかぶさる。見たことのない、歪んだ笑顔。慌てて体を起こそうとするが、青兎様がそれを許さないとでも言うように体重をかけてきて、おまけに手首も床に押さえつけられてしまった。どうして、なんで、という言葉が次々と頭の中に浮かんでくるが、動揺のあまりそれを喉から先へ発することができないでいた。


「菖蒲様がお風呂の時は、みんな気を遣ってここへは近寄らない。助けは来ないよ」

「あ、あおとさま………!?」


 私の手首を掴む青兎様の手は、その表情と同じ。氷のようにひんやりと冷たくて、ギリギリと強い力が込められていた。

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