第五十四話 やらなきゃいけない事だらけ。
“成長促進”を使って他の種も成長させる。
味噌、カレー(固形のルーの味で液状だった)、めんつゆ…ほぼ私の好きな調味料しかない。シチューとか中華系の調味料とかも作ろうとは思ってけれど、取りあえず四つの調味料で色々料理を考案しようと思う。
考案って言っても、前世食べた料理の丸パクリだけど。
「小さい規模のレストラン、メニューは定食屋みたいな感じで。最初にカレーは見た目的にハードル高いかもしれないから、この世界の人が食べようって気になりやすいものがいいよね。」
リティシアは腕を組み、首を傾げて「うーん」と唸る。
この世界で提供される食事メニューは、ほぼ洋食一点集中だと思う。
他国に行った事がないので、少なくとも、私が知る範囲ではこの国では洋食だけだった。公爵家の馴染みの商人が持ってくる品物でも和食を感じる食材が持ちこまれた事はないと思う。
そういう食材が出た料理がないだけで、もしかしたら料理長すら知らない食材で使ってないだけかもしれないけれど。
一度食糧庫を見に行くのもいいかもしれない。
記憶が戻ってから調理場には何度か足を運んでる為、料理長とも面識はある。
食糧庫を覗くくらいは許可してくれるかもしれない。
とりあえず…
目指せ前世の和食料理! である。
ただ…
和食は目新しいけれど、すぐに好きになって貰える味なのか分からない。
基本的に味覚に馴染みが無い物は受け入れられづらいイメージ。
まずは味覚に馴染みのある物に近いのを食べて貰って、この店は美味しいから他の物も食べてみたいになってくれるのが理想だ。
「オムライス…とか?」
それならケチャップとかソースとか欲しいな。
コンソメも欲しい所だけど、あの植物は液体じゃないとダメなのだろうか。
まずは作ってみようと決心する。
明日拠点に行ったら、ルカ・アイヴァン・セレスたちが受け持つ仕事の説明もしないといけない。
今日は部屋決めや屋敷内の説明だけして、マジックポーチに食事が入ってるからそれを食べるように話したら、時間が厳しくなってきたから帰らざるを得なくて
色々中途半端に終わったし。
屋敷の改造もしたい……それは今は後回しにしなきゃいけないけど。
「これくらいでいいかなぁ…」
いくつか考案したメニューを紙に書く。
後はこの紙に書いたメニューを試作して、その中でも受けの良かったものを決めて、ルカに作り方を教えよう。
―――翌日の明け方。
予めルカ達には、こちらに来るのは明け方近い時間である事を説明していたので、
スノウに転移して貰った時には、既にルカ達は起きて待っていた。
「おはよう、みんな」
「「「おはようございます、リティシア様」」」
三人のピッタリと息の合った挨拶で出迎えられる。
「早速だけど、今日皆のこの屋敷でのお仕事について説明します」
「「「はい」」」
商会を立ち上げるまでは、こちらの屋敷でその準備の手伝いをして欲しいこと。
商会を立ち上げてからオープンさせる予定の和食レストランでは、ルカにシェフと責任者になって貰う事。
メニューなどをリティシアが考案するので、試作品の試食をお願いする。
食べて気に入ったメニューがあったら教えて欲しいこと。
あまり美味しくないと感じるものも正直に話して欲しい事。
気に入ったメニューはルカに作り方を伝授するのでしっかりと覚えて欲しい事。
庭の端に畑もどきがあるので、その植物の世話もお願いしたい事。
生ってる実は食べてもいいけれど、調味料なので塩っ気が強いので気を付けて欲しい事、他にも色々説明した。
三人ともどんな仕事を任されるか不安だったのだろう。
訊いた仕事内容に戸惑っている感じだった。
「こんなに簡単なお仕事でいいんですか…?」
ルカが不安そうに問いかけてきた。
他の二人もうなずいている。
「ん…? 簡単かなぁ? 結構いろいろ押し付けたと思うけど…。平屋と言ったって結構な広さがある屋敷の掃除もお願いしてるし。」
「このように楽をさせて貰ってもいいのかと…奴隷ですのに」
「もっとお申し付け下さい」
ルカとアイヴァンがやけに仕事を強請ってくる。
奴隷として今までどんな扱いを受けていたのか不安になる程だ。
セレスは戸惑ったように私を見つめてくる。
「うーん…思いついたらまたお願いするから、今はこれくらいの仕事で我慢して欲しい。皆さん仕事熱心なんだね」
仕事熱心なのも対応に困る。
「「「わかりました、リティシア様」」」
「後は、キッチンの――――」
リティシアは今度は屋敷の中の説明に移り、三人は真剣な眼差しで話を訊くのだった。




