外伝 第04話 勇者の模擬戦
攻城戦のルールはこうだ。
・守備は魔人役ジャス、攻撃は勇者リオン
・1時間後にあがる1つの花火がスタートの合図
・砦は極力壊してはいけない(不可抗力は可)
・兵士一人と会うたびにその場に3秒静止する(敵兵との戦闘を想定)
・攻撃、守備側共に勝利条件は相手の戦意喪失
以上5つだ。
「こんな子供のごっこ遊びみたいな模擬戦でボクを説得できるとでも?」
「出来るさ。お前は確実に俺に敗北するからな」
不敵な笑みを浮かべジャスが挑発してくる。
勝負は既に始まっているとでも言いたげだ。
くだらない。
「ボクが負けを認めるというのがあり得ないよ。どれだけ罠を張っていようともこの条件だとすぐに追い詰めてアンタを殺すよ」
「怖いなぁ。頼むから本当に命を取らないでくれよ?」
「ふん」
やれやれと肩をすくめるジャスから視線をそらす。
そこそこ強めに殺気をぶつけたはずなのに何の影響も与えられていない。
本当に油断ならないかもしれない。
砦の中へと姿を消していく男の背中を見て警戒心を強めた。
◆ ◆ ◆
とはいえどう考えてみても負ける気がしない。
たったの1時間で用意できる罠なんか、足止めすら出来ない。
あとさっき聞いたけどこの砦にいる兵士の人は約100人。
全員と出会ったとしてもたったの5分だ。
砦移動にしてもこの規模の砦なら1分もあれば司令室まで移動できる。
つまりどれだけ時間がかかっても10分もあれば憎らしいあの男のところへ行けるというわけだ。
「これだけバカにしてきたんだ、お手並み拝見といこうかな」
そんなボクの呟きに重なるように花火が一つ上がり、青や赤や黄色の花が夕方の空に彩りを与える。
合図用の花火が無駄にオシャレなことにため息を付きそうになるが、なんとなくあの男らしいと納得してしまう。
「さてと、移動に数分もかけるのも勿体ないから速攻で突破してあげるよ!」
別に素直に罠が張り巡らされている砦内を進む必要はない。
空から司令室へ直接乗込めばいい。それなら数秒だ。
そう考えて宙へ浮かび上がり速度を上げたその瞬間、ガツンと強い衝撃が頭部を襲った。
「いったぁ! 何、今の? え、いつの間に結界が・・・」
額をさすりながら何もないように見える空間に手を伸ばす。
するとそこには、正確に言うと砦を囲む外壁の直上にツルツルとした感触の不可視の壁のようなものが確かにあった。
空からの侵入は読まれていたということだが、それよりも読んだ上に気付かれないような静謐性を持って結界を張ったことに素直に驚嘆する。
この規模の結界をボクに気付かれない静謐さで張ることが信じられないけど、その動機が今のボクの醜態を見るためだろうってことがめちゃくちゃ腹が立つ。
しかしそれだけでは終わらなかった。
ビーーーー!!
ビーーーー!!
「な、今度は何!?」
突如大きな音が響き渡り、とっさに剣に手をかけるが特に攻撃が仕掛けられるようなことはなかった。
音が止み待つこと数秒、やはり攻撃は見られない。
「今の大きな音に一体何の意味・・・」
ボクの呟きは最後まで漏らされることはなかった。
途中で意味がわかってしまったから。
大きな音の確認に来たのか、あの男に指示されていたのか。
砦の中庭に並ぶたくさんの兵士達。
その数約100名。
・兵士一人と会うたびにその場に3秒静止する(敵兵との戦闘を想定)
5分間ボクは罠にかかってしまったこと喧伝するかのように空中で静止することとなってしまった。
◆ ◆ ◆
「イライラする! イライラする!!」
空中で晒しものにされた5分後、結界を破壊してやろうと思ったんだけどそこであることに気が付いた。
砦を覆う結界はそんなに強度があるものではなかったので壊すのは簡単なように見えた、けど、よく見てみると結界が砦の外壁を巻き込むように張られていた。
普通、結界は触媒でない限り構造物に干渉しないように張るのが常識だ。
さもないと結界が破壊されたときに構造物まで被害が出てしまうからだ。
だけど今日この場においてはこの結界の張り方は良策と言えてしまう。
・砦は極力壊してはいけない(不可抗力は可)
つまり実質空に張られた結界は破壊不可能な最強の結界に早変わりしてしまったというわけ。
気付いてしまったからには破壊したら不可抗力ではない。
しかも絶対あの男はボクが気付くことをわかって結界を張っている。
脳裏にあのニヤついた笑顔が浮かんでくる。
『さすが勇者様、よく気付きましたねぇ。エライでちゅねー?』
ハッキリと声付きで再生される煽り。
ぐぅぅ、イライラする!!
無理やり怒りを鎮めながら(鎮められてないけど)砦内の通路を曲がる。
「あぁ! また!?」
曲がってすぐの所に結界が張られていた。
しかも律儀に通路の窓を巻き込んでいる。きっと結界を破壊すると大きな音がなるだろう。
さっきからこれの繰り返しだ。
通常のルートでは司令室に行けないように結界を利用して砦内は迷路のように、いや完全に迷路化されていた。
しかも良いのか悪いのか、結界で通れなくなっているのはボクだけなので砦の他の人には何の影響もないようだった。
信じられないほど高性能な結界を信じられないほど簡単に設置している。
ますますあの男が何者なのかわからない。
「それにしても、むかつく!」
この離れ業をボクを煽るためだけに行っている事実も腹が立つけど、それよりもなによりもむかつくのは!
砦内の兵士の誰にも何の指示も出していないということ!
兵士の人たちは勇者が来るということは知っているけど、それ以外特に何も聞いていないし、何も指示されていない。
あえていうなら粗相の無いように言われた、と。
つまりこの攻城戦でボクを妨害しているのはジャスというあの男一人だけなのだ。
あくまでルールを使っての話だけど、ボクもそのルールを了承している以上何の言い訳も出来ない。
ルールを聞いた上で余裕で勝てると思っていた。
それこそ一瞬で決められると。
それがこのザマだ。
ギリッと歯を鳴らしながら司令室のドアを睨む。
ここまで来るのになんと1時間もかかってしまった。
あの男の作った迷路はよく出来ていて、兵士の人達がよく通る通路や大勢の人が集まる訓練場などを何度も通る羽目になり、そのたびに静止する時間を取られていた。
でも。
それでも。
ようやくここまで来た。
「こんな茶番もここでおしまいだ。時間はかかったけどボクの戦意は喪失していない。むしろ怒りで高まっている!」
あの悪魔のような男を叩きのめすことが出来ると思うと昏い愉悦が湧き上がって来る気までしてくる。
薄く笑みを浮かべながらドアに罠が無いのを確認してから大きく開け放つ。
ここで来るか?
まともに戦えば確実にボクが勝つだろう。
とういことは何処で奇襲してくるか。
ようやく目的地にたどり着いておそらく怒り心頭であるボクを狙う。
あの男ならやりそうなことだ。
そう警戒するが広々とした司令室からはなんのアクションもない。
恐る恐る一歩踏み入れるがやはり何もないどころか誰もいない。
室内を見渡してもボクを攻撃してくるようなものはなく、それどころかきれいに整理されていて隠れるところもないように見える。
「・・・なんだろうコレ、書き置き?」
先程までの怒りが困惑で打ち消されそうになったその時、司令室の壁に貼り付けられた紙を見てボクは本気で怒り狂いそうになった。
そこにはこう書かれていた。
『王都の北門にて待つ。 ジャスより』




