第二十七話 突然の訪問者。
誤字脱字報告有難うございますm(_ _)m
冒険者ギルドと商業ギルドに無事登録を済ませ、急いで屋敷に戻る。
薬草の採集クエスト二つの達成料は、冒険者ギルド登録で全て消えた。
結構な量を持っていったけれど、登録料で消える程の金額。
ユキとスノウが狩ったスライムの素材を売って得たお金の方が多い。
採集をするのは好きだけど、低ランク帯の薬草は採取し易い上にあちらこちらに多く群生している為、やっぱりそれなりの金額しか貰えないのだ。
まぁ焦っても仕方ない、地道にいこう。
ユキとスノウのスライム素材の買い取り料金が思ったより多かったおかげで、商業ギルド登録料を賄えたのは有難かった。
ギルドに登録しておけば、後は何を作るか考えるだけだ。
夕方、両親がレティシアの様子を見に来てくれた。
ここぞとばかりに元気になったよ! アピールをしておく。
愛する娘に後押しされて執務やお茶会に向かったものの、心配で仕方なかった。
使用人に何かあればすぐ伝えるようにと言ってはいたものの、それでも心配なのが親心である。
レティシアの元気いっぱいの笑顔を見て、その日一日心に重くのしかかっていた憂いがやっと晴れたのだった。
嬉しそうに笑う二人を見て、体調が悪いを理由に一日の予定を空けるのは、これからは絶対にやめた方がいいとレティシアは猛省するのであった。
元気アピールはしたものの、今日はおとなしく部屋で食事を摂ることにした。
胃腸に優しい食べ物ということで、消化に良さそうなものがいくつも並ぶ。
それぞれが少量に盛り付けてあり、種類は多いが総量が多いわけではない。
たくさんの量は食べられないだろうが、色々食べて欲しいという料理人の気持ちの篭った料理をレティシアは幸せそうに残さず食べた。
食後、「今日は夕方近くまで寝ていらっしゃったので、今夜は眠気が訪れるのが遅いかもしれませんね」と、メイドが気を使ってハーブティーを持ってきてくれた。
気持ちが落ち着く香りを吸い込みホッとする。
眠気が訪れづらいどころか、ハードな一日だったので既に凄く眠い。
屋敷に戻って夕食後に、ユキとスノウも飼い主であるリティシアが念入りに体を洗ってお風呂にいれた。
外に出かけて汚れているし、スライムを踏みつぶしたりしていたし。
二匹とも「徹底的に洗うまでお風呂から出さないよ」と気合い十分なリティシアを見て、抵抗するのを止めおとなしく洗われたのだった。
翌朝、意外な人物からの先触れが公爵家に届く。
その意外な人物とは第一王子のリーンハルトであった。
公爵にとっては甥っ子であるから会いにくる事が不思議ではないのだし、公爵自身も全然かまわないのだが…
今までそのような事が一度も無かった為、首を捻る。
リーンハルト王子は昼食前に来るらしい。
公爵は昼食を共に取ろうと先触れへの返事を書き、返事を待つ王家の従者へと渡した。従者はそれをしっかりと受け取り王子へと届ける。
公爵家の使用人達は第一王子の訪問に加え昼食も摂るとの事を知らされ、さらに忙しく動きまわる事になった。
昼前に第一王子であるリーンハルトはやってきた。
王家の豪華な馬車が公爵家の優美で大きな門の前を颯爽と通過する。
馬車止まりで停止すると、従者が御者席からスルリと降り立ち馬車の扉を開けた。
年齢にしては長身の第一王子の長い足が見えたと思ったら、優雅な所作で降り立った。
「ファルメール公爵、突然の私的な訪問を御赦し下さり、感謝する。」
陽射しを浴びて眩く輝く金髪、その前髪がサラリと揺れ出迎えた両親とリティシアに丁寧に挨拶する。
王族としての立派な姿に、公爵は目を細め微笑むが、
「堅苦しいのはここでは抜きだ。」
赤子の頃から可愛がり知っている甥に、楽にするようお父様が片手を振って話す。
公爵家のよく躾けられた使用人達は、主がこうだと言ったものを外へ漏らす事は決してしない。
「了解、叔父様。」
ほんの幼い頃から何度となく叔父に言われてきた言葉である。
私的な場では血縁関係のある親族として、何の隔たりもない関係を築こうとしてくれているのだ。
叔父に言われて仕方ないな、という表情を作り受け入れているが、リーンハルトの心中はくすぐったい思いでいる。
身分差など関係なく「家族だからな」と言われているようで、本音では嬉しいのであった。
叔父に返答すると、そのままリティシアの前までいき、少し不躾かもしれないが家族なら問題ないだろうと、リティシアの片手を取りスッと持ち上げ手の甲へとキスをした。
「リティ、久しぶり。会いたかったよ。」
神々しい従兄弟の花開くような美しい笑みに、リティシアも頬を思わずポンと染めた。
「さぁ、リーンハルト、こちらへ」
それを見た公爵は無の表情になると、リティシアとリーンハルトとの間へずいっと割り込み、いつまでも取られたままのリティシアの手を離す。
「さぁさぁ、こちらへ。我が屋敷へ来るのはシアのハーフバースデーぶりだな?
今日の昼食はお前の好きな物をたくさん用意させた。
残さず全て平らげてくれよ? はははは」
公爵は王子に何を食べさせるつもりなのだろうか。
リーンハルトは嫌な予感が背を伝う。
公爵夫人は扇を開き口元を隠すと、仕方ないわねぇというようにコロコロと笑った。
公爵はその笑い声に反応することなく、そのままリーンハルトの肩を抱き、屋敷内へと引きずるように連れていった。
連れて行かれるリーンハルトが名残惜しそうにリティシアの方を頭だけ動かして振り返ると、リティシアが苦笑していた。
美しい娘を持つ父とはこんなものなのだろう。




