第十九話 第一王子は女心を分かっている。
私の前に手のひらを上にして、三つ並んだ差し出された手。
誰を選んでも色々面倒な気がしないでもない。
( どうしよう…? )
そこにペットの酷く拗ねた声が響く。
『リティシアは、誰の手も取らないよー!』
第一王子と双子王子が差し出していた手をトントントンと飛び跳ねて下に降ろさせると、スノウが私の腕に飛び込んできた。
あれ? さっきまで陛下の膝の上で丸まっていた筈じゃなかった?
いきなり飛び込んできたので「わわっ」と慌てたような声が出てしまった。
…とても恥ずかしい。
「それは残念だな。リティともっと仲良くなりたかったのに。」
本当に残念そうに眉を下げ困り顔をするリーンハルト王子。
「凄く残念…エスコートはしないから、庭へは一緒にいこう?」
と、リシャール王子が小首をコテリと傾げる。
「聖獣も焼きもちって焼くんだね?」
くすくすと笑うのはセシル王子。
三人とも金髪金瞳だから、兄弟だとすぐわかる共通の容姿を持っている。
タイプ別ではあるが、三人とも天使のような愛らしさだ。
「スノウ、私、庭は見に行きたい。スノウも行こうよ!」
私の腕に抱っこされながら、王子達の方へと顔を向けキシャーっと絶賛威嚇中のスノウ。長い尻尾が不機嫌を表すようにテシテシと私のお腹を叩いている。
『僕を抱っこして連れてってくれるなら、いいよ。』
王子三人を威嚇するように唸りながらも、庭にはいってくれるようだ。
「そんなの余裕だよ、抱っこしたままお散歩しよう!」
あ、ユキも連れていかなきゃと思い壁際に居るユキを探す。
そして、いつの間にかくぅくぅ寝ているユキを見つけた。
ユキはそのまま寝かせてあげよう。
「お父様お母様、リーンハルト様と、リシャール様とセシル様とスノウと私で、お庭を見に行ってもいいですか?」
二人に許可をとると、ニコニコ笑顔で頷いてくれた。
三人の王子様も、陛下に許可して貰っていた。
リーンハルト様を先頭に、庭へと向かった。
「この庭は凄く広くはないんだけど、その分庭師も遣り甲斐を感じたのか、とても凝ったんだ。色とりどりに一見見えるけど、綺麗にグラデーションになってるの分かる?」
リーンハルト様に言われて、じっくりと花々を眺めると、確かに濃淡さまざまでグラデーションしている。とっても綺麗だ。
濃い青から薄い青へ、また逆も然りと薄い黄色から濃い黄色まで大小様々な花がたくさん生えている。
「ほんとだ…とっても綺麗」
リティシアはうっとりと呟いた。
リーンハルト様は植物に詳しいのか、様々な花を紹介してくれながら、実はこの葉は薬にもなる事を教えてくれたり、花言葉まで教えてくれた。
双子王子は「そこは兄様に任せる」とばかり急に静かになって、一緒にリーンハルト王子の説明に耳を傾けている。
スノウは庭についた途端に降ろせとばかりにピョンっと腕の中から飛び出し、花に顔を近づけては香りを嗅いでいた。
いつの間にか庭師が近くに待機しており、リーンハルト王子に花束を作るよう指示されて、私のお気に入りになった数種の花々をミニブーケにして手渡してくれた。
ブーケを顔の近くまで持ってきて、香りを嗅ぐととってもいい香りがした。
それから少し歩いて、庭園から陛下の私室へと戻ったのだった。
たくさんの花を嗅いでご満悦になったスノウは、帰りはリシャール王子におとなしく抱っこされたまま移動した。
リーンハルト王子は私の手をそっと取ると、そのままエスコートしてくれたのだった。




