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レッド・ヘッド・ドレッド・ドラゴン ~希代の暴君は蘇る~ [※尚、転生先は中途で新婚です]  作者: 夏野ツバメ


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不倫旅行?いいえ、オープンキャンパスです

 あれから数日。シアン・ウィークの過去について俺は調べ始めた。



……とは言ったもの、どうやって調べたものか



 他人の過去を調べあげる行為など、これまで行ったこともない。ましてや当の本人が自分の過去を調べるなど、尋ねられた方はどれだけ困惑するであろうか。



……そもそもいったい誰に何を聞き出せるというのだろう。この町にはシアン(こいつ)の過去に詳しいヤツなんて……



 頭に浮かんだ顔は最愛の(リリィザ)だけだ。言うまでもなく配偶者(シアン・ウィーク)については、一番詳しいだろう。


……いっそのこと記憶喪失を装ってリリィザに聞いてみるか? 待て待て、そんな馬鹿な事が出来るものか



 そうだ、彼女は同時に一番尋ねてはいけない人物なのである。そんな事をしてしまえば自分(シアン)の中身が別人であると白状している様なものだ。



……いや、そもそも何を日和っておるのだ?! 俺はあの暴君(レッド・ドラグーン)だぞ。本来の目的を忘れたのか、俺は奪われた我が国へルセリア……いや、今はベルフリアか。どっちでも構わんッ、再び我が国を手中に治める事のはず! こんな庶民の生活、その気になれば捨てることなどいくらでも……



 午前は並べられた花の水換えにてこずり、遅めの昼食になってしまった。いつも通りの手際で持参した弁当に手をつける。今日の塩漬け肉は衣がついて金色に輝いているではないか。俄然沸き上がる食欲と愛妻の笑顔、思わず顔がニヤけてしまった。



……はぁ、今日も美味しそうだなぁ。きっとリリィザは、俺が喜ぶと思ってこんな馳走を持たせてくれたのだなぁ


 幸福感という雫が胸の中に広がり、感情を染め上げてゆく。そして(レッド・ドラグーン)の思考は延々とループするのであった。



「ただいまー……あれ、シアンさんこれからお昼? お疲れ様……ってお父さんは?」


「ああ、ラズリおかえり。店主(マスター)ならさっき卸し先に出掛けたよ」


「うわっ! なにそのお弁当、美味しそう。ねぇねぇ、ちょっと一口ちょうだい」


 学校から帰ってきたラズリは俺の愛妻弁当を見るや、物乞いのように迫ってきた。宝を守る番人の如く、俺は弁当を腕で囲う。


「駄目だ、これはリリィザが僕の為に作ってくれたんだ、一口足りともあげられない! それにお前、昼食は食べてきたんだろう?」


「えー、ちょっと位いいじゃん。リリィザさんの作るご飯っていつも美味しそうなんだもん」


 俺の弁当を羨ましそうに眺める彼女を見ていると、アンドリューから頼まれた相談話を思い出した。


『大国ベルフリアをラズリに見せてくれないか?』



……いや待てよ? そうか! その手があったじゃあないか。ウィーク夫妻はベルフリアで暮らしていた。ならば何かしらの手がかりがあるはずだ。シアン・ウィークの過去を知っている人もいるのではないか? 


 一人考えを巡らせていると、視界の端でコソコソと動く影が見えた。

 

「あ! 待て、盗み食いするなッ」


「ちょっと味見だけだよ……あ、すごぉい。こんな美味しいの食べたことないかもぉ」


 目を離した隙に一口かじられた。コイツ人様の(メシ)に手を出す気か?!


 齧られた弁当を取り戻すと、彼女は幸せそうに呟く。


「はぁぁ、やっぱりリリィザさんのご飯美味しいなぁ……」 


「くそぅ、油断も隙もないな……ところでラズリ。()()()はもう決めたのか?」


「急にどうしたの? 決めるも何も私はこの店を……待って、わかった。もしかして、お父さんに何か言えって言われたんでしょ?」


 感のいいラズリは一言で父親(アンドリュー)の目論見を看破した。むくれながらに文句を続ける彼女をなだめて、俺は本題を切り出す。


「ああ、そうだよ店主(マスター)に頼まれたんだ。一緒にベルフリアの街を見に行ってくれないかってね。今後の人生において知見にもなるし、一度くらい見ておいても損はないんじゃないか?」


 我ながらナイスな説得だ。ラズリは唸るように考えた後、なぜか段々と顔を昂揚させたのであった。


「この町からベルフリアまでは色々乗り継いでも1日位はかかるだろうし……い、一緒にって事はつまり……」


「ああ、旅費は店主(マスター)が用意してくれるらしい。しかも僕には三日間は()()()()()()()()もくれるってさ」


「あ、で、でもっ! リリィザさんも一緒に行くんだよね? アハハッ……そらなら安心、うん、そうそう……」


「ああ、リリィザにも聞いてみたんだけどさ。都合がつかないらしくて行けないらしい」


 アンドリューから相談を受けてすぐに(リリィザ)に相談してみたのだ。彼女はなんとも歯切れの悪い口振りでベルフリアには行けないと答えた。それどころか、俺がベルフリアに行く事すら止めようとしていたような?


……もしかしてリリィザは、ベルフリアが嫌でこの町(サンスレビア)に越してきたのであろうか? 気丈な彼女にしては珍しく動揺していたな……


 

「そそ、それはまさか、ふ、ふたっ、二人きり……お、お泊まり旅行……ふ、不……倫……旅行?! でも、リリィザさんに悪いかも……でもでも……」


 耳まで真っ赤になったラズリはゴニョゴニョと何事か呟いていた。リリィザに続いて彼女もベルフリアに行きたがらないのだろうか?


「学校も休まなきゃだろうし、嫌なら僕から店主(マスター)に言って断って――」


「い、行きますっ、絶対に絶対に行きます! 断らなくていいから!」


 彼女の猛烈な勢いに驚いた俺は、思わず箸を落としてしまう。鼻息荒く、何度も顔を縦に振る彼女を宥めるように俺は答えた。


「そ、そうか? じゃあ店主(マスター)には僕から伝えておくよ」


……もとより一人でもベルフリアには向かうつもりではあったが……さては、ラズリも本当は()()()()とやらに行きたかったのだな? だとするとまた一つアンドリューに貸しができる。これはまた時給も上がるやもしれんな!


 俺は自らの善行に淡い妄想を抱いたのであった。

 






 

 


 



 





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