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外伝 第01話 勇者リオン

お久しぶりです。

何でも屋の外伝を投稿させていただきますので少々お付き合い下さい。

ボクの名前はリオン。

勇者と呼ばれている普通の少年、いやもう青年かな。

数年前に魔王を倒して世界は平和になったはずだけど、半年ほど前に魔王軍の生き残りが王都に攻めてきて、なんと王都が陥落しそうになったりとか色々ドタバタしたのも今は懐かしい。


勇者のくせに何をしてたんだって?

いやぁそれを言われてしまうと何も言い返せないよね。

その時ボクは魔王の復活の儀式を止めに行ってたんだけど、これ自体がとある魔人がとある人物に復讐するための罠だったんだ。

普通、世界を巻き込んでたった一人に復讐すると思う?

思わないよね。

ホント、魔人だけあって思考回路も意味がわからない奴だったよ。


コツン


軽い衝撃を感じてボクは視線を木製のテーブルから後ろへと向ける。

ちょっとボサとした黒髪の長身の男性が冷ややかな目でこちらを見下ろしてきていた。

予想するに彼の手に持たれているあの分厚い本で頭を叩かれたのだろう。

何もしてないのに。

そう思うとちょっとムッと来たので抗議をすることにした。


「ジャスさん! いま殴ったでしょ! いきなりの暴力は感心しないな!」


「目を開けたまま寝てるからだろ? 魚かお前は」


腕組みをしてフゥとため息を吐くジャスさん。

この人はいつもそうだ。

ボクのことをバカにしたような態度を取ってくる。


「魚じゃないよ! 王都で有名人になったからって態度まで大きくなっちゃったんじゃない?」


「あっはっは! 世界で一番有名なお前に言われるとは思わなかったな! いやいや失礼しました勇者様」


にやにやとした表情のまま深くお辞儀をしてくる。

うぐぐ、相変わらず馬鹿にして。


「あぁもう、店長ったらまたリオンさんをイジメてる」


ボクが膨れてジャスさんに穴を開けてしまうんじゃないかという勢いで睨んでいると店の奥から凛とした声が響いた。

手に持ったトレーから花のような香りが漂う。

きっといつものように美味しい紅茶を淹れてくれたに違いない。

ボクの青髪とは対象的な真っ赤な髪に真っ赤な瞳。

気が強そうというよりは真面目そうな彼女はこの店「何でも屋」の看板娘だ。


「サーナちゃんからも言ってあげて! リオンをもっと大事にしなさい! って」


「自分で言うなよ」


ジャスさんが呆れたように呟くがそんな言葉は聞こえない。

少しくらいは待遇改善されてもバチは当たらないはずだ。


「はいどうぞ」


「ありがとー」


赤髪の看板娘サーナちゃんがテーブルの上に紅茶を置いてくれる。

きっと王宮で出る紅茶のほうが茶葉も良ければ淹れる人間の腕もいいだろう。

でもボクはここで飲む紅茶が一番好きだ。


「はい、店長も。あまりイジメすぎると友達失くしますよ」


「いやいやコイツもこういうやり取りがしたいって言ってるから。むしろもっとキツイほうが良いってーー」


「言ってないからね!」


ジャスさんは定位置であるカウンターに座って紅茶を一口含むととんでもないことを言い出した。

いつボクが更に酷い弄りをしてほしいって言ったんだ。

ジャスさんのことは信頼してるけど完全には信用はしてないからね!


