みなさんは最強の仲間です
「全部聞いたんだね」
「はい」
「隠しててごめんなさい、菖蒲様………」
黒馬様との話し合いが終わって、私たちはいつものお寺のお堂に集合していた。白鹿様も紫狐様も青兎様も、黒馬様が言っていたように町で私のことを必死に探してくださって、その表情には疲れと安堵が滲み出ていた。それがとても申し訳なくなって、私が謝ろうとするよりも早く、黒馬様が今までの出来事を彼らに説明したのだった。
私が全てを知ったことを聞いた3人は、何とも言えない複雑な表情で私を見つめた。彼らも黒馬様と同じように悩み、葛藤している事が、その顔から窺える。今は私の為に色々と悩んでくれていることだけで、もう十分だった。
「俺たちが儀式に賛同的じゃない事が軍にバレたら、間違いなく連れ戻される。儀式の相手の代わりは幾らでもいる。中には金にしか目が無い、碌でもないヤツもいるからな」
「具体的な解決策がない以上は、派手な行動や言動は慎んだ方がいいね」
「菖蒲ちゃんも、周りには何も知らない体で過ごしてくれるかな。相手は軍や国だから、菖蒲ちゃんが何かを知った事が分かったら、強行手段に出るかもしれない」
白鹿様に諭されて、私はコクコクと頷いた。彼らの言葉を聞いていると、軍人でありながらよほど軍や国のことを信用していないようにも見えた。まあこんな儀式を続けているような組織だから、仕方ないといえばそうなのかもしれないが、黒馬様たちの不信感は、どこかそれ以上のようにも思えて不思議だった。
「後は、赤熊の件だが」
紫狐様の言葉によって、例の男の存在を思い出す。私を部屋から連れ出し、全てを打ち明けた男。
「菖蒲を連れ去った仕掛けを作ったのは、恐らく俺たちが町中の死体を確認する為に、ここを空けた時だろうな」
「何を考えてるのか………。アイツも軍の人間だから、巫女の事や儀式の真実は、他言無用だって知ってる筈なのに」
「菖蒲様に教えて、何を企んでるんだろう」
「…………菖蒲」
ますます分からない赤熊の行動を推理するみんなの傍らで、黒馬様に名前を呼ばれる。はい、と返事を返すと、黒馬様は再度確認するように言った。
「もう変な気は起こさねぇな?」
「はい」
「赤熊の所に行くなんて馬鹿げた、」
「はあ!?赤熊の所に行く!?」
黒馬様の声を遮ったのは、初耳の情報に目を丸くした白鹿様。そしてその白鹿様と同じくらいの勢いで体を割り込ませてきた紫狐様と青兎様によって、目の前にいた黒馬様は3人の後ろの方へと姿を消してしまった。
「何それ、どういうことですか菖蒲様」
「赤熊の所に行く………?冗談だよね、菖蒲ちゃん」
「あんなど変態野郎の所に行ったら、何されるか分かんねぇぞ菖蒲!」
矢継ぎ早に口々と説得されたり、説明を求められたりして、私は何から答えればいいのか分からずに困惑した。赤熊様の元へ行こうとしていた件は、先程黒馬様とじっくり話し合った時に行かないと結論付けた話だ。あの時の私は、とにかく冷静じゃなかったし、何かに縋りたい思いで必死だった。しかし、今は私の事情を理解してくれている4人の存在が、何よりも安心させてくれている。もう赤熊様の嘘か本当か分からない誘いに乗る理由は無かった。
「赤熊様が私に全てを話した時、言われたんです。僕と共に来れば、その運命から守ってあげる、と。具体的な方法は教えてくれなかったのですが、悩む私を見て、返事はまだ保留で良いと」
「勿論断るよね」
「はい。私たちにとって、赤熊様はまだ謎が多い人物………。信用できるかどうかの判断が付かない段階で、その言葉を鵜呑みにするのは危険かと」
「危うく行きかけてたけどな」
「そ、それは………」
「でも、思いとどまってくれたって事だよね。良かった………」
勿論、決めるのは菖蒲様だけど、と付け足す青兎様。そこは黒馬様との性格や考え方の違いと言ったところか。強引に、私の意思など関係無く、黒馬様の考えの元で「行かせない」と言った黒馬様と、「行って欲しくないけど、最後は菖蒲様の意思を尊重したい」という青兎様。どちらも引き留めているようで、其々の違いがよく出ていた。
