およそ【千年モノ】の金臭さ
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「まったくお前は、本当に大したヤツだよ!」
俺の背中を何度も叩くとアンドリューは豪快に笑って喜んでいた。当人はじゃれてるつもりなのだろうが、彼の見た目通りの力強い大きな手に俺は小さく呻き声をあげてしまう。
「それで! 一体その場所は何処を指したら分かるんだ?!」
広い荒野に突き刺さる一本の鍬、その回りを囲う等間隔で石ころ。殊更、珍妙なそれを囲んで皆が期待を込めて聞いてくる。
「そ、それが……ここからは運次第と言えばいいか。頼みの手掛かりがないというか」
「どうしたんだよ? あとは影がその場所を示すのを待つだけなんだろ」
早くも歓喜に沸き立つ皆に、俺は歯切れ悪く話した。そう、塔は確かに財宝を隠した場所を影で示しだす。しかしそれはあの巨大な見張り塔であったからこそ作り出せた影であり、貧弱な鍬の針からはそれほどの長い影は写し出せないのである。
「方角は分かるんだ! ただ、財宝の隠し場所まで届くほどの大きな影は作れない。隠し場所を見つけ出す鍵はやっぱり影が必要で……」
俺の声が尻すぼむ、皆の顔が一瞬にして落胆の色に変わるのがわかった。
「なぁに言ってやがんだ? それなら予想出来る方角を片っ端から探せばいいだろ。雲を掴むような話が現実味を帯びたんだ。それだけでも充分だろ、なぁみんな!?」
「そうですよ! 皆で手分けして探せばきっと見つかります。シアンさん、その方角は日時計が何時を指した方向なんですか?」
士気を失いかけていた皆の表情は、二人の声で再び奮い立った。俺はその声に震えるような妙な感動を覚えたのだ。
「二人とも、ありがとう。塔が示す方向は、川からちょうど反対に伸びた先あるはずだから――」
細長い白木の柄は、斜めに一本の黒い影を落としている。北を指す鍬を囲むように置かれた即席の文字盤を順番に数えてゆく。
「つまり隠し場所を指す影は昼過ぎの十五時くらい……おい、もうすぐじゃねぇか!」
懐中時計で時刻を確認するアンドリューが騒ぎたてると、皆の視線は頼りない鍬の影に集まったのであった。
◆
俺達は影が指し示す方へ、川から遠ざかるように荒野を歩き出した。少しの見落としもないように、皆注意深く辺りを見渡して進む。
しかし、これと言った成果も見当たらないまま進み続ける事およそ一時間。あっという間に剥き出しの岩肌が覗く丘まで辿り着いてしまった。はじめこそ高まっていた皆の士気は、容赦なく照りつける午後の日差しでみるみる落ちていったのである。
「なぁ……随分遠くまで歩いたが、やっぱりこっちじゃねぇんじゃねぇか?」
「そうですね。一度戻りながら、探す範囲を広げた方が良いかもしれませんね」
「いや、この辺りであっているはずだよ。ただ……やっぱり手掛かりが少なすぎる」
岩山をやみくもに探しまわると、途端に疲れが押し寄せてきた。ここまで辿り着いて尚、今一歩のところで躓いてしまう。次第に誰もが言葉を発する事もなくなっている。気がつけば太陽の光も僅かに角度を落としている。誰もが諦めを意識してしまっていたのである。
ここまで来て手詰まりなのか? きっと何か他に方法はあるはずだ……クソッ、レッド・ドラグーンだろ! 何か、他に手掛かりが無かったか?! 思い出せ、思い出せ……
岩山に両手をついて項垂れた俺は、過去の自分を思い出そうと何度も頭を振った。太陽光をたっぷりと浴びた岩肌から、チリチリと熱を感じた。成す術もなく、ただジッとその岩肌を見つめる。
ん……?
違和感を感じて目を凝らした。視界の片隅が微かに色を変えたのである。
「これは、影……一体何の……?」
「おい、あれ見てみろッ!」
アンドリューが叫んだ。皆その声に顔を上げる。
『――おぉーい、そんなところに居たら危ないぞぉぉぉ』
巨大な鉄の塊がこちらに向かって進んで来ている。以前、隣家の処で見たような鉄の車。いや、向こうに見えるソレはあの時よりも遥かに巨大である。鋼鉄の車に乗り込んでいる男が、俺達に向かって叫んでいた。
「爆破施工前のボーリング調査か! ロチルド財団の野郎、もう手配してやがったのかよ」
やや離れた場所に止まる鉄の車には、ここから見てもわかるほど長い棒のようなモノが取り付けられている。それが太陽光を背負い、長い影をここまで伸ばしていたのだ。
「店主、これだッ、これだよ! もっとこの影を左にッ、早く!」
俺は思わず叫んでいた。アンドリュー達は一瞬戸惑いの表情を見せたが、慌てる俺の姿に何かを感じ取ったように頷きあった。
「左だな? よぉし、俺達であのボーリングマシンを動かすぞッ!」
――オオオォォォッ!
雄叫びのような声を上がる。アンドリューは十数人を引き連れて鉄の車へ向かって駆け出した。
『――な、なんだぁ、あんたらわぁ?!』
遠くで騒がしい声が響く。すぐに聞き覚えのある叫び声が耳に届いた。
『――シアンッ! こっちでいいかぁぁッ』
声の主はアンドリューだ。視界の中を大きな黒いモノが動いた。
「そのままッ! もう少し左へ!」
思うままに叫んでいた。離れた場所から伸びる影が俺の顔を横切った。すぐ隣で見守っていたリリィザが何かに気づいて口を開いた。
「シアンさん見て、岩肌が光ってる!」
「ああ、これがロチルド卿が隠した、財宝の在りかだ」
うっすらと陰る岩肌がキラキラと輝いている。説明する間もなく、俺はアンドリューから借りていた鍬を握り締める。力まかせにそれを振りかぶると、光る岩は簡単に崩れ落ちた。
「う……」
崩れた隙間から中を空気が吹き出す。強烈な金臭さが俺とリリィザの顔に吹き掛かると、二人同時に呻き声が漏れた。
長きに渡り隠されたロチルド卿の財宝は、約千年もの時を超えて俺達の前に現れたのであった。




