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第47話 お菓子抜きですね

前回の続きです。


「で、今日は何しに来たんだ?」


サーナに淹れてもらった紅茶を味わいながらジャスは同じく紅茶を楽しんでいる古代竜の三人に問いかけた。

三人はすぐにはそれに答えず、ゆっくりとカップを置いてホゥと何処か艷やかに吐息を漏らした。


最初に口を開いたのはルルエンティだった。


「サーナさんの紅茶は本当にいつも美味しいわね」


「いや!いやいや!普通ですよ!私なんかより美味しく淹れる人なんて星の数ほどいますよ!」


その言葉にトレイで口元を隠しながら焦ったように手をブンブンと振るサーナ。

口ではこう言いながらも、客人が増えた最近はこっそり美味しい紅茶の入れ方を勉強していたりするので内心では小躍りしそうなほど嬉しかったりする。


「実際サーナちゃんは色々出来るよな。こんなズボラな男の世話ばかりしてるなんて勿体ないぜ」


ちらっと視線を向けてくるダリウスに「ほっとけ」と返してジャスはもう一度、目の前に座る神に目を向ける。

その視線を受けてローラルダはふっと微笑するともう一口紅茶を口に含んだ。


「前にも答えんかったか?用がなければ来てはいかんのか、と」


「そういうわけじゃないけどさ、用がないのにいつも来てる二人が来てないから何かあるのかと思っただけだ」


用がないのに来る二人。

言わずとしれたシェロとララミーナのことである。

5人の古代竜の中でこの二人が何でも屋に来る回数は頭一つ抜けて多い。


最近ジャスも知ったことだが、ローラルダは意外と忙しい身であった。

シェロ誕生の前後で公務を行っていなかったため、今は徐々にそれを取り返していっていると聞いている。

具体的なことは聞いてはいないが、ドラゴンの長としてのアレコレや無の神としてやるべき事など色々あるらしい。

必然、それに伴い筆頭世話役のルルエンティも同じく多忙の身というわけだ。


そしてジャスにとって意外だったのがダリウスが結構真面目に働いているということだった。

正直にそれを口にした時に「お前とは違うんだよ」と言われて何も言い返せなかったことに少し悔しい思いをジャスは味わっていた。

ちらっと聞いたところによると彼はローラルダに代わり、ドラゴンのトップとして色々取りまとめているらしい。

なんとなく武闘派ぽいダリウスに適任だなとサーナと共に納得したのであった。


「おね・・・姉さんとお嬢様は神殿で魔法や竜体での体の使い方を練習しているわ」


「へぇ、ララミーナが教師役か。なんとなくそういうのはルルエンティの役目だと思ってたよ」


隣に座ったサーナもそう思っていたらしくコクコクと首肯する。

すると突然、プっとダリウスが吹き出したかと思うとこっそりと二人に事情を教えてくれた。


「実は女王様がな、二人ばかりここに遊びに行ってズルイって拗ねちまったんだよ。だから今日は俺ら3人で来たってわけ」


「ダリウス、聞こえておるぞ」


目の前で内緒話をしても聞こえるのは当たり前で、ダリウスもわざと聞こえるように言っているのは明白であった。

仲の良い主従である。

ローラルダは恥ずかしそうにコホンと咳払いを一つして顔をそむける。


「ま、そんなわけでこっちが平和な内に遊びに行こうって話になったんだよ。もしかしたらこの街もなくなるかもしれないしな」


「縁起でもないことを言うものじゃないわよ」


ルルエンティに嗜められてバツが悪そうに首をすくめるダリウス。

そんな彼におずおずと消え入りそうな声で声がかかった。


「あの・・・今の、どういう意味ですか?」


サーナの引きつった表情を見てダリウスは慌ててジャスの方を見た。

その視線の先でジャスはあちゃーとばかりに手を顔に当てて首を振る。


そう、ジャスはサーナに人間世界が危機的状況であることを言っていなかった。

当然、それはリオン達が無事に魔人達を討伐できるという信頼からであり、それならば余計な心配をサーナにかけさせる必要もないという判断からであったが。


「いや、あのな。深い意味はないんだけどな?」


「深い意味もなくこの街がなくなることなんてないですよね?」


しどろもどろになるダリウスに静かに詰め寄るサーナ。

その姿は快活ないつもの彼女ではなく、仕事モードの時のような感情の起伏の少なさが逆にそこしれぬ迫力を引き出していた。


「なんというか、だな。あ〜・・・ジャ、ジャス!任せた!」


文字通り両手を上げたダリウスがサーナの隣に座るジャスにお鉢を回す。

その様子に心底呆れたように深いため息を吐き、ジャスはよく見ると不安そうに瞳を揺らしている看板娘にまっすぐ向き直った。


