第三十七話 執事服。
服を着てとはいったものの、私には兄も弟も居ないし、私のクローゼットにも男の子が着る服なんて持ってない。
アイテムボックスに入ってるのだって薬草か魔物の素材だけだった。
一枚だけでストンと着る服的なの入れた記憶があったんだけど、記憶違いだったのかも。
スノウと騒いだせいでユキも起きてしまった。
気付いたら上半身だけ起こしてベッドボードに上半身を預けて座って欠伸をしながら私達を見ていた。
スノウはサラサラした髪質だけど、ユキは少し癖のある髪質なのか寝癖がついてあちらこちらに跳ねている。
スノウが中性的な少し猫目の目尻が上がった美少女なら、ユキはキリッとした美少年って顔立ちだ。
「ユキ、スノウ、覚醒おめでとう。人化して服着ないまま部屋の外に出ないようにしてね。皆びっくりしちゃうから」
「今まで俺たちは服など着ていなかったが…」
「人化してなければそれでいいけど、したなら服着ないで外には出れないよ。人には人のルールがあって、裸でお外に行く事はルール違反だから。その姿で街に行ったら警らの人たちが来ちゃう」
スノウと似たような話をしてきたユキに説明する。ついでに訊いてるスノウにも「お願いね?」と念押し。
納得したようなしてないような微妙な表情のユキとスノウ。
「嫌なら人化は禁止」と言うと、渋々「面倒だが仕方ない」と約束してくれた。
メイドが私を起こしに寝室に入ってきて、見た事ない美少年が全裸で私を抱っこし、もう一人は上半身裸でベッドに座った光景を見てしまい「キャーーー!」と叫び声をあげられてしまった。
「ほら、こういう風になるから、二人とも気を付けて」と言っておく。
二人は実際こうなるんだという体験をしたからか、神妙な表情で頷いていた。
メイドに聖獣様が人化した姿だと教えて、着れる服が欲しいと伝える。
「執事長に訊いてまいります。使用人の制服になるかもしれませんが…聖獣様にそんなの着させていいのでしょうか…」と不安気だ。
「大丈夫だよ。聖獣様は服にそういう拘りはないと思うから」
ね?と二人に問いかければ、当然だと返された。
ホッとした顔のメイドが「執事長に相談して参ります」と退室する。
その後、メイドが見習い用の執事服を二着持って戻ってきた。
「こちらをとのことです。どちらも誰も袖を通していない新品なのでご安心下さいと伝言を預かりました」
おお、タイプの違う美少年が着る執事服姿…眼福だ。
動きを邪魔しないようにと身体にぴったりとしたデザインだ。
まるで誂えたように二人の細身の体型に馴染んでいた。
家族のようなユキとスノウだと分かっていなければ、推せる。
それくらい素敵だった。
手元にスマホがあれば連写機能を最大に使っていろんな角度から撮りまくっていただろう。
「とっても似合ってる…」
家族だけど、人化した姿を見たのは今日が初めてで、少しばかりうっとりしてしまうのは仕方ない。
顔が良すぎるんだもの。
「そう? じゃあしばらくはこの格好でいようかな?」
スノウが喜びを隠しきれないようにはにかんだ。
キュンと胸が鳴る。
何なのスノウ、その笑顔可愛い。
獣化しても肉食獣だというのに、小動物的な可愛さ。
まだ無いだろう母性的なものが刺激される笑顔だ。
「スノウは本当に可愛いね」
身長差が少しあるけど、背伸びしてまで思わず頭を撫でてしまう。
「うん、知ってる。リティシアは可愛い僕が大好きだもんね?」
うん、あざとい。
「俺は、どう?」
ちょっときつめのキリっとした顔立ちのユキが不安そうに訊いてきた。
スノウと違って、ユキはやっぱりカッコイイ、だ。
「ユキはとってもカッコイイよ!」
「そ、そうか…」
シャツの襟と袖をもじもじと引っ張って直す仕草をすると、少し頬を染めて私を嬉しそうに見てはにかんだ。
「あ、やっぱりスノウより可愛いかも」
思わずそう言ってしまう。
純度100パーセントだ、ユキは。
「ええー! 」
スノウから抗議の声が上がる。
チラリと見ると頬を膨らませてるのが見えた。
うん、あざとい。(二回目)
「スノウも可愛いよ、さあ、朝ご飯食べよう。お腹空いちゃってぺこぺこ!」
リティシアは拗ねるスノウをほっといて、ユキとさっさと食堂へと向かったのだった。
勿論、スノウが慌てて追いかけたのは言うまでもない。
人化した事で、今まで分かりづらかった表情がハッキリ見えるのは良いな。
食堂へ向かう二人の頭のてっぺんにぴょこんとある猫耳と犬耳が、ずっと嬉しそうにぴょこぴょこと動いていた。




