第9話 快適な空の旅
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
ジャスが竜の巣から帰ってきて一ヶ月が経った。
まず最初に城へ行きドラゴン達が人間に対して敵意を持っていなかったことを報告。
その報告にルルエンティが同行したため、別の意味で大きな騒動となったが。
人化したドラゴンを見たことある人間ですら、城に数人しか居ないというのに伝説とまで言われる古代竜が来たのである。
王城の上層部は大慌てで歓待の準備を行おうとしたが、ルルエンティが謝罪に来ただけとそれを固辞。
また機会があれば、ということになった。
退城前に勇者から「流石ジャスさんだね」とニコニコされたことも追記しておく。
古代竜関係についてだが、子竜の名前は「シェロ」となった。
ローラルダとジャスの話し合い(大泣きしながら「妾が!妾がつけるんじゃあ!」とジャスにすがり付き、一緒に子竜を説得した)により決定した。
シェロは一日数時間だけだが転移陣を通り、何でも屋に遊びに来ている。
ジャスと会うときは出来るだけ「パパと同じ姿で」と人化していることが多い。
ララミーナから産まれたばかりで人化出来るのは凄いことだとジャスは聞いていた。
多分産まれて初めて見たのが人間だったからではないか、とも。
ちなみに、ドラゴン姿のシェロは中型犬サイズの可愛らしい姿をしている。
サーナの話になるが、いきなりとんでもない美形が店にやって来たこと、更に制止を振り切り勝手に裏庭で魔方陣を描き出したこと、それからとんでもない美人と一緒に居ないはずのジャスが居たこと、ついでに魔方陣起動のすぐ近くにいたショックも重なり気絶していた彼女であったが、気が付いた時に介抱をしてくれていた古代竜の姉妹を見て「あれ?ここ天国ですか?」と口にしてしまい、そのことで長くジャスに弄られてしまうネタを提供してしまうのであった。
また、妹がほしかったサーナはシェロの事を大変気に入り、二人はすぐに仲良く店内や裏庭で一緒に遊ぶようになった。
余談だが、シェロがジャスのことを「パパ」と呼ぶのを見て、また気を失いかけたことはジャスには秘密となっている。
ジャスの周りの環境は大きく変わったが、徐々に新しい日常の形として落ち着いてきたのであった。
「来たぜ」
「パパ~!遊びに来たよ~!」
春も終わりに近づき、少し日中は暑い日も増えてきたある日の朝、ダリウスとシェロが店の裏口から顔を出した。
シェロはまっすぐにジャスに駆け寄ると腰の辺りに抱きついた。白銀のような髪がさらさらと流れる。
「いらっしゃい二人とも」
手慣れた動きでサーナが店のテーブルにグラスを2つ置く。
今日は少し暑いのでよく冷えたお水を注いでいく。あらかじめ入れていた氷がカランと涼しげな音をたてた。
「ありがとよ、嬢ちゃん」
「サーナありがとう」
「どういたしまして」
にこりと笑うと店の外へ出ていくサーナ。
ちょうど店先の掃除をするタイミングで二人がやってきたのだった。
彼女を視線で見送った後、シェロがジャスの姿を見て問いかけてくる。
「パパおでかけ?」
「ん?そういやどうした、その格好?」
ジャスの格好を見て二人は疑問を口にした。
今の服装は普段店に居る時のものではなく、外套を羽織り短刀を2本腰から下げている。
二人が初めてジャスと出会った時の格好だった。
「ちょっと仕事で王都の水源の一つであるカリコ川の源流の水質調査に行くことになってな。東の山脈だから3日ぐらいは留守にするつもりだ」
「えー!3日もパパ居ないの?」
また腰に引っ付きながらぶーぶーと膨れるシェロに苦笑いする。
世のお父さんはこんな感じで仕事に行くのだろうかと想像してしまう。
「調査箇所には行ったことないから転移出来ないんだ。良い子だから待っててくれ、な?」
膝を曲げ、シェロに視線を合わせる。
むーっと不機嫌な声をもらしながらも、
「わかった、良い子にしてる。だから出来るだけ早く帰ってきてね!」
「よっし!シェロは賢いな!」
両脇に手を入れ一気に持ち上げる。所謂高い高いだ。
ここ一ヶ月ほどでジャスのお父さんぶりに磨きがかかってきていた。