「本当にそうかぁ?」


ジャスさんは再度喉を鳴らして紅茶を飲むと、ボクの目をじっと覗き込むように見てきた。


「ど、どういうことかな?」


心に走る動揺を隠しながら尋ねる。

正直、ジャスさんにああやって見つめられるのは色々見透かされるようで苦手だ。


「どうもこうも、お前は勇者として特別扱いされるのが嫌だって言ってるよな?」


「言ってるね」


これは本当。

何処にいても皆が見ているのはリオンとしてのボクではなくて、勇者としてのボク。

それは仕方ないことだと今では思えるんだけど、やっぱり居心地はあまり良くない。

その点この店は良いよね。

皆が勇者じゃないリオンを見てくれる。

サーナちゃんも初めは固かったけど、今では友人として接してくれている。

それが何より嬉しい。


と、今はそれよりも。


「だから何?」


「昔、会ったばっかりの頃のお前も「普通に」接してくれって言ってだろ? 忘れたのか?」


「忘れてないよ! ちゃんと覚えてるよ」


忘れるわけがない。

ジャスさんとの最初の思い出なのに。


「だから俺は普通に接してるんだよ。気兼ねなくな」


「な、なるほど」


「つまり俺がお前に何をしても、飾らない友人としてのふれ合いってわけだ。わかるだろ?」


「そうか。そうだね!」


なんだ、友人としてなら仕方ないよね。


「だ、騙されてますよ!!」


サーナちゃんの焦ったような大きな声でハッと我に返る。

その様子にジャスさんは「ちっ」と悔しそうに舌打ちをしていた。


あ、これって。


「またからかったなー!!」


大笑いするジャスさんを睨みつけて紅茶をぐいっと飲む。

あぁもう!美味しいな!!







「ところで」


紅茶のカップを片付けてテーブルを拭きながら不意にサーナちゃんが呟いた。

そちらに視線を向けると赤い瞳とばっちり目が合う。

どうやらボクに向かっての呟きだったようだ。


「何?」


「ん〜・・・店長とリオンさんって出会ってから結構長いんですよね?」


探るように、というよりも確認するように尋ねられる。

想い人の過去が気になるけど聞いても良いものか迷っているかのようだ。

やっぱり気遣いのできる子だなぁ。


「そうだね。あれはボクが10歳の頃だから9年前かな」


もう9年になるのか。

今でもすぐに思い出せるよ。


「え!? お前19歳になってたのか!」


ジャスさんが珍しく驚いたような声音で確認してくる。

カウンターに積まれていた紙束が崩れて何枚か床に落ちてしまっていた。


「そうだよ。それどころか後数ヶ月で20歳になるからね!」


「ひえぇ、マジか。そりゃ俺もおっさんになるわ・・・」


「一体ボクのこといくつだと思ってたのさ」


「いや、8歳くらいかと」


「出会うよりも前じゃんか!」


まったく。

ボクがぷりぷりとご機嫌斜めでいるとサーナちゃんは逆にニコニコと笑みを浮かべていた。

しかもどうやらその笑顔はボクに向けられている気がする。


「何、サーナちゃん? ボクの顔に何かついてる?」


「いえいえ! 10歳のリオンさんって物凄く可愛かったんだろうなぁって想像してしまって。あ、今でも凄く可愛いですよ!」


「あまり嬉しくない評価なんだけど・・・」


慌ててフォローしてくれているサーナちゃんから視線を外すとニヤけた顔をしたジャスさんと目が合った。

あぁ、やっぱりそういう顔をしていると思ったよ。

言いたいことはわかるよ。

わかりますよーだ。


「いやいや、実はそれがそうでもないんだよ」


ボクが何も言わなかったので、それを承諾の意味と取ったらしいジャスさんが口を開いた。

口ではあんなことを言っているけど、さりげなくボクに確認してくれるあたり優しかったりする。


「そうでもないって?」


何の事かわからず首を傾げる彼女にボクがジャスさんに変わって続けることにした。

いやね。

あの頃のことは本当に反省してるよ。

ジャスさんに会えて本当に良かったって心の底から思ってる。


「10歳のボクは可愛くなかったってこと」


それどころか。


「ボク、物凄くイヤな子供だったんだよ」


9年前。

ボクが魔王を討つ5年前。


勇者リオンは何でも屋になる前のジャスという人に出会ったんだ。

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