第三十話 ギルドはずっと開けている。
冒険者ギルドに登録して薬草納品のクエストを終わらせ、スライムの素材の買い取りをして貰った後、商業ギルドに行き登録だけを済ませた。
翌日にリーンハルト殿下が公爵家にやってきて御もてなしに大忙し(主に使用人達が)だったので、その日は次はいつギルド行くかの作戦会議もせずに何だか疲れて寝た。
そこから一週間―――
仮病はもう使いたくないので、別案を二匹と一緒に考えるけど、いい考えなど浮かばなかった。ただ時間だけが過ぎていく毎日。
記憶が戻るまでは一日中勉強してばっかりいたリティシア、その進捗具合は驚く程で7歳だというのに、既にもう14歳で習うレベルは修了し、現在は15歳程度を勉強しているらしい。
“らしい”と自分の事なのに曖昧なのは、これは異世界あるあるなのか分からないが、勉学レベルが小学生低学年をやってるからリティシアの年齢的に妥当と思っていたのである。
私の記憶が確かなら、今やってる所は小学校二年生から三年生くらいの算数をやっているのだが、この世界だと15歳が習うレベルなのだそう。
この算数の勉強の日を削って自由時間という名の休憩にすると両親に進言すれば、週一回、多い時は二回くらいギルドへとイケル! と思ったのだ。
…が、そうはいかないのよね。
算術、歴史、魔導学を習ってる先生は一緒の人なんだけど。
公爵家は裕福な貴族なだけあって一回の指導料が破格なのだそうで。
先生には来年、再来年にデビュタントを連続して迎える弟妹がいるらしく…。
あまり裕福ではない子爵家なものだから、仕送りをしているんだって。
ここまで言われれば後はお察しの通り…って訳で。
何て素晴らしい人なんだ! と感激した私に先生は苦笑しながら「算術を学ばなければ、仕送りが苦しくなるので…こんなことを幼いお嬢様に伝えるのは心苦しいのですが、算術がもういいのであれば別の講義を受ける気はありませんか?」と、頼まれる始末だった。
艶々したチョコレート色の濃い茶色の髪、長い前髪の下には丸い眼鏡をかけているので顔立ちは良く分からないけど、パーツパーツを良く見たら整っていらっしゃる。いつも穏やかで私が見当違いの質問をしても、笑って心良くその質問に答えてくれた後、脱線した話を元に戻しながら分かり易く教えてくれる先生。
頭ごなしに怒られる事もないし、私の「なぜ?」に根気よく付き合ってくれる人だ。流石、お父様が探して連れて来てくれただけはある。
凄くいい先生なんだよね…
そんないい先生から薬学、錬金術など教えられるのはまだあるのだと提案された私。
「まだ七歳のお嬢様に提案する内容ではないのですが、お嬢様ならしっかりと理解して自分の知識として吸収されるのではないかと…」
薬学も錬金術も興味がある! 教えて貰えるなら是非! と叫ぶ前にグッと我慢する。
ユキとスノウがあれ程楽しみにしてるというのに、その二匹に何も言わずに自分の一存で決められない。
「先生、お父様にも提案してみたいですし、少し考えさせて貰ってもいいですか?」と伝えたのだった。
それにしても、二十代前半だろう先生って超優秀な講師だったんだね。
まだまだ色々教えられる事があるって言ってたし。
薬学と錬金術は多分私の興味を引きそうだと言ってみたんだろう。
弟妹さんの仕送りが苦しくなるのはちょっと心苦しい…どうしたものか。
ユキとスノウにそう話すと、
『えっ、薬学も錬金術も学んだらいいんじゃない? 全部リティシアの為になるし、錬金術と薬学を学んで冒険者ギルドにポーションを納品すればランクも上がるし。』とスノウ。
『リティシア、別に朝や昼間にギルドに行ってクエスト依頼をこなさなくても、就寝してからしてもいいんじゃないか? 物凄い早起きをして明け方にでもいいが』
とユキに言われる。
「そんな時間までギルドやってる訳ないじゃない」と返すと、
『ギルドが時間によって閉まる事はないぞ、一日中やってる』と言われた。
「ええ!? 初耳だよ! ギルドって夜八時くらいで閉まってると思ってた」
ファンタジー小説とかでギルドが閉まる前にとか表現ありましたけど!
そういうもんだと思ってたけど、違うらしい。
『冒険者がいついかなる時に来ても対応できるように、交代制でずっと開けているらしいぞ』
「それなら、先生の講義はどっちとも受けようかな。夜の睡眠時間削るのはツライから、早起きして明け方がいいかなー?」
『『リティシアにお任せする』』
「じゃあ明け方で試してみようか。もし起きれないようなら就寝後で…」
『了解』
『おっけー』
二人の了承を得て、減らすはずが逆に勉強時間を増やした私なのであった。
「じゃあ、明日から頑張ってみようね。宜しくね」
『はーい、リティシアと一緒に出来るなら何時でもいいよ。少し手ごたえのある魔物を倒したいとこだけど。』
スノウにはスライムは雑魚中の雑魚だもんね。
『スライム以外のが狩りたいところだ…』
ユキがふうっと溜息をつく。
「前回と違う場所にするから安心して」
そうユキに話すと、ユキは尻尾をピンと立てた後、ふりふりとご機嫌を表すように激しく尻尾を振っていた。
「詳しい事はまた明日話し合おう、もう眠い…おやすみ」
七歳の体は長く起きてるのはツライ。
フカフカの枕に頭を付けた途端、私はすぐに眠りついたのだった。
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