「あのね、何度も言うけど、僕たちはだいぶ優しい方なんだよ。他の連中だったら、菖蒲ちゃんなんてとっくに食われて身籠ってるからね。赤熊なんて変態について行ったら、それこそ何されるか分かんないよ。もしかしたら変な趣味に付き合わされるかも………」
相手の評判を落として、私がそっちへ行かないように仕向けるのが、白鹿様。彼らしい引き留め方だ。赤熊様が変態で特殊な趣味を持っているかどうかは、あくまでも白鹿様の勝手な想像で、第一印象に過ぎない。しかし白鹿様は、事実だと言わんばかりの口ぶりだ。
「………俺たちよりアイツの方がいいのかよ」
ムスッとした顔で、ただポツリと呟き顔を背けた紫狐様は、口数こそ少ないけれど、誰よりも直球に感情を表に出しているような気がする。数ヶ月でも共にいた自分たちより、昨日ひょっこり現れた男へついて行こうとした事に拗ねている。面白く無さそうに舌打ちする紫狐様は、初めの頃は私に対して冷たい態度ばかりだったというのに、こうして引き留めてくれるまでになって、少しは彼の中の私の評価が良い方向へと変わってくれているのだろうか。
「最初に本当のことを知った時、動揺と恐怖心で、つい赤熊様の誘いを受けようとしてしまった事は事実です。けど、今はそんな気持ちは一切ありません。だって………」
私には、皆さんがいますから。
そう力強く告げると、4人は面食らった様な顔を浮かべた後、揃って照れくさそうにしていた。黙ったまま軍帽を被り直して、表情を隠そうとする黒馬様。「まあ分かればいいんだけど」と悪態を吐きながらそっぽを向く白鹿様。もちろんです、と嬉しそうに笑う青兎様。「気付くのが遅ぇんだよこの馬鹿!」と照れ隠しで怒りを見せる紫狐様。本当に、4人様々だ。それが何だか面白くて、小さく微笑む。
まだ私のこと、儀式のこと、抱える問題は大きく、解決できるのかどうかすら分からないけれど。1つ分かったことは、私には信用できる人物が4人もできたという事だ。みんなとなら、乗り越えられる。何故かそんな気がするし、勇気が湧いてくる。
軍や国を相手に、何からすればいいのかまだ見当も付かないが、私にはまずやらなければならない事がある。
「明日の夜、赤熊様と待ち合わせをしているんです。共に行こうという誘いに対しての返事を聞かせて欲しいと」
「場所は?」
「町の港近くにある小さな民宿です。赤熊様はどうやらそこに滞在しているようで、必ず1人で部屋まで来て欲しい、と」
「俺たちは来んなって事か」
「まーたスケベな事考えてんじゃないの?」
「変な薬で菖蒲を攫った位だしな。警戒した方がいいだろ」
黒馬様たちが来れば、話はスムーズに進まなくなる。赤熊様は、私と一対一で話したいのだろう。しかし、それはあまりにも危険であることは私にも分かる。一緒に行くことを断ったところで、私が1人であるのをいい事に、何か強行手段に出るかもしれない。それこそ、笑気麻酔で体の自由を奪った後、今度こそ町の外へと連れて行かれる可能性だってある。
「私は………」
「1人で行きます、とか言うなよ」
「皆さんに迷惑はかけられません、も無しね」
「私だって多少は戦えます、も却下」
「い、言いませんから!」
何故か私が言いそうだと思われている事を先に封じられて、私もそれを否定する。元々そんな事を言おうとは考えていない。今回はむしろその逆だ。
「赤熊様の事ですから、黒馬様たちのことを相当警戒しているでしょう。1人で来て欲しいとは伝えたものの、私が本当に1人で来るなんて考えてない筈」
「まあそうだろうな」
「きっと何か策を練って出迎えてくる………。皆さん、力を貸してくれますか」
軍帽の奥に光る4人の眼差しは、一気に軍人の目付きへと変わる。私には、最強の護衛が付いている。
「巫女様のご命令とあらば」
ノリノリの青兎様が、悪戯げに片目を伏せて笑うのが見えて、私は釣られるように笑みを溢した。




