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3-12 最後の巡礼地(二)

 一綺に到着すると、町の入り口で男達の帰りを待っていた家族達が駆け寄って来た。


 「ーー弥平っ!! 予定より遅いから何かあったんじゃないかと心配したんだよっ」


「父ちゃん、お帰りっ!!」


 「あぁ、ただいま。麻子に元太!!」


 弥平は勢いよく飛び込んで来た妻と子供を抱き締めた。三人の顔には安堵が浮かび、生きてまた会えた事を心の底から喜んでいた。


 弥平と共に戻った他の大工仲間も同様である。皆、それぞれの家族と再開を喜んでいた。


 ただ、呆然と立ち尽くす多助の妻と子供を除いて……。


 「ーーあ、あの……。うちの夫は……。多助はどうしたんでしょうか?」


 おずおずと口にする多助の妻に、家族と再開を喜んでいた弥平は顔を青ざめさせた。


 「綾女さん……。すまねぇ、多助は此処に戻る道中で……」


 「そ、そんな……」


 全て言わずとも、多助の身に何が起きたのかは誰の目にも明白だった。


 和気あいあいとしていた場の空気が一気に重くなる。


 「俺達も一度は死を覚悟したんだ。ーーでも、それをこちらの斎宮とそのお連れの方々に助けて頂いたんだ……」


 一同の視線が弥平達の背後に立つ星乃達に突き刺さると、次々に驚愕の声が上がった。


 「ーーさ、斎宮!?」


 「喜瀬の斎宮殿にいらっしゃるっていう、あの……!?」


 「まさか九陰でも辺鄙(へんぴ)な場所にあるこの一綺に、斎宮がいらっしゃる日が来るなんて……」


 町の入り口の騒ぎを聞き付けて、住人達が次々に集まって来る。


 そんな中ーー。


 「ーーふざけんなよっ!!」


 怒りと悲しみが綯交(ないま)ぜになった様な少年の怒声が響き渡り、その次の瞬間ーー。


 「ーーっ」


 少年が投げ付けた小石が星乃に当たるーーその寸前、側に控えていた御影が小石を捉えた。


 「ーー有り難うございます、御影」


 「いえ。ご無事で何よりです、星乃様」


 しかし、投石した張本人である少年の気は収まらない。


 「ーー何でうちの父さんだけ死んだんだっ。あんたが斎宮だっていうなら……何でうちの父さんだけ助けてくれなかったんだよっ」


 「多一、何て事をするの……っ!?」


 「この罰当たりめ、お姫様に謝りな……っ!!」


 「そうだぞ、何て事してくれたんだ……っ!?」


 少年の母である綾女を始め、周囲にいた大人達が少年を叱りつける。


 「だってこんなのってずるいよ……っ。他の家のお父さんは生きてるのに、何でうちだけ……っ!!」


 「多一っ!!」


 感情を吐き出すのを止めない息子を叱る為、綾女が手を振り上げた。


 「ーーその子を叱りつけるのは止めて下さい。わたくしは何ともありませんから」


 「ーーですが……」


 星乃は静かに綾女の元まで近寄ると、振り上げたままの細い腕を優しく降ろさせた。


 そして、今にも泣き出しそうな多一の前に立ち、小さな少年と目線を合わせる様にしゃがみ込んだ。


 「ーーわたくしを恨む事で気が済むのなら、幾らでも恨みなさい。


 多一君の言う通り、わたくし達が至らなかったのは事実ですから……」


 悔しげに唇を結ぶ星乃に、背後に立つ御影はどうしようも無くやるせない気持ちになった。


 忍として昔から怪異と直接やり合う事の多かった御影や郡兵達と違い、元来尊い身分である星乃にはあの凄惨な光景は余りにも衝撃的だったに違いない。


 (ーー星乃様。私は目をそらすこと無く事の全容を見守った貴方を尊敬します。


 それに、先の戦いも星乃様が授けて下さった呪符のお陰で私達は危なげ無く勝つ事が出来たのですから……)


 そう心の中で星乃を讃えた御影だったが、一方の少年も星乃の言葉に毒気を抜かれた様だった。


 「ーーもう、良いよ……。本当は分かってるんだ。斎宮の姉ちゃん達のお陰で他の皆が戻ってこれた……それだけで有難い事なんだって……」


 それだけ言うと、少年は(たが)が外れた様に泣き出したのだった。





*****


 一綺の町長の厚意により、町でも一際立派な建物である集会所を暫くの宿として借り受けた星乃達一行。


 その集会所の一室が星乃の私室となった。勿論、警護の名目で御影も同室である。


 「ーー今回の旅でも御影には助けて貰ってばかりだ。さっきのも……改めて有り難う、御影」


 「いいえ、月灯様がご無事で本当によかったです。


 それに、私は月灯様の巫女ですから、私の力も全て月灯様の物なのですよ。


 月灯様の尊いお務めを果たすために使って頂けるなら、こんなに嬉しい事はありません」


 「御影……」


 「それだけではありません。


 自分でも上手く言えないのですが……自分の命を投げ出してでも守りたいと、心の底から思えるのは、きっと月灯様だからなのです」


 御影の心に芽生えつつあるこの感情の正体が何なのか、御影にもまだ分からない。しかし、目の前の美しい少年が御影にとっても最早掛け替えのない存在であることは確かだった。


 しかし、忍としての最上級ともいえる忠誠の言葉は月灯にはお気に召さなかったらしい。


 「命を投げ出してもだなんて……そんな事、冗談でも言わないでよ」


 「も、申し訳ございません……。やはり私は忍なので、どうしてもそういう思考になりがちなのです」


 「ーー僕は寧ろ、自分で御影を守ってあげられる位に強くなりたいよ……」


 少年の願いが込められた囁きは、しかし御影の耳には届かなかった。


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