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レッド・ヘッド・ドレッド・ドラゴン ~希代の暴君は蘇る~ [※尚、転生先は中途で新婚です]  作者: 夏野ツバメ


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……作戦忘れてない?

週に2~3話更新です!

是非ブックマークよろしくお願いいたします!

 どこか近くで騒がしい声が聞こえる、きっと彼女が舞台に立ったのだ。薄暗い廊下を進む俺は、その声を頼りに舞台を目指していた。


「こっちか? 声は向こうから聞こえる気がする」


 確かめるように呟きながら進む俺は、ここに来た目的をすっかり忘れてしまっていた。



 ――ワァァァァ……


 一際に大きな歓声が聞こえる。壁を挟んだ向こう側が舞台袖のようだ。止まない拍手に混じって誰かが話す声が聞こえる。ようやく中へ続く入り口を見つけ出した俺は、そっと扉を押し開けた。途端に広がる熱気が顔にかかる、同時に歓声の波が耳の奥に押し寄せて来た。


『……今夜も楽しんでいって下さい。それでは次の曲、【落葉の恋】聞いてください』


 聞き覚えのある透き通った声が聞こえたかと思うと、今度は一瞬にして静寂が訪れた

。僅かな間をおいて、ゆっくりと音色が流れてゆく。



 この時代の歌というのは初めて耳にするが、この何重にも重なる音色はなんとも心地よい。平和な時代では芸術や文化も多様に進化するというわけか。俺の生きた時代には、こんな余興を開く暇など微塵もなかったからな……



 舞台上で歌うバニア・ルゥは数多の光に照らされて輝いていた。彼女の歌声はまるで、大海の流れのように押し寄せては消えてゆくのである。気づけば俺は、その歌声にすっかりと聞き惚れてしまっていた。



『♪︎――ひとりの為に残した贈物(プレゼント)は、きっと現実(リアル)では誰も知らない。語り尽くした二人の日々が永遠に訪れなくとも。真実はきっと変わらないから……空っぽになった枯れ落ち葉、これは本当の愛だから……』



 バニアの口から飛び出てくる数々の言葉達は、聞き慣れない時代の言葉ばかりだ。しかし、なぜだか意味は理解できる。ふと頬を伝う感触に気がついた。


 なんだこれは……なぜ俺は泣いている? いや、違うぞ。これは身体(シアン)が反応しているんだ。彼女の詩を聞いて何かを感じているのか?



『♪︎――再び出逢える春を待ち焦がれ、長い長い夜の星を見上げるの。プロローグはずっと先に……』



 歌が終わると同時に絶え間ない歓声は、一斉に大きく響いた。我に返った俺が涙で濡れた顔を拭うと、僅かに色のついた染みが袖につく。どうやら涙でラズリが施してくれた化粧が落ちたようだ。


 まずい、ついつい聞き入ってしまった。早くアンドリュー達の所へ戻らねば……しかし、本当に心地よい歌声であったなぁ……駆け出しなんて言ってはいたが、あの様子ならすぐにも人気者になりそうだな



 舞台で歌う彼女をぼんやりと思い浮かべながら、俺は急いでもと来た道を戻るのであった。






 薄暗い廊下を抜けるとようやく見慣れた階段が見えた。先程居たはずの【VIPルーム】とやらはこの先にあるはずた。急いで駆け上ろうとした俺は、壁に一面に張られた鏡に映る自分の姿に目を止めた。


 一番地味そうな物を選んだつもりだが、これでも充分派手だよなぁ……


 バニアに案内された控え室で借りた、着替えのドレス。深い鈍色のプリーツドレスの裾を引っ張りながら、鏡に映る姿をみては眉を落とす。一体いつまでこんな格好をしていなければいけないのだろうか? 溜め息ながら頭を軽く叩いてみる。


 さっさと金髪男(ヴィクター)に話を付けて、ロチルド財団の真意を確かめるしかないな


 覚悟を決めたように頷くと足を進めた。階段を登りきる直前、大きな笑い声が廊下に響いた。


 今のは、アンドリューの声だよな? 


「オゥッ! 遅かったじゃねぇか、どこほっつき歩いてたんだよ? バニアちゃんの歌はやっぱり最高だったし。こっちはもぅ、盛り上がって盛り上がって……なぁヴィクターさん?」


「えぇ、えぇ! ヒックッ……シアーヌさん! 無事帰還、お疲れ様です」


 部屋の中に入った瞬間、鼻をつく強烈な酒の匂い。なにがそんなに可笑しいのか、真っ赤な顔をした二人は肩を組んでゲラゲラと笑いあっていたのである。


 この短時間で一体どれだけ飲んだんだよ? 完全に泥酔じゃないか……


「シアん……いや、シアーヌもこっちで飲もうぜ。ほら、コイツは効くぜ?」


 普段よりも饒舌なアンドリューはそう言って小さな瓶を投げて渡した。中身はどうやら酒らしい、栓を抜いて匂いを嗅いでみる。


「……くッ、くっさぁッ、中身、本当に酒なのか?!」


「あったり前だろ? これはこの町に昔からある地酒なんだぜ! 度数96%の最上品さ」


「う、うまぁい、ですよ? シアーヌさんも、ヒック、ほら、どうぞ」


 鼻をつく強烈な臭いからして、まともな酒じゃない。とてもじゃないが、口をつけることを躊躇ってしまう。


「そ、それより、二人共。仕事の話しは進んだのですか?」


 俺は手元の酒を置くと、話をそらすように本題について尋ねた。真っ赤な顔をした二人には、俺の声がまったく届いていないようである。


「よぅしっ! 今夜はとことん飲むぞッ、ヴィクターさん最後まで付き合えよ?!」


「もぅ、もっちろんれす。ヒック、朝までやりまひょう」


 呂律も回らないヴィクターと、もはや作戦など微塵も頭にない上機嫌のアンドリュー。二人は楽しげに高笑いを続けるのである。


 ……おいおい、一体これからどうすればいいんだよ


 希代の暴君と恐れられた男は、たった二人の酔っぱらいに頭を悩まされるのであった。

 

 

 


 

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