そんなじゃれあう義理の親子に、冷たい水を一気に飲むとダリウスは問いかけた。
「オレが連れていってやろうか?なんなら赤い嬢ちゃんも一緒にどうだ?」
「サーナちゃんも?いや、3日も家に帰らないわけには」
渋るジャスの顔の前で「ちっちっち」と指を振るとダリウスは得意気に、
「オレはドラゴン様だぜ?往復3時間!快適な旅を約束してやるよ」
と自信満々に応えた。
こうして、急遽4人の日帰りの旅が決定したのであった。
「いやあああ!無理!死ぬ!絶対死ぬー!!」
「速い!速~い!ダリウスもっとー!!」
サーナとシェロの対象的な叫びが大空に響き渡る中、景色がとんでもない速さで後ろへと流れる。
町や村が見えたかと思ったら、瞬きする間に背後に消えていく。
ジャス、サーナ、シェロの3人はドラゴンの姿で高速飛翔するダリウスの背中に乗っていた。
音速を越えているだろうその巨体の上は、信じられないほど風が穏やかであった。
ダリウス曰く、空気の流れを魔力で変えているらしい。
ちなみにそんなことをしなくても飛べるらしいが、衝撃波で周囲に甚大な被害が出てしまうそうだ。
そもそもそんな状態では背中に乗ることが出来ないが。
[よーし!今度は急上昇からの急降下だ!!]
ぐんっと突如視界が空一面になったかと思うと、今度は地面に向かって一直線に落ちていく。
ダリウスのおかげで体にかかる加速度は実際の速度に対してそれほどないが、視覚からくる情報だけでもかなり暴力的なものがある。
「いやああ!!!死、死ぬ!!絶対死んじゃ・・・・ふぅ」
「すごーい!すごい!あ!サーナが気絶したー!!」
こんな感じで賑やかに1時間ほどでカリコ川の源流に到着したのであった。
現地でダリウスが滅茶苦茶怒られたのは言うまでもない。
源流である小さな池の調査は順調に進んだ。
といっても、現地で出来ることと言えば水温の測定とゴミがないか周囲に変わったことがないかの確認くらいのもので、後は持って帰るサンプルを依頼主が研究室で検査する、と聞いている。
「店長。池の日向、日陰の水を試験管に5本ずつ用意しました。また、こちらが池底の土砂をとったものを3つずつです」
「ありがとう。ん~これで依頼完了だねぇ」
ジャスは無表情に作業をしていたサーナからサンプルを受けとるとリュックに仕舞い込み伸びをする。
本当なら3日かけるつもりだったのが半日で終わりそうだ。
それもダリウスのおかげである。
(ダリウスさまさま、だな。サーナちゃんの前では言えないけど)
そのダリウスであるが、周りも見てみたいというシェロと一緒に二人で林の中へ消えていった。
1時間ほどで戻ってくると言っていたから、もうしばらくすると帰ってくるだろう。
ジャスが池のほとりの岩場に腰かけているとサーナがトトトと駆け寄ってきた。
「ここ、良い場所ですねー。のどかだしお弁当持ってピクニックにもってこいです」
深呼吸をしてにこっと笑う。
どうやら彼女の中で仕事は終わったらしく、普段の様子に戻っていた。
「普通に来ると王都からなら往復3日は見ておかないといけないけどね」
「そこはほら。店長の転移魔法があればビューンとひとっ飛びです」
「1度に一人しか運べない事を忘れてない?」
「ガッツでなんとかしましょう!そうですね~シェロちゃん、ララさんにルルさん。女王様も来てくださるかな。それに私に一応ダリウスさん、だから・・・6往復ですね!あ、帰りも入れたら12往復です!」
「確実に死んじゃうね、俺」
「あはは、冗談です」
冗談と言ってはいるが、少し残念そうな表情から皆で来たいというのは本音なのだろう。
そんなサーナにジャスは悪い笑顔を浮かべて、
「それならもう一度ダリウスに頼んで・・・」
「それは絶対に嫌です!!」
言葉を被せるように青い顔で却下する。
よっぽど怖かったのか、目尻にうっすらと光るものがあった。
と、その時、突如二人の背後の樹木が大きな音を立てて倒れた。
二人が振り替えるとそこには体長5メートルはあろうかという灰色のドラゴンが地面を揺らし、大きな足音を立てて近付いてくるところだった。
今回からまた日常パートです。
まだしばらくは毎日更新していこうと思っています。




