第五十話 奴隷商館へ④
―――厄介ごとの匂いはするけど…。
手元にある三人目の人の身上書をもう一度読む。
補佐の経験はあるようだ。
秘書的なのかどうかまでは書いてない、先ほど見た二番目の人に比べると簡素な内容だった。
出身地…不明か。
『全員購入しようと思うのだけど、いいかな?』
念話は繋がったままだったので、そのまま話す。
『聖なるものだからな、一度教会に連れてってやらねばなるまい。なぜ奴隷としているのかも分からないからな』
『リティシアちゃんが決めた事に反対はしないよ。害成す存在ならオスカーと私でどうにかしてあげるから大丈夫』
レグルスさんの不穏な発言への返答はしないでおこう…
『そうだよね、女神様案件だよね。厄介ごとにはなるべく近づきたくないけど、聖なるものに属するなら奴隷にさせておくのは何だか罰があたりそうだし…』
いい機会だし、色々ティナ様にも訊いておくか。
二人の奴隷を連れていったレイフェさんが戻ってきた。
「レディ、お決まりですか?」
微笑んで問う顔は大手の奴隷商館を経営するやり手には見えない。
「こ、ここに居る奴隷の方達、全員買います…」
レイフェさんの笑顔はドキドキするから直視しづらい。
「かしこまりました。では、売買契約書への記入と、奴隷の主をレディに譲る魔法契約書…こちらは魔力で契約して貰いますので、この書類の右下の魔術紋に魔力を流して貰えますか?」
テキパキと書類がテーブルに並ぶ。
指示された箇所にサインと、魔力紋に魔力を流す。
「奴隷を制約で縛る為のアクセサリーになりますが…どれになさいますか?」
二部ずつ用意された契約書類の一部を私に渡した後、またテーブルに今度はアクセサリーが収められてそうな箱が並べられた。
中身を見せるように次々に開けながら、レイフェさんに問われる。
「有名なのは首輪ですけれど、当店では他のアクセサリーも開発しておりまして…、
首輪より目立たないネックレスタイプと、指輪、ブレスレット、アンクレットとございます。周囲にこれは私の奴隷だと知らしめたいのであれば、やはりこちらの首輪が一番です。ああ首輪も今では種類がありまして……」
ふむふむと話を訊きつつ。
何が一番いいかなーと悩む。
奴隷だとしても首輪は何か嫌だったから、こうやって違う種類を選ぶ事が出来るのは正直嬉しい。
「そうですね…首輪は個人的に好きではないので却下で、作業の邪魔にならず極力目立たないものがいいと思うので…アンクレットにします。」
足首なら一番目立たないし作業の邪魔にもならないしね。
「レディはお優しいんですね。アンクレットでご用意致しますね。色も数種類ありますが…? ゴールド、シルバー、ヴァイオレット、ブルー、グリーン、ブラック――――」
まだまだ続く色の話を訊いてると、色だけで結構な数があった。
ピンクまであるんだ…女の子用かなぁ?
そういう細かいところまで配慮してるから、ここは大手なんだろうなと思った。
各自の髪色か目の色で決めてあげようかなと思うので、ブラック、ゴールド、シルバーに決めた。
レイフェさんが奴隷の三人の方に近づき、首輪に触れて【解除・移譲】と唱えた。
奴隷を縛る制約と隷属魔法でガチガチに縛ってるらしいソレはアッサリと外れた。
アンクレットを三人の足首にそれぞれ付けると、レイフェさんはこちらに振り向く。
「レディ、こちらのアンクレットに触れて魔力を流して頂けますか?」
「はい」
ひとつ頷いて言われた通りにアンクレットに触れ魔力を流した。
流した瞬間アンクレットの周囲がピカッと光を放つ。
やがてその光はアンクレットの中へと吸い込まれるように消えた。
眩しいっと思ったら消えていたので、ポカンとしてしまったが、レイフェさんに次と促されるまま二個、三個と魔力を流していった。
「これで、奴隷三人はレディの所有となりました。ギルドカードでお支払いを希望とのことですので、こちらの魔道具にカードを翳してもらってもいいですか?」
ギルドカードを指定された魔道具に翳すと、ピッと音がした。
何だか前世でこんな機械あったよね…と思う。
「お買い上げどうも有難うございました。」
「はい、また買いに来ます」
「レディは他に欲しい奴隷がいらっしゃいますか? それはどのような用途でお望みですか? 次来られる際には揃えておきましょう」
レイフェさんは商売上手なのかリサーチしてこようとする。
「従業員として欲しいので…どんなというのはまだわかりません…」
「そうですか、もし何か思いつかれましたから、レグルスに仰って頂ければ、すぐに私と連絡が取れますので、是非」
「はい、その時は是非…」
両手をガシッと握られてブンブンと上下に振られた。
そして、ぐいっと距離が近づく。
( 距離ちかっ)
商会を立ち上げて、まずはレストランを作ろうと思っているけど、規模はどのくらいとかはまだ考えていない。
まずは小じんまりとした隠れ家的なのを想定してはいるけれど。
そこで自分が食べたいものを作って貰おうと思っている。
稼ぐことより食い気の方が強いのは秘密。
「じゃあ、とりあえずいいかな? レイフェ、リティシアちゃんの要望を訊いたらすぐ教えるから。帰るからね」
レイフェさんがジリジリと距離を詰めてくるのをさっと間に入ってくれた。
商売上手はいいことなのだけど、ちょっと困っていたところだった。
飼い主がちょっと困っていたというのに、ユキとスノウはジッとしてるのに飽きたのか、窓から外を眺めたり奴隷三人の前に立ってジロジロと観察したりしていて、こちらを振り返りもしなかったのでレグルスさんで色んな意味で助かった。
最初案内してくれた人ではなく、レイフェさんに屋敷の外まで案内されて見送られる。
転移魔法は目立つので、しばらく歩いてから転移する事にした。
転移する場所はオスカーさんとレグルスさんのお家。
奴隷商館の建物が見えなくなってから、スノウの体のどこかを掴むように指示する。
奴隷の三人は訝し気な顔をしつつも主がいうことに逆らうことはできないので、素直にスノウの服の端をそれぞれ掴んだ。
まだ慣れないモヤモヤした感覚を感じた後、オスカーさんたちのお家に転移したのだった。




