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外伝 第03話 勇者の出会い

男の言った言葉を頭の中でもう一度確認する。

しっかり深呼吸をして頭を落ち着ける。うん、落ち着いている。

その上で先程の放たれた言葉をゆっくりともう一度音にしてみる


「初めてのお使い?」


しっかりと言葉に出来た。

ただ、言葉に出来ただけで感情は全くそこには込められていなかったけども。

そう、怒りすら込めることが出来なかった。

人間ある程度以上怒ると逆に感情表現が低下するとかなんとか聞いたことがあったけど、まさにそれを実体験していた。


そんなボクを見て男は「そう」と絞り出した音に肯定すると、


「お前さんが今まで相手してきた魔物なんて魔人に比べたら全然たいしたものじゃない。それこそ子供のお使いぐらいにしかならない。それぐらい魔人ってのは油断ならないものなのさ」


「ふーん。それで? お兄さんが一緒だとその魔人ってのが相手でも問題ないってことなの?」


「そういうこと。少なくとも罠に関しては任せてくれて良いと思うぜ」


「必要ない。はっきり言わせてもらうけど、お兄さんボクに比べたら弱すぎるよ。足手まといだ」


そうなのだ。

この目の前の男は強くない。

魔力の強さも魔力量も身体能力についてもボクに遠く及ばない。

完璧に気配を殺してボクに気が付かれなかったことは確かにすごい。今までにない経験だ。

それを認めた上で、足手まといだ。

実力をどれだけ隠しているかしらないけど、ボクのこういうカンは外れたことがない。


ボクの評価を受けて男は一瞬キョトンとした顔をした後、先程までと違って不敵に笑うとビルドー伯爵に向き直った。


「思ったとおり振られちゃいましたね。というわけで」


「ハァ、仕方ないですな。では伝令を出しておきましょう」


伯爵はそう告げるとボクに一礼をして退室する。

室内にはよくわからない男とボクの二人きり。

先程のやり取りがよくわからないかったので疑問を口にしようとするが、一瞬早く男が話しかけて来た。


「そういえば名乗ってなかったな。俺はジャス。何でも屋でも開こうかなって考えてる優良市民さ」


ジャスとかいう怪しい男が握手を求めてきたが当然ながら無視。

仲良くする気なんかないし、失礼だと言われたとしても先に失礼なことを言ってきたのはこの男なので問題ない。

行き先を失った右手で頭をかきながらジャスはフっと軽く笑いこの部屋唯一の扉を指差しながら、


「ま、とりあえずは親睦を深めるためにデートでもしましょうか、勇者様?」


と、耳と頭を疑う発言をしたのであった。




◆ ◆ ◆




王都セドラルの北門を抜けてから更に北へ馬車で進む。

半日ほど街道を進むと小高い山脈が見えてきた。

標高数百メートル程の山脈が街道の行く手を塞ぐように連なっている。

しかしそんなことを気に留めることもなく道筋は山脈の横腹へと続いていく。更に道を進むと不意に山脈を切り裂くように一本の光の筋が入った。

コレこそがセドラル観光名所の1つである「神の一太刀」だ。

その昔、神が魔を祓うために神剣を振るい、その際に山脈が両断されたと言われている。

実際、「神の一太刀」と呼ばれるこの谷間は高さ数百メートルの高さに対して、幅は20メートルほどしかないためこの逸話に信憑性を持たせている。


それはともかく。


そんな観光にも軍事的にも大事な場所にボクとジャスとかいう男は来ている。

正確には「神の一太刀」に設置されている砦の正門前にだ。

正門は街道から少し外れた場所にあるため、街道を通る旅人や荷馬車を引く商人を横目に見つつ、ボクは不機嫌な顔を隠さずに目の前の男に文句を言う。


「で? 半日も潰して一体何の用なのさ? 馬車の中でも下らない話しかしないし」


