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外伝 第02話 勇者の過去

とても退屈だった。

退屈?

それはちょっと違うかもしれない。

やることはたくさんある。

ありすぎてありすぎて嫌になってくるのにまた増えていく。いや増やされる。


襲いかかってくる大きな狼のような魔物を切伏せながらため息を吐く。

これで何匹目だろうか。

今日だけなら100体前後か、もうちょっと多いかな。

でも物心ついてからだと?

ほんの一瞬だけ昔を思い出しながら魔物に対して剣を振るった数を数えようとして、すぐに頭を振って目を瞑る。

ついでにさっき出したばかりだというのに無意識にため息がまた吐かれる。


「馬鹿みたい」


心がささくれだったのを自覚しながら八つ当たり気味に空に向かって剣閃を走らせる。

空気を切り裂いた5つの衝撃波がボクに向かって急降下してくる鳥の化け物を細切れにし、存在を過去のものへと変える。

地面に散らばる肉片を見て、ちょっと大人気なかったかと反省。

と言っても10歳にもなっていないボクに大人を求めるほうが間違っているけど。

苦笑しながらすっかり静かになった草原を見渡す。

どうやらボク以外に動いているものはもう居ないようだ。


一つの例外を覗いて。


「いやぁ流石は勇者様! 素晴らしい!」


その例外がにこにこと胡散臭い笑顔を貼り付けて声をかけてきた。

心は全く笑ってないくせに嘘で塗り固められた表情の男。

セドラル王国騎士団の何番隊かの隊長で、ようはボクのお目付け役。


ちゃんと魔物を倒しているか。

ちゃんと王都を守っているか。

ちゃんと、裏切らずにいるか。


そんな感じ。

心の中で大きくため息を吐く。

大人はわかっていない。

そうやって監視される方がやる気が削がれていくことに。

逆に反発してやろうか、という気持ちになることに。


「別に。誰でも出来るよ」


ボクはフンと鼻を鳴らすと刃についた血を拭って鞘にしまう。

そしてそのままお目付け役の隊長の方を向くことなく歩き出す。

そんなボクの背後で顔をしかめたのか、微かに気配が歪む。


ほら、貼り付けた笑顔だったでしょ?

こんなに簡単に剥がれ落ちちゃう。


「あちらに馬車を待たせておりますのでーー」


「そ。ありがと」


短くお礼をすると用意されたいた馬車の客室に乗り込む。

比較的小さな客室で大人なら4人乗ると少々手狭ではないだろうか。

すなわちそれはボクと相乗りする気が誰にもないということだ。


「別に良いんだけどね」


何気なくつぶやいた言葉。

何が別に良いのか。

自分の言葉に内心で疑問を投げかけながら小さな窓から空を見上げる。

徐々に薄暗くなっていく空。

暗いのは自分の心中と一緒なのに空には明るく一番星が輝いている。

そこが自分とは明確に違っていた。




◆ ◆ ◆




名前はリオン。

9歳で勇者。

でも実は産まれたときから勇者だったわけではなくて、5歳のときに神様に祝福されたとかなんとかで勇者になった。


・・・らしい。


というのも5歳から前の記憶がはっきりしていなくて、気が付けば勇者としてちやほやされていた。

聞くところによるとボクは元々は孤児で両親も生きているかどうかもわからない。


・・・らしい。


明確に思い出せる最初の記憶は、貼り付けた笑顔の大人に色々と小難しいことを言われているボク。

当時はなにがなんだかわからなかったけど、要は魔王が復活するやら、お前は希望の光だやら、まぁそんな話。

5歳の子に何を言っているんだって話だよね。

そんなこんなで訳のわからないうちから剣術に魔術、そして魔族や魔物がいかに人類に仇為すものかということを嫌と言うほど教え込まれた。

元々才能があったのか、勇者だからなのか、その両方だからなのかボクは1年もしないうちにセドール王国騎士団の誰にも剣では負けなくなっていた。

魔法も含めた実戦形式でも誰にも負けなくなったのは7歳の誕生日を過ぎたあたりだったかな。


そこからは実戦経験という名目で魔物退治をすることが多くなった。

最初はゴブリン。

それから徐々にグレードが上がっていって飛竜を相手にしたことも。

苦戦することはあっても敗北したことは一度もなかった。


最初から胡散臭いと思っていた大人に嫌悪感を覚えだしたのがこの頃。

ボクが小さかった頃、まだ強さが常識の範囲内の時は張り付いたような笑顔を向けてくるだけだった大人たちが、いつの間にやら化け物を見るような視線を向けてきていることに気がついた。


