第三十九話 この世界のお金の価値
「い、以上で納品は終わりですか?」
少しオドオドとしながら、私たちに対応するのはギルド職員さん。
チラリとギルド職員の印である胸元のプレートを見る。
書いてあるネームには“エリック・オドネル”と書いてあった。
( 姓があるってことは、貴族か )
貴族らしさ…っていうと変だけど、やけにオドオドしていて自信が無いのは何でだろう。ここまで視線がきょろきょろ忙しない人を初めて見た。
“まだ薬草自体はありますが、依頼が無くなったようなので…また次回来た時にでも依頼があれば納品します”
と、言いかけて…止めた。
「はい」とだけ答える。
「わかりました。で、ではっ査定をしますのでしばらくお待ち下さい…( この量だと時間掛かりそうだな…)」
この世界にアイテムボックス(収納魔法)はあるけれど、魔力量によって容量が限られていた。
今回、私が出した量は平均より二割程多めの魔力を持ってる人の収納できる量を出したから、然程違和感はないだろう。
ただ、時間停止という機能が収納魔法のアイテムボックスには無いため、まだあるけど次回に回すっていうはおかしい。
そういう、私は使えるけれど他は使えないし見た事も訊いた事もない事を把握していないと、悪目立ちしてしまう事に気付いてから細心の注意を払って発言するように気を付けている。
たまーにうっかりはあるけれど、何処で誰が聞いてるか分からないギルドでの発言でヘマをしたことはない。
依頼片っ端から取って済ませたら、結構な量になったからすぐには終わらないだろうなー。
ギルド職員が薬草を持っては奥の部屋に引っ込んで、またカウンターに戻ってきてまた引っ込むを繰り返しているのをぼんやりと見遣る。
魔物の素材を買い取りに持って行ってたユキが戻ってきた。
「金貨五枚になった」
口の片端をくいっと上げて得意げに笑う。
「ええ、なにそれすごい…」
やっぱり薬草よりも魔物素材の方が高値だ。
まだまだアイテムボックスには残ってるらしいけど、あまり一度に大量に出すのは目立つのでそこそこにして欲しいとお願いしていた。
金貨五枚って、どんだけの量を出したのだろう……。
「ユキと僕のギルド登録代、余裕で稼げちゃったね」
私の肩に顎を乗せてスノウがご機嫌だ。
この世界には前世のような紙幣というお金はなくて、全て硬貨になる。
銅貨が1000円、銀貨が10000円、金貨が100000円、その上が白金貨で1000000円。
それぞれ十倍ずつ価値があがる。
1円と10円という細かい単位の貨幣はなく、100円からである。
ちなみに100円は青銅貨だ。
シンプルで小さな丸いパン1個が青銅貨2枚だから200円。
そのパンが一番安い食べ物らしい。
私の前世の価値観でいうなら、この値段はちょっと高い。
この大きさなら100円でもちょっと…って思う。
私がケチくさいだけかもしれないが。
ギルド登録は銀貨5枚だった。五万円……凄く高い登録だけなのに。
色々思う事はあるものの、冒険者ギルドはこの世界のどの国にもあって、ギルドカードが身分証明書の代わりになるらしいので、身分を持たない平民からすると有難い物らしく、平民の子供がお金を貯めて一番最初に貯めたお金を使う先が冒険者ギルドでの登録なのだそう。
商業ギルドはある国と無い国があるらしいので、どんなに小さな国でもある冒険者ギルドは身分証明書として大変に優秀なのだろう。
それだけ巨大な組織となった冒険者ギルドを維持する為の割高登録料なのかもしれない…とは思うけど、それにしても高すぎ。
壁一面に所狭しと貼られてある依頼の記載された紙。
(この世界の製紙技術は高いんだな)
前世で日常使いしていた薄さの紙だ。
これだけたくさん使われてる所を見ると高価でもなさそう。
そんなことを考えながら、今回ランク上がるといいなと思っていると、
「お嬢ちゃん、久しぶりに見かけたな」
と、男性の低い声がする。
声がした方に顔だけ振り返ると、スノウがめんどくさいタイプだから嫌だと敬遠していた長身の男性が居た。
スノウが私の耳元で「うわあ、最悪…」と呟くのが聴こえる。