「下らないとか言うなよ。ところで俺はコーヒーと紅茶どっちが好き?」


「紅茶でしょ・・・ってそれがどうでもいいんだよ! 結局ここに何しに来たの!?」


この男、馬車に無理矢理同乗してきたと思ったらボクの質問には答えずにずっとどうでも良いことを話し続けていた。

アレが美味い、何処が良いところ、誰々が美人、あの魔物が臭いなど。

聞いたことには答えないくせに、ずっと好き勝手に話していた。

相槌を打たないと同じ話を続けてくるから適当に相槌をうつだけで凄い疲れた。

こんなに人と話をしたのは初めてかもしれない。

まぁボクはほとんど「まぁ」とか「うん」だけだったけれども。


「さて、そろそろ真面目に話をしようか。リオン」


今までの気だるい雰囲気が完全に消滅し、むしろ抜身の刃を突きつけられているかのような空気。

先程までと同一人物とは思えない様子でジャスは続けた。


「お前さんは魔人を舐めてる。強大な力と特に魔に強い勇者としての資質、油断するのも無理はない。でもな、奴らは狡猾だ。多少の力の差ならひっくり返してくるぞ?」


「多少の差じゃないけどね」


気圧されそうになるのを堪えながら子供のような反論を返す。


「相手がただの魔物だったら100回やって100回お前が勝つだろうな。だが、魔人が相手だと100回中、いや、1000回でも良い、その内の1回か2回はお前が負ける。そして、その1回目が最初に来てそれで終わりだ」


街道を通る人や砦を守護する兵の声が聞こえなくなった。

そんな錯覚を覚える。


1000戦中999勝1敗。

文字にすると圧倒的に見える。

しかし、それは模擬戦やゲームの話で、実戦だとその1敗が最初に来た場合、1戦で1敗。

それでおしまい。


そしてこの男はこのままボクが魔人と戦った場合、それが現実になる。

そう言っている。


こんなことを言われたのは初めてだ。

正直むちゃくちゃ腹が立つ。

初対面の自分より弱い人間になんでこんなことを言われないといけないのかと。


ただ。


同じだけ好奇心も湧いてくる。

何を持ってそんなことを言い切るのかと。


だから悔しいけど手のひらの上で踊ってやることにした。

そしてその上で自分の考えが甘かったとジャスという男に謝罪させてみたくなった。

偉そうなことを言ってすみませんでした、と。


あぁそれがいい。

きっとそれはかなり痛快だ。


ボクは顔に出そうだった笑みをかき消してジャスの方を見る。

しばらく黙っていたボクを観察しているのか、その茶色の瞳が油断なく光っていた。


「そこまで言い切るのなら何か考えがあるんでしょ? この生意気な勇者サマを倒す手がさ」


「ああ、ある」


想定していたよりもずっとハッキリと言い切られる。


「じゃあ見せてもらおうかな、その自信満々の作戦ってのを」


「まぁ待て。この場でヨーイドンで戦ったらお前が勝つよ。そうじゃなくてお前が今回行う任務は何だ?」


今回の任務。

領主を襲い、領民にも多大な被害をもたらした魔人の討伐。

魔人は領主の館を自らの居城にしているとのこと。


「そう、とある領主様の館に引きこもっている魔人を討つことだ。ただ、面倒なことにその館や周辺には多数の凶悪な罠が待ち受けている。だから、これだ」


ジャスはすぐ側にそびえ立つ砦を指差した。


なんとなく、この男の言いたいことがわかってきた気がする。


「この魔人ジャス様の手にかかってお前はここで命を落とすのだ!」


はーっはっはっはっは!


高笑いするジャスの後ろにそびえる砦がなんとなく先程よりも禍々しく見える気がする。

最後の最後でふざけてきたが、この男は一筋縄では行かない。

なんとなくだがそう思った。



こうしてボクは攻城戦の模擬戦をすることとなったのだ。

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