朧火
一つ二つ三つ。
今日も私は階段を下っていく。
父様は今日もお忙しくて。
先生は今日も厳しくて。
いろんな思いを抱えた心を落ち着かせたくて。
階段を下りきった先に腰を下ろす。
薄暗い大きな部屋の中。
じっと見つめるその先に、少しずつ目が慣れてくる。
細長く、綺麗な模様が刻まれた石が並ぶ部屋の中。
仄かに光る玉が浮かびはじめ
部屋の中を舞うように踊り始める。
そんな光の群舞を見つめている。
ただただ無心に見つめ続ける。
大丈夫。
まだ私は頑張れる。
この歳で兄さまが知っていたことを知らなくても。
この歳で姉さまが出来ていたことが出来なくても。
あれほど私の中で渦巻いていた劣等心も。
叫びだしてしまいたかった激情も。
今は信じられないほど穏やかで。
まだ私は大丈夫だと。
明日も頑張れると思えるほどに。
まるで私を抱きとめてくれるようなこの場所は、
私にとって、とてもとても大事な場所。
名前も知らぬ女官は墓所と言っていたけれど、
何を思ってそんなことを言ったのだろう。
部屋の中を踊っていた光は、
静かに石の中へ戻っていく。
私もそろそろ戻る時間だ。
大丈夫。
私は大丈夫。
私には心を安らげられる
私を受け入れてくれる
この場所があるのだから。