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レッド・ヘッド・ドレッド・ドラゴン ~希代の暴君は蘇る~ [※尚、転生先は中途で新婚です]  作者: 夏野ツバメ


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傷は良いこともある

 いつも通りの平穏なウイーク家の食卓。今日の朝食は隣のドナー家から頂いた新鮮な野菜が並んでいる。


『形が悪いから出荷できないんですよ……』


 フェルウンはそう言って大きな箱一杯の野菜を持ってきてくれた。確かに不揃いで所々キズがあったりもする。


『でもねシアンさん。傷を負うとそこを守ろうとして野菜は甘くなるんですよ。人も傷付くと優しさを持つ、人生と同じですねぇ……』


 人も野菜も、傷のひとつやふたつも背負わなければ大物には成れないと云う事だな。


 意味のない独り言を心で呟くと、丸々と実った野菜を噛る。うん、やっぱり旨いなぁ……


 ――シアンさん……ちょっと……


 台所から妻の声が聞こえた。


 朝が早い仕事のある日も、リリィザは俺の為に必ず朝食を用意してくれている。本当に感謝で頭が上がらない。俺に出来る唯一の恩返しは仕事で家計を支え、妻に少しも不安を抱かせないことだろう。


 シアン・ウイークに転生した【稀代の暴君】レッド・ドラグーンは、この頃は完全に日和っていた。


「どうしたんだい、リリィザ? 何か困った事でも……」


 妻のいる台所へ向かうと、後ろ向きで背中を丸める彼女が見えた。その姿に「おや?」と思い、もう一度声をかけてみる。


「リリィザ、どうかしたの?」


 なぜか反応がない。一瞬の沈黙、間をおいてゆっくりと彼女は振り返る。スローモーションのように映る彼女の表情に、俺の危機感が反応したのであった。


「ど、どうしたんだい……リ、リリィザ……」


「ねえ、シアンさん……流しの下の棚に妙なものがあったの。……何か知ってます?」


 彼女の手には見覚えのある鈍い色のプリーツドレスが握りしめられている。静かな口調と感情の読み取れない冷たい表情。間違いなく妻は憤慨している。


 あ、あれは……アンドリューと行った【エル・メルラルド】で借りたドレスッ?! そ、そうだ……慌てて隠した後、何処にしまったのかすっかり忘れてしまっていた


「シアンさん……正直に話して……? ただ……許すかどうかは別の話しだけど……ね?」


 リリィザは冷たい目をしたまま口元だけで笑っていた。彼女のドレスを持った反対の手に何が握りしめてあるのか、流し台の上で頭を落とされた魚を見ればすぐにわかる。


「ま、ままッ……待ってく、れ。これには訳が……」


 まずい、完全にリリィザは俺を疑っている?! 普段優しい彼女がここまで怒る姿を俺は見たことがないが、これは絶対にヤバいやつだ……


「訳? そう……もしも、()()()()()()だったら……」


 そう言うと妻は俺の方を見つめたまま、後ろ手に握りしめていた出刃包丁を転がる魚の頭に突き刺した。


「さぁ、話して?」


 これは間違いない。言葉を間違えたら、俺もまた一つ傷を負うことになるだろうなぁ……いや、むしろ傷で済むと良いが……


 シアンは覚悟を決めたように生唾を飲むのであった。




「……という訳なんだ。店主(マスター)に確認して貰えばわかるよ、本当にトラブルから借りただけで……断じて君の心配するような事は何もないから!」


 俺は必死でドレスを持ち帰った経緯を説明した。時折目を細めたり冷たく相槌をうつ妻は、俺の話を一通り聞き終えるとしばらく黙っていた。


「り、リリィザ……信じてくれる?」


 妻は目を閉じて大きく深呼吸をするように息を吐いた。そして大きな瞳をカッと開いて顔を近寄らせると、俺の鼻頭を詰まんで口を開いたのである。


「それならそれで、初めから話して下さい。まったく……心配させるような事ばっかりして」


 妻の表情がいつもの優しさを取り戻していた。全身の強張っていた力が抜けるように、俺は天を仰いでしまう。


「よかったぁ……」


「よくないです!」


「えッ?!」


 間髪入れない妻に、安堵したばかりの身体を身構えてしまう。


「自分だけそんな楽しそうなお店に行って。今度は絶対に私も連れてって下さいね?」


「あ、ああ。楽しそうな場所かどうかはわからないけれど……」


 意外な言葉に困惑してしまうが、すぐに俺は気がついていた。リリィザは意外に新しいモノ、流行りモノ好きだ。この町で一番の人気ってところに惹かれたんだろうな……


「約束ですよ? 今週末にでも行きましょ」


 リリィザはとても嬉しそうに笑った。ああ……やっぱり笑顔が一番可愛い……



「あら、シアンさん時間大丈夫ですか? そろそろ出ないと……」


「あ! まずいッ、今日は早かったんだ。ご馳走さま、いってきますッ!」

 

 時間に気がついた俺は急いで残りの朝食を口に詰め込む。荷物を担ぐと扉を開けた。後ろ手に妻の優しい声が微かに聞こえるのであった。





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