「実はね、サーナちゃんに心配させないために黙ってたんだけど・・・」


ジャスは今の状況、魔人達が魔王復活を目論んでいること。

それに対応するために勇者パーティの4人がそれぞれ戦力を率いて制圧しようとしていること。

セドールは魔人のアジトがないため、とりあえず危険度は低いことなどをかいつまんで説明した。


魔王という名前が出た時には顔色がサッと青くなったサーナだったが、ジャスの話が進むにつれて徐々に落ち着きを取り戻していった。

最終的には安堵した表情も通り越して、目を吊り上げたお怒りな表情になってしまったが。


「なるほど。なーるほど。よくわかりました。確かに私は何も出来ませんし、店長が気遣って内緒にしてくれてたんでしょうけど、仲間はずれはどうかと思います」


「それについては謝るよ。でもほら、知らないほうが良いことって世の中にはいっぱいあるからね」


本当のことを知って余計な心配をかけさせないという大人の事情は理解できるが、自分だけ知らなかったのは納得できないという複雑な心境。

それにサーナには怒っている大きな要因が一つあった。


「それはわかりますが、友達が危険なところに行くのに無事を祈ることもダメなんですか?」


友達というのは言うまでもなく賢者チェルロッテと勇者リオンのことだ。

世界を救った英雄の二人に、ただの町娘である自分が祈った所で塵一つ分の足しにもならないだろうが、それでも何かしたい。

それを我儘と切り捨てることはジャスには出来なかった。


「確かにサーナちゃんの言うとおりだ。隠してたことは全面的に俺が悪い、ごめんね」


「いえ、店長が私のことを案じてくれてたのはよくわかりますので。我儘を言ってしまってこちらこそごめんなさい」


二人揃って頭を下げる。


顔を上げたサーナの顔は、もうモヤモヤとした怒りは完全に消え去ったのか少し照れたような笑顔だった。

その様子を口を挟まず静かに見守っていたローラルダとルルエンティは、微笑を浮かべながら頷きあう。

柔らかな雰囲気に包まれた店内に、しかし、わざとなのか空気を読まないのかダリウスの明るい声がそれを霧散させた。


「とりあえず一件落着だな!勇者達の強さを考えたら魔人達に遅れを取るなんてないだろうしよ。あ、そうだサーナちゃん、なんか美味しいお菓子とかない?」


足を組んで椅子でふんぞり返りながら「良かった良かった」と破顔している。

窘めようと口を開きかけたルルエンティを手で制すると、サーナはにこりと笑顔でダリウスに謝罪した。


「ダリウスさんにもご心配とご迷惑をおかけしました。でもですね、私の心配事はダリウスさんがチェルちゃん達に力を貸してくれたら解決するんですよ?」


「あのねサーナちゃん、オレらは人間の争いに無闇に関わっちゃダメなわけ。だから悪いんだけどそれは出来ねぇの」


「やっぱりそうなんですね。今までの皆さんの口ぶりからそうじゃないかと思ってました。では!残念ですが!ダリウスさんは今日のお菓子は無しですね!」


サーナは言葉とは裏腹にニコニコと手をポンと叩きながら言い放つ。

対してダリウスは一瞬呆気にとられたが、すぐに慌ててサーナに詰め寄って反論する。


「いやいや!何の関係があんの?何で急にオレのお菓子が無くなったんだ?」


「え?だってダリウスさん言いましたよ?人の争いに関われないって。実は今日のお菓子は4つしか無いので奪い合いの「争い」の予定だったんですよ。人間の私や店長と、ね」


争い、という単語をゆっくりと強調しながら笑顔を崩さないサーナ。

誰がどう見てもただの八つ当たりなのだが、お菓子を取り上げられたら堪らないので他の3人は我関せずと余所を向いていた。


「おい!ちょっと待てって!そんな事言ったら女王様やルルの奴も一緒だろ!?」


二人の古代竜を指差して必死に反論するダリウス。

彼らにとってのお菓子というものがどれだけ大事なのかということをよく現していた。

指さされた二人は視線をあさっての方に向けたまま、


「わ、妾は何も言っとらんし」


「私も」


と完全に情け容赦無くダリウスを裏切った。


「だ、そうです。なのでダリウスさんはお菓子抜きですね」


「お、オレが何をしたって言うんだ・・・」


がっくりと肩を落としてポツリと悲しげに呟くダリウスだったが、後に「冗談ですよ」とサーナからお菓子を恵まれて感動のあまり涙を流したのであった。


その際に漏らした「貴女が神か」という呟きに皆が吹き出したのは言うまでもない。



魔人討伐作戦決行まで、あと「10日」

最後の日常話です。

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