夜はこれから、ここは不夜城
週2~3話更新です!
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【サンスビアの夜に激しく輝く場所、キャバレー【エル・メルラルド】。宵闇の中に浮かぶ色鮮やかなネオン。優美なステージを目当てに、今宵も眠らぬ人々は集うだろう。まるで灯に集まる蝶のように、彼等はこの妖美な店へと吸い込まれてゆくのだ。一度その扉を開けばそこは不夜城。欲望と快楽が渦巻く、まさに桃源郷……】
カウンターに置かれた派手な紙切れを一枚拝借すると、そこには【エル・メルラルド】についての説明書きがチカチカするような文字色で綴られていた。
……なんか凄い事、書いてあるな
薄暗い店内を忙しなく動きまわる照明に、目が眩みそうになる。細目で辺りを見回すと、広いフロアの中央に大きな舞台が据えられていた。高床の壇上は、色とりどりの光源を集めて一際輝いている。それを囲うようにいくつも置かれたテーブルには、グラスを片手に大勢の人々が騒いでいた。
「さぁ、こっちへ。この店で一番のVIPルームだ」
少し先から声が聞こえた。階段の前に立ったアンドリューは上機嫌で手招きをしている。気後れするヴィクター・ロチルドが不安そうに俺の顔を見たのであった。
いやいや、俺に助けを求めるな?! そんな目で見つめられても……俺だってこれから何処につれていかれるのか知らない
堪らず、その場しのぎの愛想笑いを返してみる。ヴィクターは少し口角をあげて困ったような表情で首を傾げると、ゆっくり足を進めはじめた。
奴に見られる度、バレていないかと心拍が高まる。くそぅ、少しも気がぬけん……
足元だけが緑色の照明に照らされた階段を昇ると、幾つかの扉が並んだ広い廊下に出た。そのうちの一つ、半開きになった扉の中からアンドリューが手を振って呼んでいる。ヴィクターに続いてその部屋に入ると、俺は思わず声を漏らしてしまった。見晴らしの良い巨大なガラス張りの壁と、大きなソファーテーブルが並ぶ。広い室内を見回すと、いかにも高級そうな装飾品たちで飾られている。
「さぁ、ヴィクターさんはこっちに座って下さい」
「ありがとうございます」
アンドリューに言われるがまま、大きなソファーに腰をおろす。座席の正面に広がるガラス張りの向こうには、先程入り口で見た舞台を見下ろす様な造りになっていた。思わず下を覗き込んでしまう。
凄いな上から覗いたら、まるであの舞台が宙に浮いているように輝いている。これは確かに不夜城だ!
俺がガラスの向こうに釘付けになっていると、金髪男のかしこまった声が聞こえた。
「ではさっそく、本題に入りましょうか。先日のお話ではラピッシュ商会さんの工事計画ならば、ロチルド財団が手配した地盤業者よりも価格を抑えられるとか……」
「まぁまぁ。まずは今夜の出会いに一つ、乾杯でもしましょうよ。仕事の話しはその後で! ロチルドさん、酒はいける口ですか?」
突飛に話しを変えるアンドリューは、手際よくグラスを渡した。彼の慣れた手つきに、ヴィクターも抗う事も出来ずグラスを受け取った。
「おい、シアーヌ、早くヴィクターさんに注いで差し上げろ」
「へ? あ……はい」
そうだった、今の俺は秘書のシアーヌ……一瞬、誰の事かわからなかった。アンドリューめ、なかなか芝居が上手いな
テーブルの中央に置かれたド派手な酒瓶を片手で取ると、俺はヴィクターのグラスに近づけた。
「バカ、お客様に失礼だろ? ちゃんとしっかり両手で注げよ。……ったく」
「す、すいません」
くそ、アンドリューめ、いくら芝居とは言え覚えとけよ……今度ラズリに言って、嫌いなモノだらけの朝食にしてやる……
俺は渋々、もう一度手を添え直してグラスに注ぐ。「ありがとう」と微笑むヴィクターに、ひきつった笑みで会釈するのであった。
◆
『失礼します、ご来店ありがとうございます。今日は私のステージも、ぜひ楽しんでいって下さいね』
短いノックの音が聞こえたかと思うと、透き通るような美しい声が広い部屋の中を走った。突然の来客に驚く俺達の視線は、開け放たれた扉の前に立つ一人の女性に集まった。
「あれ? リューさん! 今日来てくれたんだ。嬉しいっ、ありがとう」
VIPルームへ入るや否や、その女性は親しげにアンドリューに抱きついた。何がどうゆう事なのかわからない。驚く俺達をよそに、アンドリューはしまりのない笑みを浮かべて喜んでいるのである。
「ああ、もちろん! バニアちゃんの舞台はいつもの予約してんだよ」
上機嫌の彼の顔になぜだか不快感を覚えてしまう。
リューさん? アンドリューの知り合いか? あれ……コイツもしかして……今日の計画の為に用意したって言っていたが、実は元々この店にくるつもりだったのか?
派手な色合いのミニスカートドレスを着た女性はパッとアンドリューから離れると、顔にかかるピンクのウェーブ髪を片手でかきあげた。胸元の大きく開いた露出の激しいドレスに負けないほど妖艶なその顔立ち。それよりも目を引いたのは彼女の頭部で動く獣の様な二つの耳と、左右で色の違う大きな瞳だった。
「あれ? 今日はお連れの方がたくさんね。上品そうで素敵な殿方と……」
女性の青色と黄色のくりっとした愛らしい瞳が、俺とヴィクターを交互に見つめた。まだ一杯も口にしていないのにヴィクターはもう顔が赤くなっている、いや……俺も同じであった。
「こちらは商談相手のロチルドさん、こっちのは俺の秘書のシアーヌだ」
アンドリューの簡素な紹介に軽く頭を下げてみる。
「はじめまして。ご来店ありがとうございます! 私はバニア・ルゥ、この店で歌手と踊り子をしています。まだ駆け出しなもので、応援して貰えると嬉しいです」
深々と頭を下げる彼女に恐縮してしまう。
「バニアちゃんの歌声は一度聞いたら絶対ハマるぞ! 俺はもう大ファンになっちまってな」
「「はぁ……」」
興奮するアンドリューの姿に、ヴィクターと共に呆気に取られてしまう。




