獣(アーティフィシャル・インテリジェンス)の導き
週2~3話を更新予定です!
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子ネズミ男に言われるがまま、俺はエーアイとやらと会う手続きを進めていた。途中何度もわけのわからない質問をされたが、何とか上手く取り繕えたようである。
そうして、かれこれ30分ほど立とうとした頃。俺はついに念願の相手と対峙することになったのだ。
「まぁ、これでいいか……大体の入力も完了したことですし、それではこれから適性診断に移ります。こちらをご覧下さい」
「はぁ……これは?」
仕切りの向こう側で男は得体の知れない四角い箱を見せてきた。白く縁取りされた真っ黒の箱を見つめていると、突然何かが動いた。驚いた俺は思わず仰け反る。
「こちらが、適性診断に使うAI。アーティフィシャル・インテリジェンス」
「あ、アーティ……フェ……?」
箱の中には見覚えのある耳の長い獣が動いている。あの紙切れに描かれていた、これが……あのエーアイだと?
「アーティフィシャル・インテリジェンス、つまり人工知能です。これは最新の技術と古の精霊学を組み合わせた、科学と魔法の結晶です。これを使えばどんな人でも、内面に隠れる優れた素質を見つけ出せる。それはもぉ、大変に優れたモノなんですよ」
「は、はぁ。科学と、魔法……」
鼻息荒く顔を近づける男に思わず身を引く。まずいな、この子ネズミ男はいよいよ頭がおかしいようだ。薄々怪しいとは感じていたが、これは折を見て逃げ出さねば……
「それでは始めましょう。シアン・ウイークさんの隠された素質は……」
馬鹿馬鹿しいとは感じつつも、思わず身構えてしまう。一体何が始まるというのだ?
「こ、これは……え?」
男は箱を自分のほうに向け、何度も確認している。その顔がみるみる青ざめていくのが見てとれた。
「な、なにか?」
恐る恐る聞いてみる。チラチラ何かを気にする男はバツの悪そうな曖昧な表情をしている。
「シアンさん、大変申し上げ難いのですが……こちらを」
箱をこちらに向ける男はなにか口ごもったように話し始めた。箱の中の獣の横に文字が並ぶ、これがエーアイとやらの助言なのか?
「シアン・ウイークの基本素養、【英雄】……適性職、該当なし? は、はぁっ?!」
いかん、読み上げるうちについ大きな声を出してしまった。静まり返った部屋の中で俺の声は響いた。
――プ、クスクス……英雄ッテナニ、ククク
――……隣、ヤバソウ、クスクス
あからさまに周囲から嘲笑の声が聞こえる。
「こ、これはもしかしたら機械の故障かもしれませんね。ま、また後日ご相談にお越しいただければ……」
「待ってくれ! なんとしても俺は仕事を見つけたいんだ。頼むっ! 何でも構わないから、他に手だてはないのか?!」
このままでは帰れない。それどころか、今朝の夢の通りになってしまうではないか。
「い、いや、そうは言われましても。此方としても適性でない方に仕事を紹介するのは信用問題に関わりまして……」
「何だってする、頼む!」
狼狽える子ネズミ男に何度も頭を下げた。恥を捨ててでも、今はこの男にすがるしかないのか。くそ、俺は一体何をしているのだ。
「いやー、困りましたな。ん?……、これは………シアンさん! 一件だけ適性不問の仕事先があります。ちょうど今朝届け出が来た会社で、あぁ、でも大丈夫かなココ……」
「ほ、本当ですか?! 何でも構いません、そこを紹介して下さい」
子ネズミ男は少し渋った様子で何度も聞いてくる。その度に俺は構わないと首を縦に振り続けた。
ようやく辿り着いた仕事、決して手放す事など出来ぬ!俺の強い意思に根負けしたように、男は詳細の書いてある紙切れを手渡してきた。
◆
「ここがこうだから……この道を曲がればいいのか?」
子ネズミ男から手渡された仕事先への地図を手にして、俺は目的地へと彷徨っていた。地図の他には詳細な募集要項が記載されていたのだが、正直半分も理解できなかった。
「会社の名前は……【ラピッシュ】、フローリスト募集中……? このフローリストってのは何なんだ? まったく分からんが、とりあえずこの数字が貰える報酬の額といったところか」
時給1050ベル。この時代の通貨らしい。この数字が多いのか少ないのか、俺にはさっぱり分からない。ただ今は何とか掴んだ希望にすがるしかなかった。
考えながら進むうちに、気が付けば広場から大きく離れた路地裏に到着していた。賑やかだった広場とはうってかわり、このあたりは閑散としている。
「この辺りで間違いないと思うのだが」
道を訪ねようにも、さきほどから歩いている者を一人として見ていない。本当にこんな寂れた場所なんかに仕事があるのか?
「あ、あ、あの……」
「ん?」
どこかで声が聞こえた気がしたが、周りには誰の姿もない。やはり一度ハローズワークショップとやらに戻って正しい道順を聞いてくるか……
「あ、あの、もしかして、き、求人を見て来てくれた方ですか?」
今度ははっきりと声がした。振り向いて探す、目を凝らすと古い建物の前で何者かが立っている。
「ああ、あなたが雇い主ですか? えぇっと……」
慌てて紙を取り出す、何て名前であったか。
「は、はい、ウチが【ラピッシュ生花店】です。よ、ようこそ」
栗色の前髪を何度も撫で付ける少女は確かに【ラピッシュ】という名を口にした。
……セイカテンとは一体? 何かの店なのは確かだが、この店前の様相……本当に大丈夫なのか?