何が何かわからなかった。


言われるままに、喜ばれるままに魔物達を退治しているのに、ボクに対する態度はまるで魔物に対するもののようだった。


おかしいじゃないか。

楽しいことも何もかも我慢して皆のために魔物退治をしているのに。


おかしいじゃないか。

こんなに傷つきながら頑張っているのに。


おかしいじゃないか。

なんで。


なんでこんなに全身が返り血で染まっているのにこんなことになってるんだろう。



8歳になる頃。

ボクは魔物がどんなに大群だろうと一人で討伐することにした。

最初から一人だったら、色々悩まなくて良いから。


それに反対する声は、なかった。




◆ ◆ ◆




「魔人?」


はい、と白髪のお爺さんが肯定した。

確かそこそこ偉い人だった気がするけど興味がなかったため忘れてしまった。

名前は確か・・・いや今はそれは良いか。


「魔王配下の強力な魔人に我が国のとある領主が襲撃を受けまして。抵抗虚しく館は占拠され、領民にも多大な被害が出てしまいました」


「多大な・・・」


「ええ、難を逃れることが出来た者は多くはありません」


ギリっと何かが擦れる音が室内に響いた。

それがボクの口から発せられる音だと気付くのに時間はかからなかった。

ふぅと1つ息をついて心を落ち着かせると下げていた視線を上げてお爺さんに続きを促す。


「従って勇者様には魔人を討伐していただきい。しかしながら今回は魔物達とは違い強力な魔人です。今までのように単独で任務にあたって頂くわけにはいきません」


「仲間なら必要ないよ。誰か居たらその方がやりにくいから」


強がっているのではなくてこれは事実だ。

剣術にしろ魔法にしろボクは手加減が下手だ。

周囲を気にしながら戦うくらいなら誰も居ないほうが良い。

もしくは、ボクが気にしなくても良いくらい強い人ならその限りではないかもしれないけれども。


「しかし、此度の魔人めはやっかいな罠を用意していると報告があがっております」


「罠がどうしたの? そんなものでボクがやられるとでも?」


「そうは申しておりません。しかしながら万一ということもあります。我が国、いえ、世界は勇者様を失うわけにはいかないのです。どうかご理解下さい」


ぴくりと眉が動いたのが自分でもわかった。

今更、なのに。

失って困るのは「ボク」じゃなくて「勇者」。

そんなことはとっくにわかっているのに、反応してしまう自分が情けない。


「もう一度言うけど必要ない。そんな下らない事に人員を割くよりも復興の時に力を入れた方が良いよ」


「聞いてたとおり中々の生意気小僧じゃないか」


話は終わりとばかりに手を振って部屋を出ようとしたボクの背後からお爺さんのものとは違う聞いたことがない声がかけられた。


「!?」


弾かれたように後ろを振り返ると、部屋の端に並んだ椅子の1つに見慣れない男が座っていた。

その表情は何が面白いのかにやにやと楽しそうに歪んでいる。

明らかにボクのことを馬鹿にしたその表情に不機嫌を隠すことなく、いや、むしろ3割増で文句を言う。


「不法侵入をした上にいきなり悪口とか。誰か知らないけど良い性格してるみたいだね?」


「ちゃんと許可を得ているし、悪口じゃなくて褒めたつもりなんだけどな」


少し気怠気な雰囲気を持つボサッとした黒髪のその男はあくびをしながらそんなことをのたまう。

並の人間なら腰を抜かす程度には殺気を込めて睨んだはずなのに、全く意に介していないところが更にボクの神経に障る。

そして続く男の言葉にボクの堪忍袋が限界を迎えるのだった。


「ビルドー卿、こんなおちびちゃん一人で行かせるのは危険ですよ。初めてのお使いじゃないんですから」


お爺さん、いや思い出した、ビルドー伯爵に笑いかける男。

ボクはその時思った。

絶対こいつとは仲良く出来ない。

頼まれても仲良くしない!!



これが勇者リオンと未来の何でも屋であるジャスの初めての出会いだった。


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